暗い部屋 (2)
だが、次の日になると、マシシはケロリとして、マシウスを誘いに来た。
「どう? 日にちが変わると気分も変わった?」
そう言っておもしろがっているように見えて、今度はマシウスの腹が立って来た。
「だから、放っておいてくれ!」
とマシウスはいらいらして、マシシをどなった。
「はいはい。そうやってどなれるじゃないか! コーネリア様のことを思えよ! もうコーネリア様は怒鳴ることもできない。動くこともできない、泣くことも笑うこともないんだ。それができるっていうのに、君はしないつもりなのか?」
今度こそ、マシシは怒ったのだろうか? でも、やっぱり次の日になると、マシシはケロリとして、マシウスの部屋にやってきた。
「もう、いいかげん、行こう。ソリなんて乗ればいいだけのことだ!」
マシウスはなんだか、もう、マシシに何か言う気になれなかった。
「ほらほら。もう、いいだろう! も300日も数えたんだから!」
マシシは怒っているのだろうか? マシウスはふと不思議に思って、マシシに聞いた。
「怒ったの?」
「ま、怒ったかもね。でも、怒っても次の瞬間には冷めちゃう。だって、怒っていてもつまらないからね。わしはもう、たくさんたくさん怒られてきたんだ。怒るってのは、すごくつまらないことさ」
「ふうん」
「じゃ、行く?」
とマシシに言われて、マシウスは思い切って、ソリに乗ってみようと思った。
ソリの中は、まるであの日と同じようだった。
「あの日と同じと思っている?」
とマシシが聞いた。
「あのね、今日は違う日だし、このソリは同じ形だけど、違うソリなんだ。あの日と似ていたとしても、同じことが同じように起ることはないよ。違う日なんだからね。あの日のソリは壊れてしまった。それはもう戻らないんだ」
なんだかんだと言葉をつなぐマシシのことがだんだんおかしくなってきた。
ソリに乗ってみると、怖かった。この怖い気持ちを思い出したくなかったのかな? とマシウスは思った。でも、走り出してみると、あの日以外の日のことも、すべるように思い出してきた。悲しいことが起るなんて、想像だにしなかった楽しい日々のことだ。
もう、夕暮れになっていた。ソリの窓から、うっすら暗いスーメルクの街が見えた。歩いている人はほとんどいない。家からは明かりがもれていて、湯気があがっている。皆、家の中で家族と暖かい時間を過ごしているのだろう。
「今日はサルクネリのパブに行くよ。楽しいってことを思い出すためにね」
とマシシが言った。
もし、今、ソリがまたすべり落ちたとしても、いいんじゃないか? とマシウスは思った。それならそれでいい。
部屋に閉じこもっていた時がうそのように思えたし、なんで閉じこもっていたのかも、もう思い出せなかった。




