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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第五部 マジック・カンパニー
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第76話 プロローグ① 1000年前



プロローグは、???&リョウスケ&ハルカで3部構成となります。

ここから先、仕事色が強めになりますが、今後もよろしくです!



すぐ目の前には、誰もが畏怖する黒い(まなこ)があった。


魔眼。

魂が吸い込まれるような漆黒の瞳。



「どうしたサクラ?」



私はハッとして慌てて答える。



「い、いえ! 何でもないでしゅ!」



工場長は漆黒の目を細めて微笑むと、私から顔を離して、また前を見た。


周囲には鎧姿の騎士達。

馬の嘶き、鎧の擦れる金属音、時折何処かで起こる鼓舞の声。

第9エリア遠征軍の熱気は、はち切れんばかり。


全員が、工場長と同じ方角を見ている。

目指していた敵地は、すぐそこだ。

左右に陣は広がり、三万を越える兵が士気を上げて号令を待っている。


私はその空気に飲まれ、ただ工場長の背を見つめたまま、立ち尽くしていた。


工場長の様子は、その中で、いや中心なのに、異様なくらいにいつも通りだった。

柔らかい雰囲気を身に纏い、ゆったりと戦局を眺める工場長の後ろで、私はただ立っているだけだ。


黒いローブの下に、鎧ひとつ身に付けていない。

ていうか、いつもと同じ服装なんだけど……。

大丈夫なの?

あの、いつも着てるお気に入りの真っ黒なローブって、魔道具でもないただの布ローブだよね?

これから、戦争なんだよね?

総大将だよね?


それに私、……本当にこんなところにいていいの?



私は一年前、腹をすかして道に倒れていたところを工場長に拾われた。


助けた理由は、特にないらしい。

意味もなく、孤児の私は助けられたという事だ。


私は工場長と何の関係もないはず、だ。

でも、分かんない。

なんで、この人は、その後も子供の私をそばに置いておくの?

まるで、秘書か親しい部下か、……家族のように。



でも、私は、いえ、ここにいる全ての人達が、工場長を絶対的に信じている。

シルバーグレイの髪をオールバックにし、黒き魔眼を静かに光らせ、遠くの敵地を見つめるこの人を。




敵は、私達の国の輸送隊を何度も襲撃していた盗賊……を操っていたセイロン国。

誰もが盗賊の仕業だと思っていたのに、それを見破ったのは、工場長の魔眼。


その後何度も和睦を得るために、セイロン国へ使者を送ったが全て無駄に終わり、逆に襲撃被害は増加した。

和睦という生ぬるい手段を取ろうとする工場長に、皆、不思議だったのだが、とうとう工場長は兵を集めて立ち上がった。


その本国たる首都が、敵勢が、数キロ先に広がっている。


でも、私達より、どう見ても数が多くない?

もっと、兵を集めてくるべきだったのでは?



「見ていろ。サクラ。そろそろだ」



工場長が呟く。

その魔眼は、全てを見通し、そして操る。



おおおおおおおおっ!


周囲で沸き上がる歓声。

敵地から、次々に紫色の狼煙が細く立ち登るのが見えたのだ。


工場長の言った通り、セイロン国の将軍の殆どが、マジック・カンパニーに寝返った!


私は、思わず口を押さえる。


すごいっ!

分かってたけど、やっぱりこの人、凄い!



「さて。この混乱に乗じてトドメの突撃といきたいところだが、シャドウが遅いな」



工場長が、また振り返って私を見る。

魔眼を柔らかく細めて。

まるで、家族を見るような眼。


私は、慌てて答える。



「シャ、シャドウ工場次長様ですか? まだ戻らないのでしゅか?」



その瞬間、私と工場長の間に、光が広がる。



シャドウ様!?



「お待たせ、マスター。指示通り、確認してきたわ」



何もないところから、湧くように現れるシャドウ様。

いつも工場長と行動を共にする工場次長だ。


この人、本当に人間なの?

ちょっと変人だし、人の体に入れるとか聞いたけど、魔法にそんなのあるの?



