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ハイスピード・アナリシス ~異世界で解析しまくる男。  作者: 愛野万之介
第一部 知は愛、愛は知。
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第1話 プロローグ1 ~異世界。






またか。

こんな大事な日に。


俺は顔をしかめて、ため息を吐く。



俺の脳は、時折『暴走』する。



今日は、就職試験会場の大行列に並び、ただ突っ立って無意味な時間を過ごしていたせいだ。


見慣れない街の風景に、多少は新鮮な思いもあった。

だが並び始めて一時間も経つと、高層ビル、通りすぎる無数の車、街路樹、四角い看板、通行人、全てがつまらない背景に変わっていく。


そして俺は、緊張していた心を緩ませてしまった。


その瞬間、脳は『暴走』した。



それは簡単に言えば、空想にふける、あるいは考え事をする、という当たり前の行為である。

考え事してたら、もうこんな時間に?

という、思考に集中してふと意識が薄まる瞬間。

誰にでも経験がある、ぼんやり、というやつだ。


ただ俺の頭脳は、ちょっと違う。

考え事の『暴走』だ。



今回、『暴走』して脳が解析(アナリシス)しはじめたテーマは、就職できない理由について。


今日、試験を受けようとしていたこの会社は五社目。

まだまだ就活としては序盤とも言えるが、今のところ全滅である。


言い訳というか、その理由は、大卒以上を条件にしている大手企業に、高卒の俺が採用試験を受けようとしていることにある。

俺はまだ十八歳。

つまり、希望される人材ではない。

おまけに開発職を希望しているから、学歴的に余計無理だ。


だが、天才少年と言われたIQを備え、瞬間記憶、高速思考、平行思考、膨大な知識量、エトセトラと、俺のポテンシャルは魅力的なはずだ。

履歴書にも出来る限りの、自分のPRは書かせてもらった。


それでもやはり、どの会社も、よくて面接止まり。

筆記試験は楽勝なのに……。


何度も落とされ、弱っていたのかもしれない。

脳にとっては、そういうネガティブ思考が大好物らしく、いつも俺の意思を完全無視して、『暴走』する……。




ちなみに、俺はその『暴走』を、───オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)と呼んでいる。


何故と言われても、名付けたくなる程に特殊な厄介さを持つ俺固有の生理現象だからだ。


思考の暴走。

それは、脳が異常な速度で、勝手に選択した問題を解き明かすべく、がむしゃらに超・高速解析(ハイスピード・アナリシス)を行う現象だ。


その間、全ての外界の音、光、感覚が、俺の意識からシャットダウンされる。

時間の流れすらも脳は弾き返す。


それは一時間で済むときもあれば、丸一日の場合もある。

ぼんやりしている俺は、その間の記憶は残っていない。

無意識で動いているだけの状態になる。

ぼんやり、では済まされない次元の状態。

故に『暴走』という表現がしっくりくる。


普通じゃないのは分かっているが、超考え事してるだけだとも言えるので、ギリセーフで飲み込むしかない。




問題は、俺の意志に関係なく、場所も状況も無視してオンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)が発動する事だ。



この特殊な厄介さは、二つの問題を常に引き起こす。


一つは、分かりやすいが、大事な場面で発動されると、とても困るという事だ。


今回で言えば、言うまでもなく、試験の為に並んでいたその最中に…………あり得ない!

俺の脳は、企業の過去の収益情報、試験内容からの採用希望像の絞り込み、と様々な解析(アナリシス)を延々と行っていた。

その結果、肝心の試験を棒にふってしまうかもしれない危機的状況に直面しているというのに!



二つ目は……時間と場所が移動(ワープ)してしまう事だ。



おっと!


