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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第二部 ヴァニッシング・ピーチ
24/162

第24話 只今マッピング中。 ~9日前①



そもそも、こんな事になったのは、実務訓練なんて、俺にさせたからだ。


理由なんて、色々とあるんだろうが、バリア三に、俺が訓練チーフとして行く事になった事も、今思えば、不運の一つであったのだ。





( ― 9日前 ― )




俺は、深い森の中を歩いていた。



「おーい。猫ー。そろそろ帰るぞー」



……と、言いながら、特別探す気はない。

どうせ、勝手に帰ってくるだろう。



本日、バリア三での実務訓練二日目。


バリア、いわゆるバリアポイントというのは、森からやってくる魔物達を追い返す為の防衛基地である。



森は魔物の棲みかであり、非常に危険だ。


中央都市ナインズワームの周囲を、三重の城壁がぐるりと張りめぐっているのも、その為だ。

その他、魔法防壁とか、色々あるんだろうけど、ね。



バリアポイントも、魔物からの防衛の仕組みの一つだ。


森には、魔物道がある。

元の世界の言葉に変えると、いわゆる獣道だ。

魔物がよく歩く場所は、踏みならされて地面は固くしまり、道となる。


この道の流れから、魔物が、中央都市にやってくるルートが読める。


そこに、防衛拠点を設置。

兵士を常駐させ、魔物が来たら追い返す。

それがバリアポイント。



ナインズワーム周囲に何十もバリアポイントはあるんだろうが、訓練所から徒歩二時間以内でいけるバリアポイントは五箇所。


バリア一から五。


毎年、ここで訓練生は、五つの班に別れて実務訓練を行うのだ。



俺は三班で、バリア三の防衛実務訓練にをする事になった。



およそ班は百名ぐらいか。

そして、魔力が高い訓練チーフが各班の隊長や副隊長につく。


訓練チーフは、レベルファイブ以上だ。


魔力が全てのこの世界。

よって、訓練期間であっても、集団においてリーダーとしての素質を試される。


俺はやはりレベルナインだからなのか、三班の隊長に任命されてしまった。


そして実務訓練内容だが、俺にとっては問題ありありである。



まず、バリアポイントの塀の外を見回る事。

……なんだ、それ?


時々、魔物が、来るので先輩の防衛士の方々と撃退する事。

……無理。


空いた時間は、先輩の防衛士の方々と、戦闘訓練。

……絶対に無理!



という事で、昨日も今日も、俺はレベルナインを気取り、一人でバリアポイントの外を見回る事を、先輩のバリア防衛長から許可を貰っていた。



最初、一人で森は危険だ、止めてください、と止められたが、最後には流石レベルナインだと、許してもらった。


俺にとっては、いつ魔物と戦うかも知れないバリア防衛につくより、危険な森の中を歩いていた方が安全だ。



一見危険だが、実はそうでもない。

俺は、魔物がいれば魔力風で察知して、気づかれる前に逃げ……ごほんごほん、進路を変えてしまえばよいのだ。



一応、隊長なので、他の訓練生にも挨拶はした。


百人もいると、特に話すこともないし、まぁよろしく、とだけ手を振って終わりにした。


訓練生達の、芸能人でも見るかのような目……。

噂するような囁き声……。



幻のレベルナインがやっときた。

漆黒のレベルナインだ。

無暴力のレベルナインだ。



どうも俺は、カリスマ的存在になっているらしい。


寝室の寝間着を着てるって声には、やっぱりバレたかとは思ったが、それはまぁ仕方ない。

それ以外に着る服がない。



「俺は森に入り、様子を見てくる。お前達はしっかりここを守れよ」



最後にそう言ったら凄く驚かれて、よけい訓練生達の目がキラキラしていたんだが……。

実はサボっているだけだから、心の中ですまんと謝っておく……。



そんな経緯で、俺は昨日と今日を使い、バリア三とバリア四の周辺の魔物道周辺を、猫と共に散策していた。



鬱蒼と茂る巨大な樹木。

道はなく、うねるような根や草や蔦が大地一面に広がっている。

時折聞こえる魔物の咆哮。

足は棒のように疲れてはいたが、それでも俺は夢中で歩く。


何故そんな広い範囲を、と言われると、俺の生理現象だ。


このバリアポイントに、あと9日間、訓練期間が終わるまで過ごさなくてはならないのだ。

正確には、明日に関しては、ペーパー特別講習が訓練施設で行われるので残り8日。


その間、毎朝徒歩でやって来て、夕方にまた訓練所に戻る、らしい。

が、それは大変に危険だ。



何故ならば!

