第三話 俺は自分の力に気がつく
兄のブルーノの結婚式から一カ月。兄の妻となったフローラ義姉さんがうちの実家に暮らすようになったが、俺の周りで然程変化は起きなかった。まあ、そうだろうな。俺なんて成人した後に、領地が継げるはずもない味噌っかすの五男坊だ。そんな俺に、家族達の関心など向くはずもない。一応、それなりに弟として話はしてくれるが、それこそ簡素的なやり取りだけで、家族達の関心は、新領主となって開発需要で忙しくなっている領地運営だけだ。
俺なんて午前の語学と計算の勉強を終えれば、後は好きにしていいというスタンスである。そのため、俺は暇となって書物を広げて、この世界の歴史を調べたりしている。その他に興味深い資料を見つけた。
『魔法の書・初級編』
無造作に書物庫の本棚から出した後に見つけた本がこれ出会った。兄や父たちから聞いたことだが、この世界で魔法の需要は高いとの事だ。戦闘でも日常でも魔法は重要視される。だが現実は厳しく、魔法使いが重要視されている世の中であるにも関わらず、それに比例して魔法の適性を持つ人間が限りなく低い事であった。
ファイナルワールドなら、職業で魔法使い系の職業を習得していれば、魔法など簡単に覚えられる。レベル1の状態でもF級の下位魔法を既に固定されて習得しているのだが、この世界では、ゲームのように簡単にはいかないらしい。15神は、確かにファイナルワールドの魔法や知識を、この世界に普及させたが、それでも誰でも魔法使いなれるような下地までは、作っていなかった。この世界の魔法適正は、先ほど説明したように限りなく低いうえに、親が魔法使いでも子供に遺伝するという事は半分にも満たず、一割から二割といった確率だ。
そのため、魔法の家系という存在がないため、魔法とも無縁な平民の子が突然変異で魔法の力を宿しているというパターンが存在する。人口比率敵に平民が圧倒的に多いので、本来ならこのような日常生活に欠かせない重要な役割の研究や管理している部署は、貴族など位の高い人間で構成されているが、この魔法分野に関しては平民も貴族も関係なく、優秀な魔法使いが高い地位にいる事が前提であるため、実力主義の面が強いとの事だ。
「でも、俺が覚えられるのか?」
後から気がついた事だが、俺はファイナルワールドでプレイしていたドドム12の特徴を全て受け継いでいた。そのため、レベルは100というプレイヤーとしてはカンストしているのだ。そのため、カンストしている俺が新たに成長できるのかと疑問に思っていたのだ。そして他にも理由は存在する。
俺はファイナルワールドでは、前衛の戦士職についていた。それも完全に攻撃特化の重戦士という職業である。ファイナルワールドでは、RPGでは基本的にプレイヤーの職業により、覚える技や魔法が決まってくる。俺の選んだ重戦士は、前衛職として攻撃に特化した攻撃スキルを多く覚える傾向があり、そのためどうしても魔法や補助関係のスキルは覚えない傾向にある。攻撃以外に覚えるのも身体強化のスキルであるため、全くといって良い程に魔法を覚える事はない。
「まあ、暇だし。幸いにも重戦士でもMPはあるし、試してみるか」
そう思って暇つぶし程度に覚えられれば、それでいいといった感じに俺は魔法を覚える事にした。魔法の書・初級編の本のページを捲り、最初の基礎となる部分を読み始める。
「先ずは魔法の契約をしてください。契約完了後に、アナタは魔法使いとしてのスタートが始まります」
魔法使いといってもスタートラインには誰でも立てるが、それで成功するかは基本的に才能任せであるとの事だ。ファイナルワールドでは初歩的な攻撃時呪文や補助呪文を使えると思うが、この世界の初歩的な魔法は、ライトのように小さい明かりを灯したり、火種を作ったり、小さいバケツに水を入れる事など、そんな簡単な物のレベルだ。ファイナルワールドどの初歩的な攻撃魔法や補助魔法を使えるだけでも、魔法使いとしては、そこそこ優秀な部類に属される。
「契約終了後は、瞑想してください。個人差はありますが、アナタの適正魔法が浮かび上がります」
目を瞑り瞑想に入る。しばらくすると、何か火が浮かび上がる。どうやら俺は、火の系統魔法に適性がある事がわかった。どの種族も魔法は基本的に一つ属性に絞られる為に、他の属性魔法を覚えるのは本人の才能と努力による所が大きいらしい。
それから俺は火が手のひらに集まるようにイメージをする。すると小さい炎が出来上がった。
「初歩の魔法を一週間使い続けて魔力の増大を確認できれば、魔法使いとして一歩進めます。次からFランクの攻撃魔法・補助魔法に入ってください。だだし、回復魔法は水属性に属されますので、他の属性に適性がある場合は、最初のうちは適正のある属性魔法を習得するのがおすすめです」
俺は火の系統に属されるので、火の魔法を重点的に覚えるようにする。初歩魔法を使い続けて、MPを増幅させる行為は、まだ攻撃魔法が使えるまでMPがないとう事でもあると思った。魔法の大まかな使い方を理解した俺は、工程を飛ばして直ぐに攻撃魔法を覚える事にした。
重戦士といってもMPはあるので、魔法の基礎だけ覚えれば魔法を使えるだろうと思ったからだ。午後は、外に出て森で試し撃ちをするのだった。先ずF級の初歩魔法を唱える。
「マジックアロー」
マジックアロー。ファイナルワールドで魔法職を獲得していれば、レベル1の状態で既に覚えている攻撃魔法。その名のとおりに、魔力を宿した矢を発射する攻撃魔法で、魔法職でプレイする駆け出しのプレイヤーが好んで使う魔法だ。属性という縛りがないので、どのモンスターにも均等にダメージを与える事が出来るうえに、魔力の消費が少ない事も利点の一つだ。
森の中にある適当な木に向けて放ったマジックアローは、木を簡単に貫通した。戦士職の俺が魔法を覚えるか……ファイナルワールドではあり得ない事だが、既にプレイヤーとしてカンストしている俺が、新たに技を覚える。これは、まだ俺が成長できるという証なのかと思うと喜びが体中に走り渡った。
「俺に期待もしてない家族達。なら、俺は自立の為に生きる術の幅を広げるとするか」
領地の継承権が最下位の俺。しかも最近になって長男のブルーノが領主となって、俺を除いた兄妹達の次代の人選での領地運営がスタートした今、年齢的に厳しい俺が、ここにいてもしょうがないので、俺は冒険者か軍人になる事を決めた。
この世界には、ファイナルワールドと同様にモンスターが存在しており、これらのモンスターの討伐に冒険者というモンスター討伐や未開発の土地での、探索という職業がある。この冒険者になるには15歳になれば冒険者にもなれるが、それでも早く自立するには、12歳から入学資格がある国が運営する士官学校に入る事だ。ここで三年間勉強して、15歳になったら冒険者になるか軍人になるか選択の幅が広がる。
手っ取り早く自立するなら、12歳で士官学校に入るようにするのが一番だ。こうして俺は、新たに成長できる術がある事を知って、満足しながら今日の一日を終えるのだった。