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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第四部 名医漆黒と水の国の女王
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第66話 アリスに騙された。



──── 1時間後 ────




俺は最上階の一室にいた。


マッピングは、わりと早く終わった。

城はやはり三階建てで、シンプルな構造だったから、物足りないくらいだ



が、意外なところで手間取ってしまった。


部屋数が多かったのだ。

一階同様に、二階もかなりの客室があり、女性の部屋が多かった。

扉は当然鍵が掛かっていたが、お留守だったので全てピッキングさせてもらった。

お陰さまで鍵開けスキルが向上し、撫でるように針金を動かすだけで、パッカンパッカンである。


宝物庫も発見したが、目ぼしいものは……いやっ、盗む気はないが好奇心に駆られて確認しただけだが、金目のものばかりで、俺的には面白くもなかった。



そんな時に、最上階に厳重に衛兵に守られた部屋を発見。

衛兵は全員、昼食パーティーに行ってると思ったのに、不思議にここだけ配置されたまま。


それが今、俺がいる部屋である。



ここに入るのに、なかなかの苦労をさせられた。



作戦名は『城の兵士に変身』作戦だ。


地下で青い鎧を盗み、顔を果物の皮で緑に染め、俺はトカゲ兵士に変装した。


その上で、衛兵の徘徊法則を解析(アナリシス)し、何人か騙して誤魔化して、前室みたいのも三つもあったからピッキングを繰り返し、そして、ようやくである。



どう考えてもこの部屋は、位置的にも、間違いなく、絶対に、女王マザー・ビクトリア・フターチの部屋。


だからこそ、この部屋には絶対に来なくてはいけなかった。


ここまで後手ばかりの俺が、この国で初めて先手を取った瞬間だ。



女王の部屋は無人。

俺はその広い部屋で、満足げに一人微笑む。



謎の国の中枢である城内部のマッピングが終わった事で、落ち着かなかった気持ちも幾分楽になった。


おまけに予想していなかった安心感も得られた。

それは、マッピングで得た脳内マップと、俺の魔力関知のドッキング効果だ。

脳内マッピング上で、どこで誰が何してるか、大体は分かるのだ。

風としか感じていなかった魔圧が、まさかここまで感知できるようになってきたとは自分でも驚きだ。


あの怖い星の王子さまが追いかけてきても、捕まる気がしない。

ある意味で無敵。


更に下の部屋にあった皆様の荷物から、平行思考でプロファイリングも進めているので、この城は私生活を含めて、俺に制圧されたと言っても過言ではない。



“女性の部屋ばかり……。サイテーにゃん……“



一人でテンション上昇させてた俺は、思わぬところからツッコまれてたじろぐ。


ね、猫か!?

ビックリさせんな!

部屋の持ち物から、色々分かる事もあるんだ!


そうだ。

何かあれば適時俺に連絡しろと言ってたのに。

今まで何やっていたんだ!?



“ビックリはこっちにゃん!? 吾輩を完全に無視して、盗賊みたいな事に夢中だったにゃん!?“



なに?

あ、そうなのか。

すまん、気がつかなかった。



“もっと謝るときは気持ちを込めるにゃんって言ってるにゃん! ……まぁ、いいにゃん。報告してもいいにゃん?“



ああ、頼む。



そう言いながら、俺は女王マザー・ビクトリアの部屋の物色を開始する。


といっても殆ど荷物がない。

すぐ隣に、世話をする侍女の部屋が幾つかあるが、ここも誰もいないもぬけの殻。



“いつも思うにゃんが、吾輩と話すときは集中してほしいにゃん。同時に色々考えすぎにゃん?“



いいから報告しろ!



“分かったにゃん……。えっと、沢山人がいたにゃん。あ、ニキビーもいたにゃん? 後で部屋に連れていくにゃん?“



ニキビーを連れてくる?

猫……。

お前は透明で見えないから、ニキビーを誘導できないだろ?



