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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第四部 名医漆黒と水の国の女王
73/162

第73話 良い知らせと悪い知らせ。



扉を開けると、一斉に部屋の面々が、ギョッと俺達を見る。


ノックもせずに、呼ばれてもいない俺達に、驚いているようだ。

だが、それ以上に横で硬直しているアリス。

まったく。


反対に俺は目を見開いて、素早く第二の前室内部を視界に納める。



──瞬間記憶。


室内の広さ、装飾は、既に一度通って知っているので割愛。


テーブルの一番奥に、マントを着たトカゲ男。

こいつは確か、アリスを捕らえようとしていた奴だ。

王様かと思ったが、実際は気が利く宰相といった立場か。


そして、問題の九人の姫達。

皆、色とりどりのドレスを着て、髪も肌も色とりどり。

そしてやはり、皆、トカゲ。


護衛の衛兵の姿もなく、武装もない。

それでも魔力が高い連中がこれだけ揃うと、室内の魔圧は膨れ上がっていて、身体を前倒しに踏ん張らないと、のけ反りそうだ。



「な、何者ですのっけ!?」

「きゃぁ!」

「どうやってこの部屋に!?」

「会議中ってわかってるのけ?」

「……」

「アリス!? あなた何でここに来たっけ!?」

「ちょっと、衛兵達は何してるけけ!」

「な、なんなのけぇ!?」

「あなたは!?」



俺は姫達の声を聞き流し、解析(アナリシス)を進める。

そのドレスの種類で、マッピング中に二階の部屋の荷物からプロファイリングした情報と結びつけていく。



クローゼットにあったドレスの色や形やサイズは、全て記憶している。

一応言っておくと、別にじっくりと調べたとか言うのではなく、瞬間記憶しているだけ、だ。


普通に朝に着替えてそれを着ている訳だから、各部屋の住人が誰なのか紐付けは容易だ。



一番手前で何も言えずに俺を見ているのが、部屋に沢山の本を並べていた本好き姫か。魔力も低めのレベル4。

黄色い顔に、大きな黒目が結構可愛い。


その隣は護身用のナイフやらペーパーやらを隠し持っていた臆病姫。こちらもレベル4。

顔は鮮やかなエメラルドグリーンで、まぁ愛嬌はある顔つき。


ん?

……最初はみんな顔が同じにトカゲに見えてたが、微妙な違いが分かるようになっているぞ、俺。



それから部屋にチリ一つない綺麗好き姫、その反対に散らかしっぱのずぼら姫、そしてのっぽ姫、お菓子大好き姫、男勝り姫、人形収集姫……。


そして、マント男の横で一番しかめ面をしているのは、実は下着が一番エッチ姫か。


ちっ!

この姫には期待してたんだが、一番年増でシワシワじゃないか。

どうしても下着がエロいと、つい期待しちゃうのが男の(さが)

いや、生物学的に女とか言う前の問題なんだが。



ん?


俺はある事に気がつく。

部屋の並びが、魔力が高い順なのか。


偶然ではないだろう。

礼儀って奴だ。

魔力が高い姫の部屋を奥にしたって事は、後継者順位は、恐らく魔力順。

魔力が全ての世界、やはり格付けは魔力か。



俺は改めて、テーブルの姫達を全員一瞥する。

下着が一番エッチ姫が、レベルセブンで後継者順位第一位。

ここにいる全員を束ね、アリスを騙した首謀者である可能性が大、だな。

そして、本好き姫と臆病姫、男勝り姫、が最下位。



解析(アナリシス)を終え、室内全員の把握は終わったが、さて、どうするか。


と思ったら、その下着が一番エッチ姫が、しかめ面から表情を柔和に一変させて立ち上がる。



「これはこれは、もしかして、トーリスガリーノ様でございますか? 初めまして。私、エリー・フターチと申します」



ペコリと優雅にスカートの裾をつかみ、会釈をする下着が一番エッチ姫。


部屋に入る前に聞こえた、会議をしきっていた女の声と一致。

プロファイリングでは、派手な色の下着を好む女性は、バイタリティーに溢れ行動的。知能も高いという結果も出ている。

やはりこいつが、首謀者と判断。



思うところはあるが、取り敢えず俺はうやうやしく膝まずく。



「突然の無礼をお許しください。姫様方。私、トーリスガリーノ・タビビトと申します」



もうこの際面倒なので名前は諦める。


すると、俺の下手に出た態度に安心したのか、下着が一番エッチ姫は、今度は冷たく厳しい声を俺とアリスに飛ばす。



「無礼とは分かっているようですね。この部屋は、女王様の前室。突然の侵入、許されるものではありませんよ」



俺は更に腰を曲げて胸に手を当てる。



「失礼しました、姫様。我々、女王様が病気と聞き、馳せ参じました次第です。お許しを」



俺の言葉に、部屋にいる姫達が息を飲む。


女王が病気だと俺は知っている。

さて、どうする?

が、下着が一番エッチ姫は動じない。



「そうですか。これはこれは。しかし女王様が病気というのは確かですか? まだ昨夜にお救い出来たばかりで、女王様は衰弱しておりますので、今のところは面会をお断りさせてもらっている次第なのです」



成る程な。

さっきはもってあと一日とか言っていたが、適当な事を言って、俺達を追い出そうって魂胆か?

