プロローグ~突然の転生
21XX年。第三次世界大戦の終結は、大量の核兵器の応酬により誰が勝者か敗者かもわからないままに終結した。全世界の国家が立ち直れない程の大打撃を受けて、国家という概念が消滅した。国家破綻を起きた事により、政治がまともに機能していないスキをつき、世界各国の巨大企業が国政を掌握した。
巨大企業の社員・関係者は、第三次世界大戦による環境破壊により、外出するのに必須とも言える防毒マスクも着用しなければいけない地上を見限り、アーコロジーや地球を離れた宇宙コロニーに移住し外界から離れた生活を送るが、それでも生き残った地上にいる大多数の庶民は、その汚れきった地上での生活を余儀なくされた。そんな夢も希望もない地上でも彼らは生き抜くために働いている。それが、どんな過酷な環境であろうとも、富裕層に搾取される側であろうとも、彼らは生きている。
現代の環境は、有毒物質を含んだ霧が当たり前のように発生しており外出するにも防毒マスクを着用が当たり前の外界に出る事はまずなかった。そして娯楽も室内で行えるスポーツ。映画鑑賞やオンラインゲームに限られたものとなっている。
これは、そんな過酷な環境で働く社会人が異世界に転生した男性の物語である。
ーーー。
VRMMORPG ファイナルワールド
数多く出ているVRMMOの中でも高い人気を誇るVRMMORPGである。人気の特徴は、今まで出てきたVRMMOが作り物であるかのような極限まで再現したクオリティーの高さと言ってもいい。まるで生きた人間のように喋る感情表現が豊かなNPCに、武器や防具の重さや痛みの再現に、食事の旨みの再現など、数えればきりがない程に新技術を搭載した新世代VRMMOとして注目されていた。
しかし、栄枯盛衰という言葉を表すようにいつかは衰退する。それは圧倒的に人気を博していたファイナルワールドも例外ではない。二十年という年月を迎える現在、サービスがついに終了する日を迎えた。
「この景色を見るのも今日で最後か……」
身長が二メートルを超えて、誰もが見ても筋肉質なガッチリとした体に、顔は危険な男を思わせる強面な外見。それに巨大な両手で持つことを前提で振り回す事も困難な斬馬刀を片手で軽々しく持つ男の名は、ドドム12。これはふざけた名ではなく、この男の本名である。無論、ファイナルワールドで活動するプレイヤー名がつくが……。
ドドム12のリアルの名は、田中次郎。今年で二十六を迎える中卒で社会人となった青年である。中卒で社会人と聞けば、大した事がないと思われるが、この時代の人間では然程珍しい事でもない。国家概念が消滅して、巨大企業が世界を掌握したこの時代では、義務教育が消滅しており、小学校にいくだけでも莫大な金がかかるのだ。そのため小卒で12歳で社会人になる事も普通にあり、逆に田中が中卒で社会人になった事は、この世界の常識からすればかなり恵まれている方である。
高校などは、本当に社会人の中で上位の位置にいて成功している家庭でしか通う事が出来ない狭き門。大学は更に狭く、九割が既に外界との接触を遮断している巨大企業の関係者で占められており、庶民の中で大学をいけるものなど数パーセントの確率でしかない。
話は戻るが、この田中はVRMMORPGに趣味では片づける事が出来ない程の廃人である。無論、社会人であるためプレイ時間は一日の平均で二時間が限度であるが、課金につぎ込んだ額は洒落にならないほど高く、課金でレアアイテムを入手するために、ボーナスを全て課金につぎ込む程の廃人ぶりである。そんな人生の一部とも言えるゲームが、今日の夜の12時を回ればサービスが終了して現実に戻る。
そのため、ドドム12として行動するのは今日で最後になると思うと寂しさが彼の心情を埋め尽くしていた。
「楽しかったんた……本当に楽しかった」
田中に家族はもういない。自分が社会人として働いて五年でこの世を去った。友達とも言うべき存在も現実にはいない。そのため、人生の一部というべきファイナルワールドにリソースが向いていた。時にはギルドに所属して、ダンジョンに挑んでレイドボスに挑み、仲間と共に未知なるワールドを発見した高揚感。アホな下ネタで盛り上がったて終わった時もあった。
ここでの空間は、所詮は仮想空間で本物ではないと大半の人間は言うだろうが……このドドム12はそうは思ってなかった。このファイナルワールドで過ごした時間こそが、彼にとっての本物であった。夢も希望も生きている実感がわかない現実の世界こそが幻想で、生きている実感を感じていたのが、このファイナルワールドでプレイしていた時だけであったのだ。
「もう終わりが近いか……」
あと、五分もしないで夜の十二時を回る。そうなれば現実に戻る。
(明日は、部長が早くから会議もあるから早くこいって言ってたな。明日は五時起きだ)
サーバーが落ちたら寝ようとドドム12はそう思っていた。そして十二時を回った時に……彼の目の前は真っ暗になった。
ーーー。
「おお生まれたか!それで男か女か!」
「あなた、元気な男の子ですよ」
「男か……五人目だぞ……これで」
「そんな事を言わないでください。シリアート家の男の子に相応しい名を授けてください。」
「そうだな。この子の名は、カルロとする。五男であるため、シリアート家を告げる可能性はないな。
それに長男であるブルーノが、あれほど有能であれば尚更だ。」
俺は夢を見ていた。それは、まるで中世ヨーロッパのような貴族の格好をした欧米人に自分が赤ん坊となって抱きかかえられているシーンが写っている。そしてあたりも現代的な家具もなく、明らかに映画でしか見かけない家の構造だ。それからしばらくこの四十代後半の男女の話を聞くと、どうやらシリアート家は貴族の家系らしく、爵位は伯爵と高めの位であるそうだ。そして俺は、その家に生まれた五男坊であるらしい。
うん。そこまで映画のワンシーンを見て、随分とリアルな夢だなと思って、俺は目を覚ますと俺が住んでいたアパートと違うようだ。ベットもこんなフカフカな羽毛を使った高級感あるベッドじゃない。ファイナルワールドのサービス終了は延期となって新たなイベントかと思ったが、それは違うようだ。
「え?」
ベッドから降りると、明らかに身長が縮んでいる事に気がついた。そして肌を触った感触は明らかにゲームではなく本物のリアルな感触だ。鏡で自分を見ると……
「ハハハ……マジかよ」
俺は自分で今の姿を見て苦笑いした。そう、俺の外見が典型的な欧米人の五歳児の顔つきに変わっていたのだ。どうやら随分昔に流行ったネット小説のジャンルの一つである転生者という存在になってしまったのだと、俺は、この時に理解するのであった。