第一話 そして彼は立場を理解する
俺が転生した家は貴族の家で伯爵家であるシリアート家。南部に位置する伯爵家。次期当主である長男ブルーノ二十二歳、次男トマーゾ十九歳 三男ミルコ十六歳 そして俺、カルロが現在六歳というわけだ。え、四男はどうしたかって?それは、現在のた親父のイルデブランドの妾の子供が四男、長女、次女をを生んでいるからだ。こっち平民の母親の子供であるため、貴族ではないらしいのだ。俺は、かなり歳が離れているが、本妻の子供なので領地を継ぐ継承権はあるが、これがかなり低い。
何しろ俺の一番の上にあたる兄であるブルーノが健在であり、貴族としての功績を作っているからだ。
先ず、このシリアート家は本来は準男爵家という領地持ちの貴族の中では一番位が低いかったのだ。俺達が属するローゼル王国の南部は未開拓地が多く、ここを開拓すれば莫大な利益を得る事が出来るのだが、現実はそこまで甘くなかった。未開拓地故に野生動物が沢山おり、熟練の兵士でも下手をすれば殺されかねない魔物が多く存在する地域であるため、この地に来て130年という年月を得ても我が家は、開拓が上手く進まなったらしいのだ。だが、それは長男であるブルーノの活躍により、条件は一変した。兄は、どうやら魔法の才能が高いらしいのだ。それこそ英雄とも呼べるほどの魔法を十二の時には、既に獲得しており、その魔法を使い、未開拓地にいる木や雑草や岩を切り裂いて、そこに畑や田んぼを広げ、水源までも作り出だした。
ブルーノ兄貴の魔法により開拓は次々と前倒して、異例のスピードで今まで未開拓の土地が住めるようになっていたのだ。これにかぎつけた他の領地にいる家を継げない次男以下の男や、新たな開拓地で一旗揚げようとする家族達が移民してきて、シリアート領は人口が増える。更に魔法以外に領地運営も父よりもうまく行えたので、莫大な利益を兄が領地を継ぐ前にシリアート家にもたらしたのだ。これだけの実績を幼いころより、今現在も貴族としての名声を高めている兄の功績により伯爵家になるまでに規模が成長した。当然のように、このような実績を打ちたてたブルーノ兄貴に結婚の申し込みは殺到しているそうだ。
だげど、まだ領地も継いでいない、まだやる仕事も沢山あるので、まだ結婚はしないと断っているそうだ。出来れば早く結婚して欲しいと父親は思っている。既に領民たちも平凡な父が領主ではなく、兄であるブルーノが既に領主という扱いであるのだ。それも父親はわかっているので、だからこそ早く嫁を貰って領主となってほしいと思っている。これは、父親以外の他の兄たちも同じ心境である。長男であるブルーノが結婚しないせいで、それよりしたの兄達も結婚出来ないと言うのが現状だ。
俺からすれば、結婚できるなら好きに結婚すればいいじゃんと思うのだが、そこは複雑でめんどくさい貴族社会。そうは行かないのが現状らしい。長男が、貴族の母でなく平民出身や同じ貴族でも序列が低い妾の子でもない限りは、次男以下は長男が結婚するまでしないのが決まりらしい。長男が領地継承権第一位であるので、そんな中で次男以下が早くから結婚すれば、その継承権第一位の長男を排除して自分こそが、領主だと堂々とアピールしているようなものらしいのだ。
これが原因で、お家騒動を起こして没落した貴族の家は歴史的にみて多く存在するらしく、現在では長男が酷い病をもって継承が不可の場合や余程の無能でもない限りは、長男が領主を継承するのが一般化しているのだ。例え次男以下が、長男より優れていても余程の差がない限りは領主になる可能性は現在の所はないのが現状だ。それでも次男は、長男が万が一に備えて、分家を起こさせて領地の運営に関わる事が出来るらしいが……。
ブルーノ兄貴は無能とはかけ離れた存在だ。俺が言うのもなんだが美形で、頭もよく、魔法も使えるという、この世の才能を全て受け継いだ完璧超人というのが俺の印象だ。性格も普段は温厚であり、領民の悩みも素直に聞いて、家臣たちの利害調整も難なくこなすという外も中身も完璧だからだ。これを完璧超人と言わなくて、何と称していいのか分からなくなるほどに……。
ここまで現状を理解した俺は、本妻の子供であるが貴族であってもこのまま領内にいても仕事がもらえない。
現在、伯爵家にまで位が高くなったシリアート家は、伯爵家に見合うほどの規模に成長しているらしく、現在も未開拓地域を開発して領地の規模はドンドンとデカくなっている。それでも仕事を貰えないのは、俺が紛いなりにも貴族の本妻の子供であることが原因。俺の父親の方針で、このシリアート家の領地運営の法則は既に決まっているのだ。ブルーノ兄貴がシリアート伯爵家当主として君臨して、そして次男のトマーゾ兄貴に三男ミルコがシリアート家の分家となって王家より準男爵の位を授かる事が決定しているらしいのだ。
他にも親父の妾の四男のピーノ十三歳も成人すれば、他の兄弟たちをサポートする事も決定している。
あ、ちなみにこの世界の成人は十六歳。そして結婚適齢期は、十六から二十三である。それを考えればブルーノ兄貴は、かなり結婚適齢期ぎりぎりであるため、現当主の親父も早く結婚して欲しいと思って焦っているのだ。食事の時に話を聞く限りは、ブルーノ兄貴が断り続けたのも大きいが、その他の要素も多く含まれているのだ。