“にゃ? ……そ、そうにゃん! どうするにゃん?“



知るか。どーでもいい。それより早く報告の続きを。



俺は以心伝心しながらも、部屋をうろつき情報収集(データコレクション)を続ける。



……この部屋、衛兵で警備されてはいたが、中は無人だし、妙だ。


生活の臭いがない。

毎日綺麗に掃除されているからか?

誰も住んでいない……ように見えるが……まさかな……。



ん?

不自然に修復されたばかりの壁がある。

なんだろう?



──で、解析(アナリシス)結果(リゾルト)



間違いなく、女王マザー・ビクトリアは巨体だ。


ベッドを含む家具のサイズからして、豪華という理由では片付けられない。


巨人の部屋だ。

城の入り口から、ここに至るまで扉が異常に大きかったのもそのせいだろう。

天井も異常に高いし。



そして、衣類は着ていない可能性あり。

タンス類の家具がなく、服も下着もないから、裸族……なのかも。



侍女の部屋にも化粧道具ひとつないので、洒落っ気のない人のようだ。

ブラシも抜け毛も皆無だから、下手したら髪の毛も生えていない可能性がある。



それから、魔石収集家のようだ。

食べていたんじゃないの、と思われる形跡がある。

キッチンのような水場や食器類がある侍女の部屋があったが、果物みたいに魔石が皿に山積み!

結構価値があると思うんだが?



アリスのお母様、だったよね?

……噂通りの化け物みたいだ。


……。


アリスの美少女ぶりを考えると、絶対におかしいんだが、やはり異世界にDNAの壁は存在しないのか???



“あと、アリスは死んだって思われてたにゃん“



は?

突然なんだよ!?



“報告聞いてたにゃん? アリスは女王後継者候補の一人にゃん。でも、最初は偽物だとみんな思ってたにゃん“



俺の思考が一瞬だが止まる。



女王後継者候補?

最初は偽物?


……解析(アナリシス)


女王の後継者を決めるのに候補が複数人いて、アリスはその一人。

で、死んだと思われていたのに、突然戻ってきて、怪しまれたって事か?



“だから、そう言ってるにゃん? 大変だったみたいにゃん?“



……相変わらず、下手くそすぎる説明。

だが、そのおかげでハルカにバレていないし……よしとする。

ちょっと俺が猫の情報を、解析(アナリシス)すればいいだけだ。



“相変わらず失礼にゃん……。でも慣れたにゃん……“



こっちの台詞だっ!


で、その女王後継者候補ってのは、結構大事な情報だ。

もしかすると、全員女性でアリスをいれて十人か?



“にゃ? そうにゃん。よく分かったにゃん? “



……やはり、あの二階の女性の部屋は、全部お姫様の部屋ってことね。


……そっか。

お姫様の……。


俺は部屋にあったドレスやアクセサリーや、……下着等を思い出す。



“でもみんなアリスに似てなかったにゃん。偉そうで生意気な感じにゃん?“



うーん。

アリスも生意気というかツンデレっぽいとこあるしな。

アリスに似てる子はいたか?



“にゃ? ……みんなアリスと違ったにゃん。……兵士達とそっくりだったにゃん?“



兵士?

……ぶっ!


トカゲのお姫様かよっ!

一人でちょっとドキドキして損したわ!

しかし、これじゃホントにアリスは女王様の子供なのか?



“女王の子供は沢山いるみたいにゃん? アリスは四番目って言われてたにゃん“



四番目?

姫が十人もいるから、順番をつけてるのか?



“後継者は十人にゃんが、子供はもっとにゃん“



もっと?

何人だ?



“数えられないにゃん! 無茶いうなにゃん!?“



はぁ?

数えられないなんてあり得ないだろ?

どんだけ子沢山なんだ!?


……いや、猫に数の数えかたを教えた方がいいのか?