万が一、道を外れたら……迷子になってしまう!



……という事で、俺はマッピングを開始する事を決定。

これはもう、おしっこしたいからトイレに行く、と同じくらいの俺の生理現象。


知らない土地で滞在するなら、マッピング!


地図なんて信じられない。

自分で見て感じなければ、迷子になる。


俺はそうやって父に育てられた。



皆、そうだと思う。

知らない場所にずっといるなんて、落ち着く筈がないし、調べて歩かなくてはという衝動に駆られるだろう!



マッピングが可能になったのは、腕時計の方位計が正確になったという事もある。


シャドウが、この腕時計に干渉したと言っていたが、その効果か、完全にこの腕時計は信用できる魔道具となった。

圧力計はそのままに、時刻、方位、温度も、元の世界同様に使用可能となったのだ。


ただし、ライトボタンを押すと、シャドウが仕掛けた特別な効果が発生する。

それは、砂漠で俺を助ける為にアイツが仕込んだ特別な魔法、と思っていたんだが……。



はぁ……。

とてもつまらない結果だったのだが、それはただの『魔法契約書』だった。


凄い魔法が発動するのかと期待していたんだが、残念だ。

押すと目の前に光のスクリーンが広がり、そこに俺の読めない文字が並ぶ。


猫に読ませてみたら、シャドウが望んでいた取引を契約書にしたものらしい。

無駄にだらだらと長い文章の最後に、当然のように、シャドウ・P・Dの署名済み。


後は、俺にサインしろって?


するわけないだろう!

これにサインしたら、魔力をくれるのか!?



シャドウは、確かに言った。


『魔力を握っているのは、俺でもシャドウでも俺の思考でもない』と。



誰か知らないが、今は情報不足で、それが何者なのかは解析(アナリシス)出来ない。


そもそも契約は無理だ。

1000年前から存在する殺人鬼を殺すなんて、俺には無理無理(笑)!


こんな、危険なライトボタンは、二度と押す気はありません!



話がそれたが、訓練所の砦から、アリスのいるバリア四と、俺のいるバリア三は隣り合わせで繋がっているので、仕方がなくついでにマッピングする。


アリスが心配だからとか、そういう魂胆はない。


万が一、最近大人しいオンリーワンワールド(1人きりのボッチ世界)が発動して、気がついたら森の中だった、という時の備えでもあるから、マッピングはなるべく広目がいい。


この二つのエリアを押さえとけば、多分大丈夫だろう。



魔力風を感じたら、風下に逃げる。

定期的に腕時計で方位を確認して、脳内に地図を正確に描く。


これを繰り返し、俺は大好きなマッピングを二日間続けた。



マッピング作業は順調。

既に八割程、森の地図は脳内に描かれた。

ようやく安心して、この辺りで過ごせるようになったと安堵できるレベルだ。


だが、それは100%ではない。

マッピングして分かったが、この森は不思議な点があるのだ。



この森はおかしい。


この一噌と茂る木々の魔力。

御神木扱いされるだけの事はある。

高密度魔力の塊。


こういう魔力も、この世界にはあるのかと、最初は驚いた。

魔力風は起きないが、触ると分かる鋼のように静かな無動なる高魔力。

だからこそ、この森は神気に溢れている。


森の木は絶対に傷つけてはいけないと、座学で習ったが、レベルファイブ程度の奴じゃ、掠り傷一つ不可能だろう。

それが、うねるようにこの国に無限に広がっているのだから、正直怖すぎだ。



これは……異常……じゃないのか?


いくら植物でも、これだけの魔力が暴走したら、国どころか星が消滅するのでは?

この森は、魔物以上に危険な何かだと、俺は思っている。



それに、俺の考えが正しければ……。

この森には隠された場所がある。


巧妙に隠されているが、マッピングして分かった怪しい箇所。


そして、そこから漂う桃の香り……。


残された時間、出来る限りこの森の探索をする必要がある。



ふと俺は、バリアポイントの砦近くで、魔力風を感じて立ち止まる。


この風は魔物ではない。

俺が帰ろうとしているバリア三からだ。



姿は見えなくても分かる、独特な熱い魔力。


魔力を圧として、常に意識して感じ続けていたら、その感覚が磨かれ、今ではヤバイことになっている。

危険と隣り合わせで魔力を感じ続けていたら、どこに誰がいるかなんとなく分かるようになってきたのだ。

魔力感知能力というか、これは既に奇妙な俺だけの特技だ。


で、この魔力。

こいつは、アイツか。


ニビー・リュウオウ。

レベルシックス。



こいつは、俺と同じ三班の、副隊長だ。


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