ブルーノ兄貴の功績や魔法使いとしての実績は、他の貴族家からすれば大いに注目を集めるものだ。そのため大物貴族は自分の妻にと、そして爵位が低い貴族は自分の次女や三女を側室にと話を持ってきたのだが、これに王家までも話に加わったせいで、話がごちゃごちゃに入り乱れて互いをけん制しあって、纏まる話もまとまらないまま進んでしまい、この要素も加わってブルーノ兄貴が結婚を断っている事もあって今でも独身のままであった。
そうした現状で、俺が成人した時にはシリアート伯爵家の基盤は完成しているだろうと想像すると、俺にシリアート伯爵家で仕事はないと考えると、早くから自立する術を身に着けた方が利口と思った俺は、今日も前世とは比べ物にならない程の豪勢な飯を食べながら自立の術を考えて食べていた。
「……」
ワイワイと話しながら食事する事はない。皆が淡々と出された食事を貴族の礼法にのっとて食べている。俺は、やはり六歳の子供であるため他の面々と比べれば量は少なかったが、それでも食事の質は他の家族達と同じだ。今日の晩御飯は、白くて柔らかいパンが二つに、チキンステーキ、具沢山のシチュー、サラダといった所だ。これにドリンクは、果物で搾り取ったジュース。デザートはアップルパイといった豪勢な食事だ。
この世界に転生した最初にめっちゃテンションが上がったのは、天然食材を使った料理が食える事だった。何しろ前世の世界は、環境は壊滅的に破壊され尽くされて、土地も枯渇していたので、天然食材の物価が高騰していて生野菜や果物といった食材は、クリスマスに食えればいい方だ。天然の肉など本当に、コロニーやアーコロジーに住んでいる富裕層にしか手が出せない程の高価な食材になっていたしな。
俺達庶民が食えた飯といえば何が材料で出来たかも聞きたくもない合成食。これがとにかく糞まずいの一言だ。栄養価だけを考えられて作られた栄養バーや、合成肉や合成野菜などマジで味がしないしな。実際に初めて天然食材を食った時はスゲー感動したよ。そん時に俺は、コロニーやアーコロジーに住んでいる富裕層は、毎日食っている事を考えているとマジで貧富の格差の差の激しさに泣いた記憶があったのを覚えている。
この世界に来て俺にとっては、マジでメリットだらけだ。ガスマスクも必要としない新鮮な空気があふれ出ている外の環境や、肥えた土地で栽培された果物や野菜が安価で食える安心感。肉は高価だが、手が出せない程の値段でもないので、安心して変えて食える事も俺にとっての贅沢ともいえる。元の世界に比べて娯楽は少ないが、それでも俺は元の世界に対する執着心は微塵も感じない。あんな夢も希望もないあっちの世界に比べれば、まだこっちの世界は選択肢も豊富であるし、夢も希望は沢山ある。
そう思いながら飯を黙々と食べていると、父親のイルデブランドが突然と真剣な表情になり、間を置いて咳き込むように呟くと、俺達にある事を告げた。
「我が息子達よ。今日はめでたい話がある。ついにブルーノの婚約者が決定したぞ!」
それは満面の笑みを浮かべて父は、そう周りに告げた。
「ようやくですか父さん!」
「やっとブルーノの兄貴も結婚するのか!」
これに次男のトマーゾと三男ミルコが、やっとかよと言った感じの表情でそう言うのだった。二人からすれば、兄がなかなか結婚しないので、そのため成人を迎えても結婚できない為に、早く結婚できるチャンスを掴みたくて仕方なったようなのだ。
「おめでとうございます。ブルーノ兄さん」
俺も兄であるブルーノにお祝いの言葉をかける。
「ありがとうカルロ」
俺に微笑んでお礼を言うブルーノ。うん。やっぱり外も内も完璧イケメンは、何をやっても様になっているな。
「それであなた。婚約者は誰なのですか?」
母であるカルメンが、父に婚約者が誰なのかと聞く。
「うむ。ストリーナ辺境伯の長女であるフローラ嬢が婚約者だ」
ストリーナ辺境伯。俺達と同じ南部に位置する貴族で、南部の辺境伯であるため事実上は、南部貴族では最大の影響力を保有している貴族だ。今までは南部では辺境伯であるストリーナ家と俺達成り上がりのシリアート伯爵家は、二大貴族として知れ渡っているそうだ。父親曰く。少し前なら辺境伯の長女を嫁として向かい入れる事はまずありえなったそうだが、ブルーノの活躍で伯爵までに爵位が上がった事もあって出来たとのこと。
ストリーナ家の長女であるフローラ嬢は、今年で十九歳になるらしい。普通は大貴族の長女は、直ぐにでも成人後は繋がりが強い貴族に嫁ぐそうだが、ストリーナ家は男性が多いのが特徴で娘は長女のフローラしかいなかったので、一人娘が可愛くて仕方なかった現当主は、どうしてもフローラを嫁に出す事を延期していたらしいが、ついに折れてうちに嫁ぐ事を決めたらしいのだ。
現在、開発需要で莫大な利益を出しているシリアート家との関係を強くしようと考えているとの事だ。前の世界の基準で親が勝手に子供の結婚相手を決めるのは、どうかと思うが、この世界の貴族は実際に、こんなものらしく、逆に恋愛結婚など稀だ。逆に言えば、ここまで娘を溺愛して結婚を遅らせたストリーナ家の当主は、貴族社会の中では家族愛が強い貴族として知らているとの事だ。
「結婚式は王都にて行われる。シリアート家に恥じないように、お前達も心がけるようにしろ!」
こうして転生して一年も立たないうちに兄の結婚式に、俺は参加する事になった。