“酷いにゃん! やっぱり失礼にゃん! “



頭の中で騒ぐ猫に俺は肩をすくめる。

冗談がわからない奴だ。

たが、数学的な知識や単位なんかにについては、猫というかこの世界の常識やレベルを知っておきたいというのも本音。



“にゃ、そろそろ昼食会も終わるみたいにゃん。後継者候補の十人が挨拶しながら部屋を出ていくにゃん“



おっと、じゃぁ、俺も自分の部屋に戻るか。


出口に向かいながら、俺は自分が少し安心しているのに気がつく。


それは当然だが、アリスの事だ。


俺が倒れた後のアリスについて気になっていたんだが、もう完全に安心して良いと判断していいだろう。



“にゃん。アリスは不審者をやっつけたから本物だってみんな喜んでいたにゃん“



そっか。良かっ……。

……なぁ。そのやっつけられた不審者って俺の事では?



“にゃ? 知らないにゃん?“



……はぁ。

……多分、それ俺だよ。


アリスに殺られかけた時に、よくやったってマント着た男に誉められてたし。



俺は、不審者だと思われているらしい。


それにしては、牢屋に入れられてもいないが?



“リョウスケは何故か、トーリスーガリノ・タビトって皆呼んでたにゃん? 城壁で沢山の人を助けてくれたって、誉めまくられてるにゃん? “



トーリスーガリノ?


それ、俺が『通りすがりの旅人』って言ったから、だと思う。

勘違いしてんだな。



……もう、わけわからないな。この国は。


……アリスが死んでたとか、不審者を捕まえたから本物とか、その不審者の俺に感謝したり、名前を間違えてるとか。



ん?

まてよ?

この国の人達の勘違いなところ、アリスにそっくりかもしれない……。

国民性ってやつか???



まぁいい。

早くここから去らなくては。



俺は、肩をすくめて部屋を出ようと、前室の様子を探る。


まだ兵士の格好だが、あまり長く衛兵と顔を会わして会話をするのは危険だ。

周囲に溶け込むように、ここから離れていくのがベスト。



魔力は少し離れたところを巡回中のようだ。

今が好機、か。



だが、俺は、そこで足を止める。



自分の解析(アナリシス)結果(リゾルト)なのに、俺自身納得できない事がある。


それは、この女王様の部屋には数ヵ月は誰もいなかった、という事だ。


生活の跡がない。

埃が積もっていると言うことはないが、ここまで完璧なハウスクリーニングは、ここのトカゲ達には無理なのではと思う。



……。



俺は、猫を呼ぶ。



”にゃん?”



猫。最後に聞くが、女王は病気だよな?

まさか、昼食パーティーに出ているのか?

それとも、何処かの病院に入院してるのか?



もしかするとだが、あの修復されたばかりの壁……。



“女王は、ずっと行方不明にゃん?“



な!?

何だと!?



“今頃なんにゃん? 女王様が消えてしまったから、候補者達が集まってるにゃん!?“



今頃?



“リョウスケが吾輩の話を聞かなすぎるにゃん!“



ちっ!

肝心な情報を、俺が聞き逃したと?



“……言ってなかったかも、にゃん?“



このアホ猫!!!



だが、行方不明!?

それじゃ、アリスの言ってる事は滅茶苦茶だぞ!?

アリスはお母さんは病気だと……。



俺は、改めて猫に確認する。


アリスの母親は女王様で、その女王様は病気ではなく行方不明、というのは、間違いないんだな?



“そうにゃん“



じゃぁ、アリスは……。


俺を……騙した?



また……。



ダ・マ・サ・レ・タ?



胸に込み上げる苦い感情。

俺は、思わず激しく壁を叩く。

補修されたばかりの壁がパラパラと揺れる。



歯軋り。

怒りで血が昇る頭。

胸に広がる熱くて痛い感情。



落ち着け。


解析(アナリシス)……しろ、俺。




可能性その1。

アリスに騙された。


可能性その2。

アリスは究極の勘違いさん。



……はぁ。


……どっちでもいいだろ、もう。


……俺、ホントにこんなとこで何してんだろう?