時間を稼がれれば、女王の死は確定的になる。



「私達も()()にでも女王様の体調を確認をさせてもらおうかと思っています。申し訳ありませんが、今日のところはお部屋でお待ちに……」



明日じゃ遅いっつーの!!!


いきなり事を荒立てても良いが、俺は慎重に行動を起こす。


俺は────下腹に力を込める。



────ぎゅるるるる! くぐう~!!!



途端に、俺の腹が、失礼な音を立てる。


腹の虫だ。

とにかく、断食しすぎた。

ずっとご飯を食べてないし、そして姫様達のテーブルには、美味しそうな食べ物が並んでいるから仕方がない。

俺の腹は、かなりのところまで追い込まれているのだ。

腹が減りすぎて減りすぎて、腹の虫はいとも簡単に鳴りまくる。



言葉を失った下着が一番エッチ姫。


ふっ。

この手の女が嫌うのは、理屈の通らない失礼な相手。


よって、ぐいぐい行くだけだ。

俺は、テーブルの食べ物にありつくために、礼儀正しく立ち上がる。



「失礼しました。お腹が空いてしまって! あ! そこにある食べ物を頂いても?」


「え?」



下着が一番エッチ姫が返事を返す前に、俺は動く。


ガチガチになったままのアリスの腕を引っ張って、図々しく部屋の中に入ると、許可もとらずに空いている席に座る。

アリスは、どうしていいかわからずに立ったまま。


下着が一番エッチ姫の眉間にシワが寄るのを尻目に、テーブルの食べ物へと手を伸ばす。



「旨そうだ。いただくぞ!」



あえて我儘に振る舞う俺に、姫様達の目が丸くなるが無視。

初めて見る食べ物だから、素手で掴んでいいのか分からないが、サーターアンダギーみたいなクッキーらしき食べ物を手に取る。

そんな俺を、想像通り、誰も咎めもせずにいる。



いつもはこんな礼儀を無視した食べ方なんかしないが、出来る限りの大口を開けてむしゃぶりつく。


──甘い。

ここに並んでいるのは、食事というよりはお茶会的な茶菓子のようだ。

まぁ、美味しいし、本当に腹も減ってるしどんどんイケる。



「いやぁ、美味しいなぁ」



俺は次々にそれを口に運ぶ。

アリスが、俺の失礼すぎる振るまいにアワアワしている。

そして、そんな俺を全員が表情を固くして注視している。



「こ、この辺りの平野特産の小麦を使ったお菓子っけ。美味しいっけ?」



マント男が、ぎこちない言葉をかけてきたが無視。

とことん無礼に徹する。


俺はモグモグと乱暴者を気取りながらも、実は全員の動きを視界に収め、高速思考を展開し未来予測している。


思考負荷は相当だが、仕方がない。

実のところ、この部屋で一番弱いのは俺。

内心、湖に落ちてる時と同じくらいに恐怖で一杯である。



こんな無礼な振るまい、衛兵はいなくても高魔力揃いの姫達の前でやるという危険度は相当だ。

即、首を跳ねられてもおかしくない。

そもそも、初対面の人にこんなに囲まれて、奥手の俺が普通でいられるわけがない!


全員のプロファイリングは済んでいるが、異世界にアメリカで生まれた人物像の特定技法や、俺の心理分析がどこまで通用するか不明なのだ。


そうとも知らないアリスは、突拍子もない俺の行動に呆然と震えている。



そしてここまで無理な失礼な行動を取り続けて、俺は確信に至る。



──ここにいる全員が、俺を恐れている。



全員が知っているのだ。

誰かから、既に聞いているのだ。



俺が──レベルナインだという事を。



だから、何も俺に文句が言えない。

今、この場において、この俺が最強だと、勘違い(・・・)している。



であれば、これにて、将棋で言うところの詰みの状態。

もう、この国に、俺が恐れるものは何もない。

それが確認できれば、後は水戸黄門的なラストシーンを演じて見せるのみ。



中央に山盛りだったサーターアンダギーの皿は、残りあと二個。

俺は全員の熱い視線の中、口を激しく動かしながら、残りのサーターアンダギー二つを手に取り、テーブルに並べる。


不思議そうに姫達が、その二つのポツンと置かれたお菓子を見つめる。



俺は心で呟く。


猫。右の方を潰せ。


“にゃ!?“



全員が、テーブルに視線が集中する中、ふいに、ぐしゃりと、何の前触れもなく片側のお菓子が潰れる。



短い悲鳴がテーブルを囲む姫達の口から漏れる。


突然、潰れたサーターアンダギー。

種も仕掛けも魔法もなく。

別に透明猫を使ったマジックを見せたかったのではなく、単なる演出。



俺は指を二本立てて、ゆっくりとテーブルの上のサーターアンダギーを指し示す。


指の先には、丸い無傷のものと、潰れたもの。



「良い知らせと、悪い知らせがあります」



全員が、テーブルから俺へと視線を移す。

突然の状況に、姫達の目がせわしなく揺れている。


俺は口を歪めて、冷たく笑う。



「悪い方から、先に話しましょう」



何か言いたげな口許をした下着が一番エッチ姫。

マント男も、口をわずかに開く。

けれども言葉は出ない。


俺の演出のせいで、嫌な予感をしっかりと感じてくれているようだ。

そして、それは事実、正解だ。



俺は言葉を続ける。



「この国は、滅びかけていますよ」



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