工場長が頷き、シャドウ様の報告が始まる。



私はその様子を少し離れて見守る。



綺麗だ。

同じ女性として、憧れを覚える。


シャドウ様の周囲に漂う紫色の胞子みたいな光。

髪も、睫毛も、唇も、切れ長の眸も、爪先も、シャドウ様は青紫色に染まっている。

半分魔石で出来てるんじゃないのって位に、人間離れした綺麗な人。

工場長と、……お似合いの夫婦みたいだ。

仕事してるとこ、見たことないけど。



そして、戦いの火蓋がきって落とされる。

結果の見えた、分かりきった戦いが。



工場長は、いつもそうだ。

何もかも、運命すらこの人は魔眼でねじ曲げ、思い通りに変えてしまう。


この戦争も、ただ当たり前に私達の勝利で終わるのだ。


始まる前から。

これから先も、その先も。

工場長の魔眼が、何もかも、決めてしまうのだ。




───。


───。


───この記憶は、赤星暦何年何月だったろう?




「サクラ。お前にお願いがある」



ある日の事だった。

それはなんの変哲もない日だったから、私は、それがいつだったか、忘れてしまっていた。


場所も、覚えていない。

いつも二人で散歩していた森の中だったか、夕食後の何でもない時間だったかもしれない。



本当に何でもない日に、工場長が私にある頼み事をした。



「もし、私の息子がサクラの前に来たら…………。頼めるだろうか?」



「え?」



息子さん?

私が?

そんな力、私にはないと思うけど?



「前から話していただろう? 私の息子だ」



私は、頷く。


工場長の故郷は遠い遠い国と聞く。

そこに息子さんが一人いるのは、工場長から時々聞いていた。



「とても頭のいい息子さんでしゅね?」



工場長が破顔する。

息子さんが本当に好きなのだ。


時々、私にだけ、色々と昔の話をしてくれる。


シャドウ様も知らない、工場長の故郷の話。

だから、私は、勝手に二人だけの秘密ってことにしている。

意味不明な言葉が多いから、相槌しか打てないんだけど。



「私に、息子さんだって分かりましゅか?」



工場長が、また笑う。



「分かる。分かるとも! なにせ、私の息子は、特別なんだ」



「特別? 特殊能力持ちでしゅか?」



珍しく大きな声で腹を抱える工場長に、私は赤面する。

な、なにか私は変な事を言っただろうか???



「いや、まぁ、そんなところだ。とにかく、特別だからすぐに分かる」



はぁ。

私は、頷く。



「それで、私の前に現れるのはいつ頃でしゅ?」



「まだなんとも……。いつになるやら。色々と異世界召還は、条件が厳しい」


「イセカイショーカン?」



まただ。

時々、工場長は私の知らない言葉を使う。



「時空間の影響で、100年先か、1000年先かもしれん。そもそも失敗する可能性も、ある」



私は、それを聞いて驚いてしまう。

工場長が、失敗する?

魔眼を持つ英雄が?

既に工場長の話の内容は、私の理解を越えていたから、ただ首を捻る事しか出来ない。



「工場長は、失敗しないでしゅ!」



工場長は、何も言わずに苦笑いを浮かべる。



「まぁ、おそらくは、息子は腕に黒い腕輪をつけている。……私の愛着していた腕時計をトリガーにし……それを身につけた時に……」



意味が分からない。

工場長のお願いは、私には理解できない。

この話も、どこまで冗談なのか本気なのかも。

それに、そんな頼み事、私には大任過ぎる。

でも、私はとりあえずはいつものように、分からないまま相槌を打っておけばいい。


そうすると、工場長は、私にだけの特別な笑顔をくれる。



「腕時計に色々と仕込んでおかないと……」



まだ何か独り言をしている工場長に、私は元気よく答える。



「はい、分かりましゅた。とりあえず、息子さんがきたら、工場長のお願い通りにしましゅ!」



意味が分からないけど、そんな力は私にあるはずないけど、まぁ、いいや。



工場長は、私の桃色の髪を優しく撫でて、満足げに頷く。

首元の銀のチョーカーが揺れる。

そして、特別な笑顔を見せてくれる。


微笑みを浮かべ、それから魔眼を細めて、私を見つめてくれるのだ。

──まるで、家族のように。



「ああ。よろしく頼む!」


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