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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第六部 命と鎖と戦争
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第99話 其の無備を攻め、其の不意に出づ。



何を言っても無駄なのは理解した。

メンバー的に交渉術の効かない顔ぶれ、勘違いも正す事は無理!



つまり俺は、ブレーキの壊れた車で、アクセル踏みまくる人達と、無理矢理にでも全員無事に生還させるというミッションに挑むって事である。


こ、これが仲間だという事なのか!?



あたりは日が暮れ、俺達は、闇の中で丘の上からセイロン国首都を眺めていた。

ニキビーに背負われ、肩越しに首を伸ばし、その恐ろしい景色を目の当たりにし、言葉を失う。



ああ……。

なんて、壮観なんだ。



丘の上から見えるのは、闇の中、光に浮かぶ巨大な都市。

茶褐色の石造りで堅固そうな城壁と、その門の外に溢れているとんでもない数の兵。

何万もの松明の赤い光が不気味に蠢いている。


フタン国の城壁は規格外の大きさだったが、この国も十分立派な城壁だ。

山岳を背にした街の中心には、塔がいくつも建ち、中世ヨーロッパにあるような、見事な風格の城も見える。


首都全貌を眺めながら、俺の口からはため息しかでない。


この首都を落とすのは、どう考えても難しい。

例え追い払ったカンパニー五万の軍がいても、どれだけの被害を出せば攻略できるのか。


戦争……か。

考えるとやはり恐ろしい。



俺は諦めて、ニキビーにおんぶされながら叫ぶ。



「ハルカ! セイロン国についての情報をくれ。作戦を考える!」



「うむ!!!」



ハルカは、目を光らせて頷く。

俺はその反応に軽く驚く。

この状況でヤル気満々かよ。



「リョ、リョ、リョウスケ殿、で良いのか? いや、またリョウスケ殿と呼んでも?」



「い、今さらだぞ!?」



「そうだ、リョ、リョウスケ殿? 出国前、戦争のためにセイロン国についての資料は読まなかったのか?」



字が読めないし、意識もなかったとは言えず、俺は、ただひきつった笑顔で頷く。

とにかく早く。

情報収集(データコレクション)が必要だ!



「また、あの時のように何も知らないのだな……。それでも、リョウスケ殿は……いや、分かった。知りうる限りの話をしよう」



ハルカは一人で勝手に頷いて、語りだす。



・人口約100万人、国は低い山や荒野が多く、貧しい国。

・首都は国のほぼ中央にあり、名はセイロンヘブン。

・50年ほど前にクーデターにより、政権交代している。

・新王は、まだ若く、国民からの支持も厚い。

・カンパニーの荷物を積んだ馬車を襲い始めたのも、50年前から。間違いなく、セイロン国の正規軍。

・こちらからの抗議文書や使者は全て無視され、無駄に終わっている。

・よってセイロン国に対し、武力による制裁を与える為、リョウスケ工場長の了承を得て戦争となる。

・セイロン国の兵力は約2万程度と推測されている。



「成る程ね。そういう感じか」



と言いながらも、特に突破口は見えない。

ハルカの情報は、表面だけの概要だ。

詳細な情報収集(データコレクション)が必要だ。


しかし、二万?

俺はローブから頭だけ出して魔力感知をしてみる。

この見た感じと魔力……。

帰っていったカンパニー軍と、同じ程度の兵力だと思うが……。



「リョウスケ殿。敵は我々の軍勢の動きを察知し、慌てて戦争準備をしたのだろう。まさか、その殆どのカンパニー軍が国に戻ったと知らずにな。よって、二万人対五人の戦いになる!」



“にゃん! 吾輩が、数に入ってないにゃ!“



いや、入ってないの、多分俺だから安心しろ、猫。


キョッキが、ふいに大笑いする。



「漆黒? 何も知らないで戦争を止めようと? くっくっ! やっぱりお前は変だ! 面白い!」



ちっ。

面白くない!



「ハルカを助けた時といい、俺に斬られた時といい、ここまで理解できない奴は初めてだよ!」



は?

俺は、お前も理解できないが?

何故、仲間に入っている?


余裕綽々の、見とれそうなイケメン横顔。

流し目で、俺を見るな!

おまけにハルカに上着を貸しているから、その見事なスリムマッチョな肉体美が神々しい!

