第二話 王都にて兄の結婚式に参加する
長男であるブルーノの結婚式に参加するため、普段ならあまり着るようでもない貴族の礼服に着替える。俺が着ている礼服の値段は、銀貨20枚分に相当して現実世界の値段に換算すると、20万新円に匹敵する値段だ。俺が社会人の時の月給が、手取りで18万7789新円であった俺からすれば、滅茶苦茶高い買い物だと思うが、貴族は見栄をはる事が基本で、こういう集まりでケチると貴族として下に見られて逆にマイナス評価となるで、長い目を見れば、そこまで痛い出費ではないらしい。
ちなみこの世界での金は基本的に硬貨だけで、紙幣は存在しない。硬貨の価値を表すと、銅貨=1ギル、銅板=10ギル、銀貨=100ギル、銀板=1000ギル、金貨=1万ギル 金板=10万ギルといった感じだ。これより価値なる硬貨があるが、新金貨という通貨だが、これは基本的に貴族の中でも大物や大商人が扱うようなデカイ買い物をするために使用する為に使われる通貨であるため、普段は滅多に扱かわない。
そもそも普通の一般市民でもどんなに高い通貨でも銀貨であるので、それより上はあまり使わないのが常識らしいのだ。
話は逸れたが、こうして準備をして俺達はストリーナ家が用意してくれた魔法飛行船に乗り込んで、王都に向かうが、途中でストリーナ家が収める領地にいく。うちの領地は伯爵家でも広い領地を持っているが、まだまだ開拓の最中であるため、そこまで町の規模でも地方都市の扱いであった。それで代々受け継いだ土地を出格下ストリーナ家の領地は、南部一の商業都市でもあるため、シリアート領と比べれば都会といった感じがする。人口は20万以上はいるそうだ。
そして親父とストリーナ家の領主が互いに愛想の良い挨拶を交わした後に、豪華なドレスを纏って現れた肩まで伸びる赤い髪をした美少女が現れた。彼女がストリーナ家の長女のフローラらしい。イケメンと美人の組み合わせは、本当に絵になるよなと思う俺だった。
「ブルーノさん。我が娘をよろしくお願いしますね」
「ええ、必ず幸せにしますお義父さん」
「ありがとう……でも、やっぱりフローラは!!」
「あなた!いい加減にしてください!」
ナイスミドルで威厳のあるストリーナ現当主を、妻と思われるフローラと同じ赤い髪をした品がある中年女性が耳を引っ張って叱る。その光景に、周りの家臣たちも苦笑いしており、フローラとそしてその夫となるブルーノも苦笑いであった。
大貴族といっても、親バカは何処にでも存在するのだと再確認する。その後は、簡単な世間話でもしながら魔法飛行船に乗って王都に向かうのだった。
ちなみに、この魔法飛行船は、この俺達が所属するローゼル王国が作り出したものではない。古代遺跡で発掘した物を使用可能な物を再利用して使っているに過ぎないらしいのだ。先ず、この魔法飛行船は、この世界の現代の魔法技術では作り上げるのは不可程のオーバーテクロノジーの塊だとの事。
実は、この世界で使用されている魔法飛行船は、俺が前世の時にプレイしていたファイナルワールドで一般的に使用されている魔法船と同じなのだ。この事実に俺は少なからず驚いているが、家にある書物室にて暇つぶしに歴史の本を読んでいた時に分かった事だが、遥か5000年ほど前に神の使いが降臨したと伝わっている。
歴史に記されている神の使いは、こう伝わっている。5000年ほど前までモンスターと終わりなき戦いに、人間族、エルフ族、ドワーフ族、獣族の国家は疲弊しきり、戦乱の世となっていた。その戦乱の世を終わらして安定の世を築いたのが、突如と地上に降臨した神である。最初は15名の神の使いが降臨し、モンスターを駆逐していき、それまで、どの種族も倒せなった最強のモンスターである伝説のドラゴンを倒す程の強者であった。強さだけでなく、彼らがもたらした多くの知識と技術は、人類の発展に貢献した。そして15名の神の使いを現代でも数多くの種族が信仰しており、この神の使いを15神として信仰しているそうだ。
それから数百年は、魔法技術や神の使いのアイテムが人類の文明を大幅に向上して繁栄の道を歩んでいたそうだ。だが、その繁栄も打ち止めとなり、神の使いが居なくなると、今度はモンスター相手にしていた戦争が、今度は人間族、エルフ族、ドワーフ族、獣族による戦争に発端した。皮肉にも神の使いがもたらした英知が、種族による覇権に使われるようになった。この戦争は百年間も続き、そしてこの愚かな戦争で神がもたらした英知は消滅した。
現代の技術では再現が不可能な15神達の魔法技術やアイテムの研究は盛んにおこなわれている。15神のアイテムや魔法技術を再現しようと行われているが、今も解析がそれほど進んでいないのだ。俺達が乗船している魔法飛行船も、そんな15神が残したオーバーテクロノジーの一つとの事だ。
(つまり、ファイナルワールドのプレイヤー随分昔にこの世界に飛ばされて、魔法飛行船を含めた色々な物をこっちに普及させたって事か)
ちなみにこの世界の魔法も、15神がまファイナルワールドを広めたので、使う魔法もファイナルワールドと全く一緒である。ファイナルワールドの魔法は、S、A、B、C、D、E、Fの順までランク付けが決まっている。例えばFからEの上位クラスの魔法が下級魔法、D~Cの上位までが中級魔法、B~Sが上級魔法とされている。このランクより上の魔法も存在する。それは超魔法とされる魔法。その魔法はMPも消費しないが回数宣言が決まっているうえに、発動時間が長いため、そうそう連射が出来ないのが欠点でもある。
