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氷の館  作者: 辰野ぱふ
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新しい生活 (1)

 グラシコ地方では、星を見ることは難しかったが、それでも、ときどき、ぼんやり見えることはあった。マシウスは子どもの頃、城の窓から外を眺めて、そのまたたきを手に入れたいと思っていたことがあった。

 ジャイラとマシウスの新しい部屋の扉には、その星を飾ろうと、マシウスは思った。

 マシウスはマリユスの使っていた書庫にこもって、星の本を探し、七つの同じ大きさの星がひしゃくのように並んでいる星を扉に飾ることにした。

 それをマシシに伝えると、

「いいね」

 と言って、さっそくララシム家の遠い親戚の職人にたのんで、大理石を星の形にして、扉にはめ込んでくれた。

 氷の城でのジャイラの生活が始まった。

 ジャイラは、鉱夫が働く間は、坑道の入り口のホールで歌うことになった。ジャイラはすず板を鳴らすこともできたので、それをシャギシャギと鳴らして、自分で簡単なリズムを作ると、鉱石を採るもの悲しい歌を歌った。

 その声は、坑道からのパイプを伝わって、マシウスの部屋にも届くようになっていた。

 鉱夫たちには、それに合わせてハミングしてみるように、と伝えた。そのさい、口を閉じ、鼻の中にひびくように声を出すということ。ジャイラも石壁にひびく音を出せるように心がけ、歌うようにした。

 ジャイラにとって、歌を歌うことは喜びだった。

 マシウスはジャイラとの部屋で本を読んだり、マシシと相談したりしながら、いつもジャイラの声を聞くことができた。

 それは最初は心地良いと感じていたことだったが、時にはうるさく感じることもあったので、そういう時には音が流れ出て来るパイプの出口にふたをした。

「おやおや。今日は機嫌が悪いの?」

 とマシシが言うと、マシウスはいらいらした。

「毎日、毎日、同じ曲、同じ曲。なんだか気がめいることだってあるんだ」

 とマシウスは答えた。

「そんなこと言ったら、ジャイラはどうなんだ? ジャイラは毎日、あの穴ぐらで歌っているんだよ」

 マシシが言うと、マシウスはさらに腹を立てた。

「今日は、サルクネリのパブに出かけるぞ」

「はいはい」

 そして、マシウスは、ジャイラを置いてサルクネリのパブにまた通うようになった。

 そこで、ほかの歌姫の声を聞くと、新鮮な気がした。それぞれの歌姫が、それぞれの声を持っている。ジャイラの高い、繊細な声が一番だと思っていたのに…、ある時は低くお腹に響くような声をいいと思い、ある時は、かすれるように空気を伝わる声がいいと思った。

 

 ジャイラは毎日穴ぐらで歌い、歌い方を忘れてしまったように思っていた。マシウスのことを思い、マシウスのためにずっと歌い続けていれば、それでいいと思っていたはずなのに…。何かが違う。

 その気持ちが暗く心の中にたまると、ジャイラの声が出なくなった。

「おい! 気がめいるような歌を歌うんじゃねえ」

 とある鉱夫がどなった。

「おれらで合唱したほうが、まだいいよ!」

 とほかの鉱夫が言い、実際、男たちがそれぞれの穴の中で歌いだすと、それはいくつもの重なりをもった音になって、ジャイラの歌を圧倒した。

 ジャイラはもう、歌えないのではないか、と思った。

 その様子を部屋で聞いていたマシウスは、鉱道のホールに下りた。

「どうしたんだ?」

 とマシウスは言った。

「う、た、え、ま、せ、ん」

 ジャイラにはこれだけを言うのがやっとだった。

「歌えない?」

 困ったことだとマシウスは思った。ジャイラは何かの病気なのだ。

「それは良くない。休まないとね」

 とマシシも言い、ジャイラは部屋で休むことにした。

 ジャイラを一人で休ませるために、マシウスはまた一番奥にある、自分の部屋を使うようになった。

 ジャイラとの部屋を作る時に、自分の部屋の扉には、一つの大きな星をはめこんでいた。

 マシウスは自分のベッドに横になり、次にどうしたらいいのかを考えた。だがうまい考えは浮かんで来なかった。とにかく、鉱石をたくさん得ること。この屋敷の人たちだけでなく、皆が潤い、活気を得る生活。それを考えるうちにどんどん目が冴えてしまった。

 朝、マシシがマシウスの部屋の扉を叩いた。

「朝だよ!」

 眠ったような感じがしなかったのだけれど、起き上がる気力はあった。

 朝ごはんがすんだら坑道に行ってみよう。動き出しさえすれば、次の答えは見つかるだろう。

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