歌姫たちの弔い (2)
雪はそんなに大降りではないが、墓石の上にうっすらと新しい白い色が積もっていた。墓地ではスーメルクの楽隊がグラシコの悲しい歌を演奏していて、その曲を知っている人は、皆、口ずさんでいた。集まっている人の何人かは黒いかさを開き、サルクネリの歌姫たちは、数人ずつ一つのかさの下に入り、歌っていた。
葬られた歌姫たちの墓石にマシシが向かうと、両側から音楽が響き、それは層をなして、マシシを圧倒した。
マシシは、今、急に悲しいという意味がわかったような気がした。日々、自分のやることだけを考えて、忙しく働いてきたあれこれが、思い出となって改めてマシシにふりかかってっくるように思えた。
マシシの声が震えた。
「本日は、お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。ここ、スーメルクの坑道で、歌い、命を捧げてくれた歌姫たちに、深く感謝し、天国で安らかに眠ることができるように、お祈りいたしましょう」
ジムントがまず最初に、うやうやしく祈りを捧げた。そして、列を作った人々が、順番に祈りを捧げて行った。その間も、皆は低くグラシコ地方の悲しい歌を口ずさんでいる。あたりはその歌で満たされていた。
数人で固まってお祈りを捧げていた歌姫の中から、黒いマントをすっぽりかぶったミューリがマシシに近づき、燃えるような目で見つめた。
「ねえ、片目の若ご主人様はおいでにならないのかしら?」
その声は、冷たい雪よりも冷たく、マシシを刺してくるような感じだった。
「マシウスの心は悲しみにふさがれてしまいまして…。それが重すぎて、動けないのです」
「ふん、勝手な言いぐさね。ここに眠っているジャイラ、ダリダ、ミスリル、ラキュルズ、ハルミはもう二度と起き上がれないのよ」
ミューリには怒りの表情がよく似合った。
マシシは深くうなだれて、下を向いた。
その時、アンジュに手を引かれて、黒く光沢のある皮のコートを着たマシウスが、ゆっくりと墓地の入り口に近づいて来ているのが見えた。
「あ、来た。マシウスです」
だれが合図したわけでもないのに、歌がピタリと止んで、雪が降る音だけが聞こえる中、マシウスがよろけるように墓石の前に来て、そして、祈った。皆、それを息を止めて見ていた。冷たい空気の中で皆の身体は固まってしまったのか、ピクリとも動かず、まるで時間が止まってしまったような感じだった。
マシウスが、顔を上げると、皆がじっとその様子を眺めていた。何か言おうと口を開きかけたが、声にはならなかった。倒れそうになるマシウスをジムントが横から支え、マシウスはそれにすがり、アンジュに寄り添うようにして、立ち並ぶ人をかき分けて、皆の視線に送られて歩いた。
そのマシウスの前にミューリが立ちはだかった。
「いい気なものね。たくさんの人に支えられて、たくさんの命をほしいままにして…。悲しみに苦しめられて当然だわ」
ミューリの目から、ポロリと涙がこぼれた。
まるでそれを合図にしたように、また葬送曲が始まった。
マシウスは何も答えられず、ミューリの言葉に打ちのめされたように、力なく、ジムントに抱きかかえられてよろよろと帰って行った。
参列者は、一人、また一人とお祈りを済ませた。
マシウスはまた部屋に閉じこもってしまった。マシシが呼びに言っても出て来ない。
マシシは深いため息をついて、うなだれたが、それでも毎日マシウスの様子を見に行き、できあがったパイプを取りに行き、バルメコ地方のことを調べ、そこに行くための旅の用意を整えていた。
もう、いつでも出かけられるまでになったので、マシシはマシウスに話しかけた。
「どうだい? マシウス、旅に出ないか。きっと、もっとたくさんの時間、太陽が顔を出すような、暖かい地方に行けば君の調子もよくなるかも知れない。わしと一緒に出掛けないか?」
こう呼びかけてみても、マシウスは動かない。
その悲しみはマシシにも押し寄せて来ていて、いつも、陽気なマシシまでもが暗い気持ちになってしまうのだった。
マシシは気分を紛らわせるように、一人でパブに通うようになった。でも、ミューリに出会うのを避けて、こそこそとしていた。グラシコ地方の悲しい歌は、マシシをもっと苦しめるようになった。
それでもマシシはくじけず、マシウスの元に必ず顔を見せ、その日一日おもしろくない気分になると、サルクネリの所に通っていた。




