歌姫たちの弔い (3)
ある日の歌姫はラッラだった。氷の館では声も出なくなってしまったというのに、また舞台で歌い出すようになっていて、ラッラの声は以前より出るようになり、肌つやも以前より輝くようになっていた。マシシはその歌に聞きほれた。
ラッラは舞台の上から、マシシのことを見つけていた。そして、歌い終わるとマシシのテーブルにやって来た。
「マシシ様、このところずっと一人だけでおいでですね。マシウス様はどうされたのでしょう」
そう優しく話しかけられて、マシシの心に、ポッと温かい炎が灯った。ラッラの瞳は深い湖のように青くうるんでいた。
「あたしがいけないのですよね。お役目も果たさないのに、ここに戻って来てしまって…。マシウス様は何かのご病気なのですね」
ラッラの目から次から次へと涙がこぼれ落ちた。それはガラス玉のように丸く、大きく、輝くように見えた。
マシシはつい、ラッラの頬に触れた。
「君のせいではないよ。マシウスの心には悲しみがたまりやすくなってしまったのだ。きっと、悲しみというのはいくつもの悲しみとつながっているのだ。だから、ひとつ悲しいことが起こると、その前の悲しいことも全部思い出すのだろう」
「あたし、また氷の館に行きます。マシウス様の元で歌います」
マシシは少し考えた。それはありがたい申し出だったが、でも、ミューリの言葉が思い出された。
『いい気なものね。たくさんの人に支えられて、たくさんの命をほしいままにして…。悲しみに苦しめられて当然だわ』
その言葉はマシシの心にも突き刺さっているようだった。
「君の気持ちはありがたいが、君までがまた悲しみで声をなくして、動けなくなってしまったら、わしまでがもっと悲しくなってしまう」
「でも、行かせてください」
マシシはまた少し考えた。そして、ふとひらめいた。
「では、わしのために来てくれるか? わしの生活をささえ、一緒に旅に出てくれるか?」
「旅?」
「そうだ。オルガンのからくり人形を作りに行くのだ。君に一緒に来てもらったらどんなにいいだろう」
「ええ、もちろん、あたしにできることだったら、何でもします」
マシシはラッラの手を取った。
次の日、マシシはバラの花で埋まったソリをサルクネリに向けた。前に、歌姫たちを氷の館に迎えたように、ラッラを迎えに行った。
そして、ラッラの前ひざまずき、
「もし、君にその気があるのなら、わしの花嫁になってもらいたい」
と、言った。
ラッラはどうしていいかわからず、マシシをじっと見つめていた。