なお、この世界で魔法でD級の中位までの魔法を使えれば熟練の魔法使いとされており、B級の下位を使えれば英雄クラスとされている。そういったB級の魔法を使えるのは15神の隔世遺伝により、稀に遺伝して英雄クラスの魔法を難なく使える存在が現れるらしいのだ。ちなみにうちの長男のブルーノは、15神の遺伝を受け継いでいるらしく、これに当たる。
それでもB級の魔法を使えるからといって、それで英雄扱いされるのもどうかと思うのは俺だけかな。何しろファイナルワールドは、レベルの上限は100まで、レベル85までは簡単にレベルが上がる。そんな簡単になれるレベル85で魔術士の職業を獲得していれば、A級魔法は獲得できるのだから、それを考えるとB級で英雄扱いされるのが、凄く微妙に思えてしまうのだ。いや、これはファイナルワールドの常識を口にしているだけで、こっちの世界には、その常識を含まれないのはわかるけど、それでもやっぱり俺としては微妙と思ってしまう。
それからシリアート家とストリーナ家で、ワイワイと会話やダンスといった社交辞令をこなしながら王都には2日で着く。馬車だと下手をすれば南部から往復だけでも一カ月はかかるが、飛行船ならば往復で一週間
もかからないから、どれだけ魔法飛行船が便利なのを理解させられる。
ストリーナ領も商業都市として規模はデカいが、やはり国の象徴ともいえる国の王都であるため、ストリーナ領とは比べ物にならない程の規模の大きさだ。商店や食堂が並び、一般市民のエリアでも豪華な家が並んでおり、これが当たり前のように建っていると、ここが本当に王都だと実感した。それから魔法飛行船から降りて、既に王家が用意してくれた会場に向かう。結婚式の場は、王都でも結婚場としては高い屋敷で行うそうだ。
「スゲ……」
映画のワンシーンにいるんじゃないかと思う程の場所に来て、もと日本人の間隔から場違いかんが半端なく感じる。こういった会場に来る機会、前世でもなかったので、俺は何をすればいいかわからず緊張してしまう。
「カルロ。変に固まらなくていい。貴族の子供として、羽目を外さなければそれでよい」
そう言って俺にアドバイスをくれる父だが、その父親自身も引き攣った笑顔の表情をしている。それはそうだよな。兄貴が手柄を立てる前は、辺境の準男爵でしかない父は、こういったデカイ規模のパーティーに参加する事などなかったのだから。
何しろ面子がやばすぎる。教会から枢機卿、王家の重鎮達に、軍部からは将軍クラスに、他の辺境伯の関係者まで来ているのだから、これだけの面子に父は、どう対応していいか緊張しっぱなしだ。そんな中で、次男、三男、四男のトマーゾ、ミルコ、ヘルクもすごく緊張しているのが分かるが、長男のブルーノだけは、そういった緊張から無縁なのか、普通に先ほど説明した重鎮達と平然と会話している。
うん。本当にブルーノ兄貴は完璧超人すぎる。実際に、この世界の基準なら魔法を使って無双できるし、領地運営も問題なくこなせる。武と知を備えわせた全ての才能を集約した完璧超人であるブルーノ兄貴であった。
「シリアート伯爵。そちらは景気がよくて羨ましですな」
「アダロフ男爵。いや、私でなく息子の力量によるものですよ」
このアダロフ男爵は、うちのシリアート家の領地が近いために繋がりがある。今回のパーティーに参加されたようで、父と世間話をしている。
「本来は、ストリーナ辺境伯の所で行おうと思ったのですが」
「王家の介入で、なしになったと……」
「その通りですよ。王家は油断も隙もない」
「全くその通りですな」
実は、今回の結婚式は本来なら南部の辺境伯であるストリーナ家の面子の事もあり、ストリーナ領で行う予定であったが、王家が介入したせいで、王都で行うはめになったのだ。実際に、王家が介入しなければ、王国空軍管轄の希少な魔法飛行船を使う事など、まずありえない事だからだ。
父や兄達の会話を聞くかぎり王家は、南部の二大貴族が、これ以上の強いつながりを持つことに危機感は抱いてはいないようだが、少しでも南部の開拓利権に食い込むために、王家の繋がりが強い貴族に、次男や三男に正妻、もしくは側室に組み込もうとしているらしいのだ。そして、本来なら今回の結婚式の直後に、長男であるブルーノに、我が娘を側室にとの誘いが多いそうだ。実際に、ブルーノにそういった貴族や王家の人間達に囲まれて、そういった話を持ってきている。
結婚場で堂々と、側室をどうぞとの話しはどうかと思うけど、これも少しでも利益を得るために、開発需要で利益を得ているシリアート家と繋がりを持ちたい他家の考えらしいのだ。こう思うと、本当に貴族って複雑で極まりないめんどくさい人種だと思うよな。
それから、結婚式は豪勢に行われ、その後は次男、三男、四男のトマーゾ、ミルコ、ヘルクに、正妻に、側室にとの誘いが更に多く来ていたが、俺にはそう言った誘いは一回もこなかった。それはそうだろうな。俺なんて、他の兄達と比べれば歳はかなり離れているし、俺が成人する頃には、長男を筆頭とした兄妹達の領地の権力基盤は完成しているだろうし、俺みたいな五男の味噌っかすに興味なんてないだろう。
まあ、別に悔しく思ってないよ。前世で異性と話した機会が少なったから、どう喋っていいかもわからなし、逆に一人で豪華な飯を食えて満足だったからね。けしてボッチで寂しくないよ。これ重要だよ。