やはりイケメン王子様で、風格も違いすぎて、今の自分の惨めな状態も相まって、負け犬みたいな感情が胸をよぎる。


……まぁいい。

キョッキが仲間だというのは、今は頼もしい。

ハルカがいるから協力してくれるだけなのだろうが。



「ハルカ、王はどんな奴だ? 」



ハルカは、腕組みして答える。



「反乱により新王となった者について、詳しくは知らないが、名はヘーゲル。民からの信頼は厚いとか。反乱は、民の後押しもあったという事だから、成るべくして成った国王、という事だろう」



キョッキも腕組みし、厳しく言う。



「国を乗っ取った奴だ。とんでもなく腹黒いか、力があるのか、とにかく舐めてかからない事だな」



ちっ。

舐めてるいるわけがない。

国王ヘーゲル……か。

結局、その程度の情報(データ)じゃ、何も分からないに等しいんだが。


この身体で、俺はどうしたらいいのだ?

戦争を止めるとは言ったが、これは流石に無理ゲーってやつか……。



ハルカが、鎧の無い着物だけの姿で胸を叩く。



「リョウスケ殿は、何もしないでよい! 我々、仲間(・・)が、指示通りに戦うぞ!」



仲間を強調し、どや顔するハルカ。

アリスも、賛同して声を上げる。



「そうよ! 私達に任せて!」



ニキビーも俺をおんぶしたまま、その場で足踏みして見せる。

お前もヤル気満々なのかよ。



“やっぱり仲間にゃん! 頼りになるにゃん!“



猫がしなやかに跳び跳ねる。



このビミョーな気持ちはなんだろう?

嬉しくない。

全ったく、だ。

ニキビーにおんぶされ、頼らざるを得ない状況に追い込まれた感は、気のせいではない。

おまけに、この敵勢……。


俺たちの上には満天の星空。

俺は目を閉じ、高速思考を開始する。

こうなれば、孫子の兵法先生に、何とかしてもらうしかない。



ハルカは、そんな俺に言う。



「1000年前も、この国は我が国の輸送隊を襲い、戦争になった。その時とまるで同じ状況だな」



「ん? ああ、そんな事言っていたな」



1000年前、前工場長シュバルツの指揮により、戦争に勝ち、安全協定という一方的な契約を結ばせたという話か。

その時と同じって、この人数差は全然状況が違うと思うのだが。


俺はハルカに聞く。



「当時、二度と襲えないように協定を結んだんだろ? どうせ魔法契約で、破れない都合のいいルールを作って。しかし何故また、同じ事が起こっている?」


魔法契約があれば、カンパニー荷馬車を襲うなんて不可能だ。



「恐らくは、反乱が起きたから、だろうな。我が国が締結した当時の国王一族はいなくなり、魔法契約効果は消えてしまったのだろう」



成る程ね。

1000年も経てば、そりゃ変わる。

国土も国名も同じだが、中身は既に当時とは他人という事か。

国王ヘーゲル……か。

全くいい迷惑だ。

クーデターして、おまけに他人の荷物を強奪するとは、どんだけ自己中なんだ?

同じ事を繰り返すな!


俺達は丘の上から、首都セイロンヘブンと、広がって蠢く敵勢を眺める。



ここからだと、夜とは言え人の動きがよく見える。

街の中は、避難していく住民たちが蟻のように移動しているのが見える。


そして、城壁の門から外に溢れる兵達は、戦争のために陣形を取り始めている。


鶴翼(かくよく)の陣。

左右に翼を広げたような、中央に大将を据えて、翼をとじるように敵を包み込む陣である。

魚鱗(ぎょりん)の陣と同じく定番の素晴らしい陣だ。


きっとカンパニーの軍団を迎え撃つべく、国中の戦える人間を、農民も商人も含めて城壁前に終結させて、陣をとっているってところか。

そうでなければ、貧しい国が、推定二万どころか五万近い兵力を用意できるわけがない。


いや、それにしては、統率された陣形……。

強い魔力……。

何故、こんな貧しい国に、想定以上の兵がいる?


会話しながらも、同時で高速思考と孫子の兵法先生も動かしていたが、俺はますます重いため息。

解析(アナリシス)すればするほど、状況が厳しいと言わざるを得ない。


理由1.

崖山を背にした首都に入る門はたったの一つだけ。

それなのに、城壁前面に、あの横に広い鶴翼の陣を展開されては、街にこっそり忍び込むのは難しい。

というか、ここから首都に行くには、身を隠す場所もない。


理由2.

