第24話 只今マッピング中。 ~9日前①
そもそも、こんな事になったのは、実務訓練なんて、俺にさせたからだ。
理由なんて、色々とあるんだろうが、バリア三に、俺が訓練チーフとして行く事になった事も、今思えば、不運の一つであったのだ。
( ― 9日前 ― )
俺は、深い森の中を歩いていた。
「おーい。猫ー。そろそろ帰るぞー」
……と、言いながら、特別探す気はない。
どうせ、勝手に帰ってくるだろう。
本日、バリア三での実務訓練二日目。
バリア、いわゆるバリアポイントというのは、森からやってくる魔物達を追い返す為の防衛基地である。
森は魔物の棲みかであり、非常に危険だ。
中央都市ナインズワームの周囲を、三重の城壁がぐるりと張りめぐっているのも、その為だ。
その他、魔法防壁とか、色々あるんだろうけど、ね。
バリアポイントも、魔物からの防衛の仕組みの一つだ。
森には、魔物道がある。
元の世界の言葉に変えると、いわゆる獣道だ。
魔物がよく歩く場所は、踏みならされて地面は固くしまり、道となる。
この道の流れから、魔物が、中央都市にやってくるルートが読める。
そこに、防衛拠点を設置。
兵士を常駐させ、魔物が来たら追い返す。
それがバリアポイント。
ナインズワーム周囲に何十もバリアポイントはあるんだろうが、訓練所から徒歩二時間以内でいけるバリアポイントは五箇所。
バリア一から五。
毎年、ここで訓練生は、五つの班に別れて実務訓練を行うのだ。
俺は三班で、バリア三の防衛実務訓練にをする事になった。
およそ班は百名ぐらいか。
そして、魔力が高い訓練チーフが各班の隊長や副隊長につく。
訓練チーフは、レベルファイブ以上だ。
魔力が全てのこの世界。
よって、訓練期間であっても、集団においてリーダーとしての素質を試される。
俺はやはりレベルナインだからなのか、三班の隊長に任命されてしまった。
そして実務訓練内容だが、俺にとっては問題ありありである。
まず、バリアポイントの塀の外を見回る事。
……なんだ、それ?
時々、魔物が、来るので先輩の防衛士の方々と撃退する事。
……無理。
空いた時間は、先輩の防衛士の方々と、戦闘訓練。
……絶対に無理!
という事で、昨日も今日も、俺はレベルナインを気取り、一人でバリアポイントの外を見回る事を、先輩のバリア防衛長から許可を貰っていた。
最初、一人で森は危険だ、止めてください、と止められたが、最後には流石レベルナインだと、許してもらった。
俺にとっては、いつ魔物と戦うかも知れないバリア防衛につくより、危険な森の中を歩いていた方が安全だ。
一見危険だが、実はそうでもない。
俺は、魔物がいれば魔力風で察知して、気づかれる前に逃げ……ごほんごほん、進路を変えてしまえばよいのだ。
一応、隊長なので、他の訓練生にも挨拶はした。
百人もいると、特に話すこともないし、まぁよろしく、とだけ手を振って終わりにした。
訓練生達の、芸能人でも見るかのような目……。
噂するような囁き声……。
幻のレベルナインがやっときた。
漆黒のレベルナインだ。
無暴力のレベルナインだ。
どうも俺は、カリスマ的存在になっているらしい。
寝室の寝間着を着てるって声には、やっぱりバレたかとは思ったが、それはまぁ仕方ない。
それ以外に着る服がない。
「俺は森に入り、様子を見てくる。お前達はしっかりここを守れよ」
最後にそう言ったら凄く驚かれて、よけい訓練生達の目がキラキラしていたんだが……。
実はサボっているだけだから、心の中ですまんと謝っておく……。
そんな経緯で、俺は昨日と今日を使い、バリア三とバリア四の周辺の魔物道周辺を、猫と共に散策していた。
鬱蒼と茂る巨大な樹木。
道はなく、うねるような根や草や蔦が大地一面に広がっている。
時折聞こえる魔物の咆哮。
足は棒のように疲れてはいたが、それでも俺は夢中で歩く。
何故そんな広い範囲を、と言われると、俺の生理現象だ。
このバリアポイントに、あと9日間、訓練期間が終わるまで過ごさなくてはならないのだ。
正確には、明日に関しては、ペーパー特別講習が訓練施設で行われるので残り8日。
その間、毎朝徒歩でやって来て、夕方にまた訓練所に戻る、らしい。
が、それは大変に危険だ。
何故ならば!
万が一、道を外れたら……迷子になってしまう!
