↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第六部 命と鎖と戦争
91/162

第91話 アリスプロローグ。



──アリス。

──忘れるなっけ。


──我々は、リョウスケ殿に、救われたっけ。

──誰も気がついていないげ。分かっていないげ。

──理解出来ていないげ。


──わげらは、あの男に返しきれぬ恩を受けたのだ。


──我が王国は、例え世界中を敵に回しても、リョウスケ殿を裏切ってはならない。わげら全ての者が死に絶えるその時まで、あの男を支援するげ。


──マジック・カンパニーは悪魔の国。


──気をつげるげ。

──何かあれば、わげらに連絡を。

──リョウスケ殿を守るげ。





私はアリス。

私は、リョウスケを絶対に守る。


……なのに!

……なのに、なのに!



身体中から、汗が吹き出す。

心臓が重い。

まるで、見えない手に握られているみたいに。


横にいるニキビーも、同じみたいだ。

鎧の音が、重たそうに隣から聞こえる。



身体の異変に気がついたのは、この役員街に入った途端だ。


整備された道、優雅な建物が並ぶ高級街。

ナインズワームは、中央に本社や事務所棟や教会、重要施設が集中し、その周囲に市街地が広がっている。


その北区画は、役員達しか住む事を許されない役員街と呼ばれている。


神樹が無数に生え、森の中というのは変わらないはずなのに、明らかに私達の住む場所とは違う場所。


この国、何なの?

森に覆われた国土。

その全てが神樹、御神木と呼ばれ、首都であるこのナインズワームも、どこまでも森!


で、でも、この場所は、おかしいでしょっ!?



通りすぎる貴婦人達が、私とニキビーに不振な目を向けてくる。

下層の一般国民が、何しに来たって感じでっ!


私は、必死で何でもないような顔で、重い足を進める。

ニキビーも私に着いてきてくれているけど、何処まで耐えて着いてきてくれるか。

目指すは、リョウスケのいる工場長の屋敷。

色々聞いた話では、役員街の一番奥にあるらしい。

最悪なんだけど!



リョウスケ!

何で工場長にいきなりなってるのっ!?


私は、リョウスケを守らなきゃいけないの!

顔を見るのも出来ないんじゃ、守れないわ!



工場長は、この国で最高位。

対する私やニキビーは、課長候補でまだまだ一般国民階級。


この差は大きい。

一般国民は、役員国民に逆らう事は出来ない。

それどころか、役員街に入っただけで、この有り様。


か、身体がおかしい。

まとわり付くような重苦しい力。


これ以上、役員街への侵入を許さないとでもいうように、強まっていくのは気のせいじゃない。


多分、あの契約書……かも。



訓練生から社員になった時に書かされた契約書を思い返す。


細々と階級の特権、規約が書かれ、ようは下の者は、上の者に逆らう事も、言葉を自由に発する事も、出来ない。

魔法契約で、その規約は完全に魂に刻まれて、それを破れば、命を落とす。


この身体の異常は、階級が低い者が、この区域に来ちゃいけないっていう契約違反の警告(ペナルティ)!?

ここまで、するの?


本当に、この国って変!


じゃぁ、私が工場長になったリョウスケと、呼ばれもしてないのに会ったり話をしたら、どうなっちゃうわけ!?

その場で死んじゃうの!?


そんなの、嫌!


会いたい!

会わなくちゃ!

わ、私は、リョウスケを、この悪魔の国から守るのよ!

お母さんに、言われたんだもの!



その時だった。

高らかなラッパの音が鳴り響き、道の向こうから、白く光を反射させながら馬に乗った騎手達が姿を現した。


私は、顔を上げて目を凝らす。


あれは、ナインズ騎士団!



その先頭は、光輝く身体の大きな騎士。


あれってっ!

騎士団統括団長……!


私は、騎士団統括団長様の圧倒的な圧力に、魂ごとねじ伏せられていくのを感じた。


そして、ニキビーと共に、道の端に(ひざまず)く。


自分の意思なのか、別の力なのか、全然分からないまま、身体が、勝手に動いてる。



こ、怖い……。

何でこんなに怖いの???

それに何で身体が、勝手に動くの???



汗が吹き出す。

身体が震える。

ただひたすらに頭を下げ、自らを地に等しい存在に貶める。

膝に食い込む石なんかどうでもいいくらいに、地べたに這いつくばる。


自分が、理解できない。

な、何してるの?

私は???