中に入っても住民達が避難でバタバタしているのでは、聞き込みもできないから、満足な情報収集(データコレクション)も難しい。



完全に予想外だ。

街につけばなんとかなるかもと、大甘な考えだった。


これでは、二万、いや五万人対五人をマジでやるしかないのか?


それは危険にも程がある……。

このまま障害物のない平野で戦えば、丸見えの状態で、まさに無謀な戦いとなる。


魔力感知による力量差の確認を、集中して更に続けてみる。

この世界に来てから、只の風にしか感じなかった魔力関知は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚に続く新たな第6感覚として、知らぬうちに磨きがかかっている。


少し遠いが、広がった敵軍の中から、目立つ魔力を拾い上げて確認していく。

が、すぐに雑兵ばかりならば、という淡い期待は崩れる。


ハルカ、アリス、ニキビーと同レベルの兵士が何人かいる。

キョッキに勝てそうな魔力は、敵内にはどこにもないが、数が違いすぎるからどこまで通用するか。

それでも、レベルエイトの魔力がいる。

陣中央に、だ。

国王ヘーゲルだろうか。

そして、このねっとりと重い魔力は、かなりの割合で闇魔法が得意な軍隊と見た。



今のところ、いい情報(データ)が、皆無。


ふー。

まいった。

この陣形、この地形……。

それに、仲間の力を……。

持っている情報(データ)で、なんとか解析(アナリシス)をするか。



“にゃん! 吾輩が魔剣になって、キョッキと暴れてくるにゃん! 半分くらいはいけるにゃん!“



俺の高速思考を邪魔するように、猫がアホな事を……。

それじゃ、最後はこっちが全滅だろ?

そんな計算で戦う意味ないからな。



“ならこれはどうにゃん!? ハルカと一緒なら、ライライランブが出来るにゃん!“



ん?

ハルカと猫の合体技か?

強いのか、それ?



“100人くらいなら同時に攻撃されても吹き飛ばすにゃん! キョッキにだって負けないにゃん!“



ほう!

すごいな!


……だが、100人か。

……取り囲まれたら、1000人位はいっちゃうんじゃないか?

……遠距離魔法もやたら飛んでくるだろうし、キツそうだな。



おおよそ、ざっくりだが敵味方の戦力は把握したので、かなり無茶だが脳内シュミレーションは完了した。


ただ、やはりどうにも敵の戦力が引っ掛かる。


不吉な予感。

重要な情報(データ)が抜けているのではないかという不安。

目の前で蠢いている軍勢に、不気味な何かを感じるのだ。



キョッキが、そんな俺を見て言う。



「無謀すぎる戦いだ。普通ならば、あっという間に、両翼に挟まれ、潰される」



ハルカは、そんなキョッキを叱咤する。



「大丈夫だ、キョッキ。リョウスケ殿は、きっと何とかする。さぁ、そろそろ指示をしてくれ! 我々はいつでも準備は出来ている! この闇夜の中、切り込もう!」



俺はそのハルカの満面の笑みに若干ひく。

だから、何故そんなに笑顔だ!?



“みんなリョウスケを信じてるにゃん!“



俺の頬がひきつる。

確か、ハルカは誰かがやられても、前に進めとか言っていたが?



「ふっ。漆黒。こんな戦い、あり得ないと思うんだが、ワクワクするのはなんでだろうな?」



キョッキさんは、バトルジャンキーだからじゃないのか?


はぁ……。

まぁ、いい。

俺は、ニキビーの背中でため息混じりに、ハルカを見る。



「ハルカ。指示を出す前に約束な」



「約束?」



首をかしげるハルカに、強めで俺は言う。



「0だ」


「ぜろ?」



俺は全員を見回して言う。



「絶対に誰も死ぬな」



皆が固まったのが分かった。

だが、俺は、誰も死なせたくはない。

死を覚悟の作戦なんて立てる気はない。

そして、続けて言う。



「そして、誰も殺すな」



今度は皆の目が大きく見開かれる。



「死者0人で、この戦いを終わらせる」



ハルカが、何か言おうと口を開くが声が出せないでいる。


アリスが横から叫ぶように言う。



「無理でしょ! あの数見てる? 誰も死なないなんて、わ、私達も、敵もなんて!」



キョッキが、真顔で眉をしかめて吐き捨てる。



「おい、漆黒。お前、さっきもそんな事を言っていたが、それは理想的過ぎないか? 殺るか殺られるか。弱いやつは死ぬ。こっから先は、そういう戦いだ」



俺はそれに言い返す。



「キョッキ。お前は強いんだろ? 傷を負わせるなとは言っていない。殺すな。さっきも砦で、そういう戦い方をしていたじゃないのか?」



「ちっ。あれはハルカの指示だ。それに規模が違いすぎる。あの軍勢に飛び込んでいけば、そんな手加減は……」


"にゃん! リョウスケはなんでそんなバカにゃん!?"




