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喫茶店への道

作者: ParticleCoffee
掲載日:2017/03/04

 1


 家を出て、玄関のトビラにカギを掛ける。

 キーを引き抜くと同時に携帯電話が鳴った。

 画面には、見覚えのない番号が表示されている。

 通話状態にすると、

「コーヒーにミルクをいれますか」

 第一声がそれだった。

 少しだけ待ってみたが、それ以上は何も言ってはこない。

「……結構です」

 それだけを言って、ボクは電話を切った。

 途端に、再び携帯電話が鳴りだす。画面には同じ番号が表示されている。

 電話に出ることもなく、ボクはその番号を着信拒否にした。

 

 2

 

 駅のホームでベンチに座り、電車を待っている。

 十数分の待ち時間を潰すため、ボクは読みかけの本を開いた。

 本に目を落としているボクのうつむきがちの視界の中に、白い物体がヒョコヒョコとはいって来る。

 ハトだ。

 クルックークルックーと鳴きながら、真っ白なハトはボクの足元にやってくる。

「コーヒーにミルクをいれますかぁ、コーヒーにミルクをいれますかぁ」

 尻上がり気味な言葉で、ハトが流暢に話しかけてきた。

「……いらないよ」

 ボクが優しく答えてやると、ハトはしばらくは黙っていたものの、すぐにまた同じ質問を繰り返し始めた。

 背負っていたボディーバッグを開き、ボクは食べかけだった海外の『激辛スナック』を取り出した。

『激辛スナック』とは言うが、辛く痛く不味いと評判のチップスだ。

 それを数枚、適当に砕いてハトの前に投げつけた。

 ハトはなんの警戒もせずについばんだ。

 何度も頭を下げて何事もなく食べつづけていたが、突然、ハトはカラダを震わせ始めた。

 千鳥足になり、ホームをウロウロとし始める。

 飛ぼうとするもうまく飛べず、ハトは線路に落ちてしまった。

 そこへ、列車が来るという放送が流れ、まもなくホームに列車がはいって来た。

 ボクは、本を読みながらゆっくりと電車に乗り込む。

 

 3

 

 歩道橋を歩いていると、真ん中あたりで目の前に男が立ちふさがる。

「コーヒーにミルクをいれますか」

 黒い帽子をかぶり、黒いロングのトレンチコートを身に着け、黒いブーツを履いている。

 顔を、目深な帽子と立てたエリで隠しているため、クチモトしか見ることはできない。

 軽く一瞥して、一歩横に移動してそのワキを通り抜けてゆく。

 歩道橋の階段を降りきったところにも男が居た。

 先程男が居た歩道橋の真ん中を見上げると、そこにも男が居た。微動だにしていない。

「コーヒーにミ――」

 ボクは言葉に一切耳を貸さず、男の帽子をめくり上げた。

 途端に、糸が切れるようにコートは地面に落ち、目の前の男の姿は消えた。

 歩道橋の真ん中の男もいつのまにか居なくなっていた。

 ボクは残された帽子を深くかぶり、その場を去る。

 

 4

 

 

 市街地にある雑居ビルの一階――

 そこには、ボクの行きつけの喫茶店があった。

 ガラス越しに見る店内にお客さんの姿はない。

 ボクが店にはいると、カランコロンとトビラに付いたベルが鳴った。

 その音で、カウンターの向こうの、その下から店長の女性が顔を出す。

 はいって来たのがボクだとわかると、

「……いらっしゃい」

 おざなりな挨拶をして、再びカウンターの下に潜り込んでしまう。

 気にせず、カウンター席に腰掛けて店長の作業が終わるのを待った。

 五分ほど経ち、ようやく店長が立ち上がってきた。

「コーヒーよね」

 店長が豆を挽く準備を始める。

「いや、きょうはココアがいいかな」

 言いながらボクはかぶっていた帽子を店長に差し出した。

 それを受け取ると、店長は、『仕方ない』と言わんばかりに大きくため息をついた。

「じゃあ、カフェモカね」

「純ココアで」

 店長がボクに疑いと驚きの眼差しで見てくるが、おどけた仕草を返してみせた。

 もう一度店長は大きなため息をつき、

「あなたはやっぱりそういうところがあるわよね」

 店長はコーヒー豆を挽き始める。

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