ますます、胸の圧迫が激しくなる。

身体中が太鼓のように脈動し、激痛が走る。


私とニキビーの前を、次々に通りすぎていく重々しく騒がしい馬の嘶きと蹄の音と、鎧の金属音。



こ、怖い……。

苦しい……。

も、もういや!!!

お母さん!!!


……。



「もしかして、アリス殿とニキビー殿か?」



ハッとして顔を上げると、馬に乗った騎士がいた。


でも、そのお方はやはり間違いなく役員国民!

私は、慌ててまた顔を伏せる。



「やっぱりアリス殿とニキビー殿! こんなところで何を?」



私は、ひれ伏したまま、その声の主に思い当たる。


ハルカ……様だ。

騎士団長様?

ハルカ……様は団長様になられたのか!?

え!?

『様』とか勝手につけてるのはなんで!?




「ハルカ、急に馬を止めるな。早く行くぞ!」



続いて聞こえる男性の声は、……キョッキ?



「ハルカ、漆黒はとっくに行っちまったんだろ? 何考えてるんだか知らないが、早く追い付かないと、勝手にアイツ、おっ始めるぞ!?」



漆黒って、リョウスケ!?

とっくに行った?

おっ始める?



私は、咄嗟に身体を起こす。

その途端、今までにない激痛が走る。

痺れていく四肢。

悲鳴を上げそうになるのを圧し殺して、私は必死で顔を上げる。



やはりそこには、ハルカ……様とキョッキがいた。

馬上で私を見下ろしている眩しい銀の鎧に身を包む金髪の騎士団長ハルカ……様。

そして、相変わらずの白い着物姿のキョッキ。



「アリス。すまない。久しぶりと言いたいところだが、我々は直ぐに行かねば……」



私は、鎖のように絡み付く呪縛と戦いながら、声を絞り出す。



「リョウ……スケ……は、ど、こ、に、……行ったの? な、何を?」



言葉を発しながら、私は契約違反の罰を身体の隅々で受けていた。

骨が軋み、肉の避ける音が体内から聞こえる。


けれど、胸が騒ぐ。

リョウスケが、また、危険に飛び込もうとしているのかもしれない。

だったら、私は、リョウスケを!


ハルカ……様が馬を翻しながら答える。



「戦争だ。セイロン国とのな。我が国の荷物を襲い、協定違反を反故している憎き国だ。その制裁の為、とうとうリョウスケ様がお立ちになった!」



ハルカ……様は、それだけ言うと、私に背を向ける。


ちょっ、ちょっと、待って!

私は、声も出せず、必死でハルカ……様に手を伸ばす。

キョッキが吐き捨てるように言う。



「あの野郎、屋敷には確かにいなかった! 勝手に出発って、おかしくないか!? 普段の格好のままなんだろ?」



ハルカ……様が、たしなめるようにキョッキを睨む。



「キョッキ! リョウスケ様は、平和は剣によって守ると既に意思は表明していたと聞く! それに出発前に舞を踊ったともな!」



「舞を? なんだ、そりゃ?」



「恐らく、戦の勝利を祈願し、舞を神に捧げたのだ! では失礼! 我々は、行かねばならないっ! はぁっ!!!」



私は、もう口を開くことすら出来ずに去っていく二人を見ていた。


騎士団達の姿が消えた途端に、呪縛から解き放たれたようにその場に崩れる。

ニキビーが立ち上がり、私に駆け寄る。



「だ、大丈夫、ありがとう、ニキビー」



私は、倒れたまま、息も絶え絶えに、歯軋りする。



どうして……。


リョウスケ……!

戦争って!?


私、い、行かなきゃ!



私は、立ち上がり、フラフラと歩き出す。

騎士団の後を追うように。



「……は、早く行かなきゃ」



ニキビーが、何も言わずに私の脇を支えてくる。



「ニキビー?」



ニキビーは言葉が話せない。

リョウスケだけ、ニキビーと、何て事もなく意思を交わす事が出きる。


でも、私だって、段々ニキビーの考えている事が少しは分かるようになってきた。



「ニキビー……。リョウスケ、セイロン国だって」



ガシャリと頷くニキビー。



「戦争だって……」



ガシャリ。



「また、一人で無茶苦茶だね、あの人」



ガシャリ。



「……行く?」



……ガシャリ。



「あ、明日も仕事……。でも、仕方ないよね。リョウスケが悪いんだし……」



ガシガシャ!



え?

笑った?



ニキビーが、私の頭をナデナデしてくれる。


私も苦しみを忘れて、思わず微笑む。



じゃぁ、行きましょ!!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。