開幕・白き花壇
辺り一帯が、純白の白…
そこは、美しき花に覆われた「白い花壇」。
そんな花壇の上を…「二人の少女」が走っていた。
一人は赤髪の少女、もう一人は白髪の少女。
「何か」から逃げるよう…ひたすら走り続ける。
赤髪の少女は駆けながら、後ろの少女(白髪の少女)を励ました。
「もうすぐだよ。がんばれ!」
駆け抜ける度、白い花弁が宙を舞い。
そして、追いかけてくる「男」が一人。
男は、息を荒らしながら、小さな二つの背中を追いかけた。
その者(男)の胸ポッケには「注射器」らしき道具…
「聖なる心は~華にありぃ~」
意味不明な歌を奏でながら、男が全力疾走してくる。
きっと、捕まったなら最後。
ロクでも無い事を、されてしまうだろう…
だが、白髪の少女は、すでに体力の限界であり。
走りながらも、苦し気に息を切らしていた。
そんな彼女の手を掴み…赤髪の少女は、懸命に周りを見渡す。
すると、一本の木が、二人の到着を待っていた。
変哲のない普通の木、二人は、そこにめがけて走り続ける。
だが、このとき…
白髪の少女が、膝をガクリ…と落としてしまった。
どうやらもう、体力の限界のようだ。
ズサァ…
その白髪を揺らし、花の絨毯に膝をつく。
「ユラリ~ユラリ~還りさぁ~くぅ~」
男の奇声が、耳元にまで迫ってきて…
少女の髪(白髪)を、捕えようとした。
そのとき…
赤髪の少女が、男の懐に体当たりをした。
その勢いに、相手(男)の体勢が崩れてしまう。
瞬間、白髪の少女は見た…
「一個の注射器」が、男のポッケから零れ落ちるのを…
男は、ユラっ…と体制を、持ち直してから。
血相を変えて、赤髪の少女を押し倒した。
「我らが、シュ~タハ~ス♪舞い降りるぅ~」
不気味な歌を、歌いながら。
怒涛の表情で、彼女の細い首を、強く締め付ける。
自分を庇った彼女(赤髪の少女)を、助けようと…
とっさに、白髪の少女は、駆け寄ろうとするが。
「来ちゃダメ!いって、はやく!」
彼女からの怒声を受け、白髪の少女は、再び脚を進めてゆく。
目前にある、あの一本の木…
その向こう側にて、小さな穴が開いている。
わずかに開いた、この隙間こそまさに。
二人がめざした「抜け道」だった。
白髪の少女は、その黄金の瞳で、抜け道を見据えた。
そして、鈴のような声一つ呟く。
「ふぅ」
男は残酷な笑みを浮かべながら。
彼女(赤髪の少女)の首を、無慈悲に締め付けてゆく。
やがて、少女の表情から、活力が薄れてゆき。
白く細い手が、純白の絨毯の上に、ポトリと…落ちた。
彼女の静止を確認すると…
男はすぐさま、白髪の少女を追いかける。
しかし、どこを探そうとも…もう一人の少女が、見つからない。
それも当然のはず。
もうすでに白髪の少女は、抜け道の奥へと、姿を消していたから。
男の額に、冷たい汗が流れる。
どうやら、ひどく動揺しているようだ。
「三十~七号!!」
何かの番号を叫びながら、荒々しく暴れ回る。
その傍らにて、赤髪の少女が静かに、転がっていて。
静かに眠る、その様は…
純白の絨毯に広がる、血痕のようだった…