ここで、ハルカがようやく声をあげる。



「ま、まて! キョッキ! 猫殿! リョウスケ殿が、そう言うかも知れないと、薄々は分かっていたのではないのか?」



俺とキョッキは、驚いてハルカを見る。



「分かっていた?」



ハルカは頷いて言う。



「リョウスケ殿は、そう言う人だ。策はあるのだろう? 誰も殺さないという策が。さぁ、我々に指示を!」



「お、おい? ハルカ、そんなの無理に……」



だがキョッキは、ハルカの真剣な眼差しに言葉を続けられない。


俺は口許を歪める。

なら、仲間の誰かが殺られても、とか言うなよ!


キョッキは鼻で鳴らして首都を指差す。



「ハルカ? よく見ろよ? あの陣形を相手に、障害物もない平野で、囲まれない場所はないぜ? あれだけの軍勢相手に、殺し禁止で手加減しろと?」



「待て。俺は囲まれる気はない」



「は? 漆黒、お前はあの連中がああいう陣形をとっている理由が、分からないのか? 戦争をしたことがないのか? 教えてやろう。あれは……」



俺はそのキョッキに、再度待ったをして声高に言う。

知った上で、言っている!



「キョッキ。其の無備を攻め、其の不意に出づ、だ」


「は?」



首をかしげるキョッキに、説明してやる。



「俺の戦の大先生の言葉だ。あるだろ? 一ヵ所だけ、囲まれず、その無備、という場所がな。まぁ、そこまでは俺が誘導する」



キョッキは、俺の言葉を吟味するように口を閉ざす。


敵の軍勢を見下ろしながら思案する様は、盗賊団の首魁だった者の凄みを感じさせる。

大群を率いた戦いの経験値が桁違いなのだろう。


だが、首都を眺めて、首を振る。



「何を言ってるのか分からないが、あの数とあの陣形を相手に、それは不可能だ。だが、俺達が勝つには、それしかないだろうな」



アリスが、俺とキョッキの間に割って入る。



「ど、どう言う事!? 囲まれないで戦えばいいの???」



キョッキが、大きく息を荒げる。



「アリスといったな。ようは、囲まれたら負けなんだよ。漆黒のいう、囲まれずに戦える場所があるんだったら、いい勝負ができる。一度に相手する数を制限出来るからな」



「よ、よく分かんないよ! だ、大丈夫なの? リョウスケ?」



俺は頷いてアリスを見る。



「アリス。改めてだが、俺は戦争する気はない。誰も死なせたくない。だから、キョッキの言ってる勝ちとは違うが、まぁ戦争を止める為に、先ずは囲まれないように戦うことを目指すってとこだ」



アリスは、青い頭を抱えてしまう。



「ぜ、全然分からないよ、リョウスケ。私は何をしたらいいの???」



「アリスは、何もしないでいい。俺の側にいろ」



アリスには、ソフィア召喚という奥の手がある。

使うつもりはないが、状況次第で……とはアリスには言えない。

ソフィアは、俺だけの内緒なのだ。



「アリスは、出来るだけ、魔力を温存して、怪我をしないように」



アリスは、不満そうな顔で頷く。



「……わかった。私はリョウスケから離れないからね! 私がリョウスケを守るの!」



「はいはい」



まぁ、まだ情報収集(データコレクション)が不足しているが、概ね策は出来た。



“にゃん? ホントに大丈夫にゃん?“



多分な。



“リョウスケは、多分が多いにゃん……”



「じゃぁ、行くぞ! 出発!」



俺達は暗闇の中、丘を駆け降りると、首都セイロンヘブンへと進軍を開始する。


直ぐに敵軍に完全に見つかってしまうだろう。

だが問題ない。


敵軍と正面から激突するのは、三分後、といったところだろうか。


仲間達に策を伝えるのは、その三分間で充分である。



「おい、漆黒、先ずはどの方向に向かうんだ。このまま真っ直ぐに進んだら……」



俺は、揺れるニキビーの背中にしがみつきながら叫ぶ。



「ニキビー! 先ずは、陣の中央に切り込むべし!」



「「「はぁ!???」」」





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