俺は慌てて気を引き締める。

今はそんな考え事をしているゆとりはないな。


オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)のせいで、かなり時間が経過しているはずだ。




さて。


見回せば、目の前に並んでいたスーツ姿の他の入社希望者達は消えていた。

知り合いは当然いないので、俺は置いていかれたらしい。



腕時計を見ると、見慣れない時計。


ああ、いつもの時計は壊れていたので、父の遺した時計を着けてきたのだ。

この時計によると、二時間程度の時間が経過している。


しかし問題は、時間や行列が消えた事よりも、まるで景色が違って見える事だ。



オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)が発動中、俺は無意識で行動する。

勝手に歩き、喋り、用事をこなす、恐ろしいくらいの無意識行動能力。

つまり、思考の暴走中の、ぼんやりしていた時の、記憶が残っていない。


だからいつも発動後は、まるで自分だけ、時間も場所も、瞬間移動(ワープ)させられたような感覚に陥る。



今回もそうだ。

だが、問題ない。

いつもの事だ。

慣れって怖い。


俺はまたため息をはくと、素早く周囲を確認。



まずは『情報収集(データコレクション)』だ。

その後、『解析(アナリシス)』する。


記憶がない時間に何が起きていたのか、いつも俺はこうして対応する。



情報収集(データコレクション)』と『解析(アナリシス)』。

この二つの組み合わせを、俺はずっと大事にしている。



情報収集(データコレクション)の対象は、場所、周囲の状況、経過時間、持ち物、自分のコンディション(疲れ、空腹度、外傷…)、等々。

特に周囲の状況情報は重要だ。


時間はかけられない。

今回は、就職活動中だ。

試験が終わってしまったのか、挽回出来るのか、それだけは直ぐに知る必要がある。



───しかし。



俺は首を捻る。


一瞥しただけで、差異が多すぎる。

周辺の景色が、変わりすぎている。

いや、それだけではない。

何か、奇妙な違和感を強く感じるんだが………。



ビルばかりの無機質なオフィス街だったはずなのに、目の前にあるのは海外の田舎街のような、日本ですらない場所に見える。

足元まで、アスファルトの歩道が、重厚な石畳の大通りになっている。


中央には馬車が走り、自動車はどこにも見当たらない。



馬車……おかしい。

瞬きしながら、躍動する馬のおしりを眺めていると、脳が警報を鳴らす。



異常!

異常!

異常!



この景色変化の裏側にある異常に、本能が危険を知らせている。

いつもと、違うと。


だが、それは意志の力で抑えこむ。

答えを出すのは早い。

まだ、情報収集(データコレクション)を完全に終えてはいない。

こうなれば瞬間記憶能力で、周囲の情報を一瞬で切り取り、高速解析(アナリシス)するしかな……ん?



──槍を持った銀色の鎧をきた大男が、俺の横を通り過ぎる。



な、なに?



驚いて振り返ると、民族衣裳のような服を来た青い髪の少女と目が合う。

背丈の低いすらりとした立ち姿で、何故かこちらをじっと見ている。



怪訝に思いながらもそこから目をそらすと、今度は黄色いキリンに似たリアルな着ぐるみが、服を着て建物の前で本を読んでいる。


その横では、子供が……いや、灰色の人間の形をした何かが騒いでいるが、あれは妖怪の類いか?



行き交う人の殆どは鎧を着こんでいて、何でもありありの個性を主張した連中ばかり。

ぐるりと360度、俺の周囲は奇妙な連中ばかりしかいないのだ。



なんだこれは?

大掛かりな仮装パーティー会場か?

スーツ姿どころか、普通の日本人の姿が皆無。

コスプレ会場にでも紛れ込んだのか?



あ……俺だけ……スーツ。

逆に俺が場違いな、恥ずかしい奴なのか?



思わず手にもった鞄を、胸元で抱き締める。



異常!!!

異常!!!

異常!!!



頭の中の警報がうるさい。

情報収集(データコレクション)がおかしいと、エラーを出し続けている。



落ち着け。

仮装パーティーもありえるが、海外へ拉致された可能性もある。


……海外に拉致されて、その上仮装パーティー?


ちっ。

そんな事はあり得ない。



ああ……。

オンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)の間に、一体、何が起きたんだ……。



俺は、周囲から目を背けるように空を見上げた。



……。



太陽が、三つになっていた。



赤いのと、青いのと、白いの。



……。



脳の警報はMAX!

異常!!!!!

異常!!!!!

異常!!!!!

異常!!!!!

異常!!!!!

異常!!!!!




目を細めて、空を何度も見るが太陽の数は変わらない。

数もそうだが、あの大きさと眩しさは、おかしい。


太陽レベルの恒星が三つ。

太陽系は一体どうなっているのだ。

いや、星が地球に急接近しているせいで、大きく見えるのだろうか。

いやいや、そんな天体ショーが近々起きるなんて話題は聞いていないしあり得ない。



謎ばかり増加し、解はひとつも産み出せない状況に、また脳が『暴走』しかけているのを感じる。

ま、不味い。


不可解な景色。

不可解な人々。



拒否するように顔を背ける。

思考の『暴走』を止めようと、ぎゅっと目をつぶる。



混乱しては、正確な判断が出来ない。

思考が『暴走』しては、またオンリーワンワールド(一人きりのボッチ世界)が始まってしまう。


まずは、一旦冷静になるべきだ。

落ち着け。

夢や幻の可能性もあり得る。


俺は常人の推定十倍の高速思考が可能。

俺に解析(アナリシス)出来ないものはない。

どんな状況も全て対応してきたのだ。



ふいに──自然の匂い。


──昔、小学校の遠足で嗅いだ、田舎の匂いがした。


葉っぱと土と、澄んだ空気。

懐かしくも癒される香り。


この空気や匂いは、少なくてもさっきまでいた場所や、自宅周辺ではありえない。

過去に嗅いだ事がないものも混ざっている。



俺は目を開ける。



変わらず視界に飛び込んでくる、奇妙な景色。

周囲を行き交う、奇異な人々。



……夢じゃない。

……これは、現実。


……そうだ、認めよう。



今、俺は、間違いなく、知らない場所にいる!






一部ご意見を参考に修正しました。本編に影響はありません(2019,6)。

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