本気で、脱力してしまう。

本気で、呆れてしまう。

本気で、心底、嫌いになる。



俺も、アリスも。



大きく息をつき、冷静になろうと努める。



もうどうでもいい。

カンパニーへ、帰ろう。



俺が、ここにいる意味も理由も、ない。




俺は、アリスが兵士に取り囲まれて叫んでいたのを思い出す。


偽物だと思われていたんだろうが、結局、あの子は何がしたかったんだ?


俺をさんざんに振り回して。



で、死にそうな俺に、トドメとばかりに抱きついて……ひどい目に会った……。





俺の記憶が───鮮やかに甦る。




──アリスは泣いていた。



──大きな目で、くしゃくしゃに顔を歪めて。




俺は、唇を噛む。

拳を握り、大量に息を吐き出す。




何やってんだ、俺。



アリスは、────嘘をついていない。



それは、揺るがない事実として────。





────その瞬間、俺の思考が回転する───。





アリス・フターチ(謎C)。



あの子は、よく笑い、よく怒り、よく泣く、ただの女の子だ。


そして、俺に……嘘も冗談も言ったことがない。


アリスは、嘘はつかない、子だ。



────でも、それは、矛盾。



女王は病気ではなかった。


だが、真実に矛盾はない。



──あらゆる真実は、一度発見されれば理解は容易だ。肝心な事は真実を発見する事である。

天動説を唱えたガリレオ・ガリレイの言葉。




──真実はいつもひとつ!

名探偵○ナンの言葉。




俺は、目を閉じ腕を組む。



そして、解析(アナリシス)は進む。


矛盾が、矛盾でなくなる真実。

アリスが嘘をついていないとしたら……。


そして俺は真実にたどり着く。


……なんだ。

……そういう事か。



答えはいつも簡単だ。

ガリレオ・ガリレイの言うとおり。



アリスは嘘をついていない。

それが真実。




この国は、後継者争いの中にあった。


そして、ただ、アリスは、───騙されていた。

他の王位継承者候補達によって。



ただ、それだけ。




きっとあの子は、お母様大好きなんだろうね。


お母さんの事になると、よけいに何でも信じちゃうんだろう。


まったく!

簡単に騙されて!



……嫌な予感がする。

……こういう後継者争いとか、遺産相続って、ドラマや小説だと大抵は血生臭い事になるんだが。



急にこの国の状況やアリスの置かれた立場が、スッキリと脳に形作られる。



そして、俺はやっぱり早いところこの国から出たい。

怖い星の王子さまと赤い触手もいるから。



……ならば、女王を探せばいい。

……それも、迅速に!



俺は、トイレットペーパー(魔力入り)を取り出すと、短く破り魔方陣を描く。



土魔方陣、岩石砂崩壊。



多分、この魔法は無意識モード俺が、城壁を壊した魔法だ。


目の前には数ヵ月前に補修されたばかりの壁。

ペーパーを貼ると、光った場所がさらさらと崩壊していく。

そして、人が一人分通れるくらいの穴が出来る。



この先にあるのは隠し部屋でもなんでもなく、外である。

俺の脳内マッピングはそう言っている。



そして外にあるのは、遥か下にある湖の湖面。



俺は自分で作った穴から、首を突っ込んでそれを確認する。


やはり、真下は、湖!




……。



猫!



俺は、猫を呼ぶ。




“にゃん?“




こい!




“上に行けばいいにゃん? 食べ物持ってくにゃん?“




……た、食べ物はいらない。


そして、上じゃなくて下だ。




“下!? リョウスケは最上階にいるにゃん“




いや、これから────湖の底に行く。




“にゃん?“




俺はまたトイレットペーパー(魔力入り)を取り出し、3枚ペーパーを破りとると、さらに魔方陣を描く。

そしてそれを懐に入れて準備完了である。



よし。


俺は、助走をつけて壁の穴に向かう。


──外に飛び出す為に。




女王に、会いに行くぞ!!!




“にゃん???“




最短コースで解決する!

猫!

とっとと来い!




一気に視界が広がり、美しいアイラーンの街並みが上空から見える。

そして、落下先は五十m先の湖!




待ってろ!

女王!

マザー・ビクトリア・フターチ!!!





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