……という事で、俺はマッピングを開始する事を決定。
これはもう、おしっこしたいからトイレに行く、と同じくらいの俺の生理現象。
知らない土地で滞在するなら、マッピング!
地図なんて信じられない。
自分で見て感じなければ、迷子になる。
俺はそうやって父に育てられた。
皆、そうだと思う。
知らない場所にずっといるなんて、落ち着く筈がないし、調べて歩かなくてはという衝動に駆られるだろう!
マッピングが可能になったのは、腕時計の方位計が正確になったという事もある。
シャドウが、この腕時計に干渉したと言っていたが、その効果か、完全にこの腕時計は信用できる魔道具となった。
圧力計はそのままに、時刻、方位、温度も、元の世界同様に使用可能となったのだ。
ただし、ライトボタンを押すと、シャドウが仕掛けた特別な効果が発生する。
それは、砂漠で俺を助ける為にアイツが仕込んだ特別な魔法、と思っていたんだが……。
はぁ……。
とてもつまらない結果だったのだが、それはただの『魔法契約書』だった。
凄い魔法が発動するのかと期待していたんだが、残念だ。
押すと目の前に光のスクリーンが広がり、そこに俺の読めない文字が並ぶ。
猫に読ませてみたら、シャドウが望んでいた取引を契約書にしたものらしい。
無駄にだらだらと長い文章の最後に、当然のように、シャドウ・P・Dの署名済み。
後は、俺にサインしろって?
するわけないだろう!
これにサインしたら、魔力をくれるのか!?
シャドウは、確かに言った。
『魔力を握っているのは、俺でもシャドウでも俺の思考でもない』と。
誰か知らないが、今は情報不足で、それが何者なのかは解析出来ない。
そもそも契約は無理だ。
1000年前から存在する殺人鬼を殺すなんて、俺には無理無理(笑)!
こんな、危険なライトボタンは、二度と押す気はありません!
話がそれたが、訓練所の砦から、アリスのいるバリア四と、俺のいるバリア三は隣り合わせで繋がっているので、仕方がなくついでにマッピングする。
アリスが心配だからとか、そういう魂胆はない。
万が一、最近大人しいオンリーワンワールド(1人きりのボッチ世界)が発動して、気がついたら森の中だった、という時の備えでもあるから、マッピングはなるべく広目がいい。
この二つのエリアを押さえとけば、多分大丈夫だろう。
魔力風を感じたら、風下に逃げる。
定期的に腕時計で方位を確認して、脳内に地図を正確に描く。
これを繰り返し、俺は大好きなマッピングを二日間続けた。
マッピング作業は順調。
既に八割程、森の地図は脳内に描かれた。
ようやく安心して、この辺りで過ごせるようになったと安堵できるレベルだ。
だが、それは100%ではない。
マッピングして分かったが、この森は不思議な点があるのだ。
この森はおかしい。
この一噌と茂る木々の魔力。
御神木扱いされるだけの事はある。
高密度魔力の塊。
こういう魔力も、この世界にはあるのかと、最初は驚いた。
魔力風は起きないが、触ると分かる鋼のように静かな無動なる高魔力。
だからこそ、この森は神気に溢れている。
森の木は絶対に傷つけてはいけないと、座学で習ったが、レベルファイブ程度の奴じゃ、掠り傷一つ不可能だろう。
それが、うねるようにこの国に無限に広がっているのだから、正直怖すぎだ。
これは……異常……じゃないのか?
いくら植物でも、これだけの魔力が暴走したら、国どころか星が消滅するのでは?
この森は、魔物以上に危険な何かだと、俺は思っている。
それに、俺の考えが正しければ……。
この森には隠された場所がある。
巧妙に隠されているが、マッピングして分かった怪しい箇所。
そして、そこから漂う桃の香り……。
残された時間、出来る限りこの森の探索をする必要がある。
ふと俺は、バリアポイントの砦近くで、魔力風を感じて立ち止まる。
この風は魔物ではない。
俺が帰ろうとしているバリア三からだ。
姿は見えなくても分かる、独特な熱い魔力。
魔力を圧として、常に意識して感じ続けていたら、その感覚が磨かれ、今ではヤバイことになっている。
危険と隣り合わせで魔力を感じ続けていたら、どこに誰がいるかなんとなく分かるようになってきたのだ。
魔力感知能力というか、これは既に奇妙な俺だけの特技だ。
で、この魔力。
こいつは、アイツか。
ニビー・リュウオウ。
レベルシックス。
こいつは、俺と同じ三班の、副隊長だ。




