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氷の館  作者: 辰野ぱふ
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歌姫たちの弔い (1)

 今まで、氷の館で命を閉じた歌姫の弔いは、館の中では行った。その葬儀には氷の館に住む人、働く人、もちろん、坑道で歌姫の歌を聞きながら働いた人たち、そして灰色狼たちも立ちあった。

 でも、歌姫たちの棺は、その後氷の館の北側に掘られた地下の棺部屋に置いたままになっている。棺部屋の奥にはもう一つ違う部屋が作られていて、そこにはコーネリアの遺体が安置されていた。

 マシウスの世話をするアンジュとメイドのキミが、ここにだけは、毎日1本のろうそくを灯し、祈りを捧げていたが、それだけだった。


 朝、棺部屋に行く時には、二人はむくむくの暖かいコートを着て、二人で腕を組んで行く。コーネリアの部屋まで行くのに、ジャイラ、ダリダ、ミスリル、ラキュルズ、ハルミの五つの棺の間を通って行かなければならない。一人ではとても寒くて、こわくて入って行けないのだった。

 ローソクを灯し、祈りを捧げた後は、また二人で腕を組んで棺の間を通って帰って来る。棺の部屋の扉を閉める時に、二人はまたそこでひざまずき、祈りを捧げるのだった。


 その部屋から、マシシは五つの棺を運び出した。いつもザッカライのパン屋に買い出しに行く、頑強なスーメルク人が棺をかつぎ、ソリに乗せた。

 姫たちの喉をパイプにすることは、金職人と話がついていた。楽器を作る職人はグラシコ地方にはいなかったので、パイプの作り方もわからなかったのだが、調子の良いララシムの金職人が、

「パイプってものになっていればいいんでしょ? つまり、空気の通る管ならいいわけでしょ?」

 と軽く請け負い、マシシも軽く「それで頼む」と言って、とにかくパイプにしてしまうことになった。五人の歌姫の遺体は火葬して、岬の墓地に安置されることになった。

 そのパイプで大丈夫なのか? わからない。聞く人もいなかったし、マリユスの日記にも詳しいことは書かれていなかった。

 

マシシはいつでも葬儀が行えるように用意を始めた。まず、マシウスの予定を確認しなければならない。

 マシウスは気の病にかかっているようだった。いつもいらいらと怒っていて、すぐに寝込んでしまう。

 マシシが歌姫たちの葬儀のことを告げ、いつにしたらいいかを尋ねると、マシウスは深くため息をついて、

「いつでもいい」

 と冷たく言った。

「いつでも…」と、マシシはつるつる頭をなでて考えた。これはいちばんやっかいな答えだ。その日を決めても、その日にマシウスが寝込んだらどうなるのか? この葬儀の一番大事なところは、マシウスの悲しみを一緒に葬ることなのだけれど…。

「じゃあ、一週間後にするよ」

 とマシシが言うと。

「わかった」

 とだけマシウスは言い、また部屋に閉じこもってしまったのだ。

 それからの一週間に、マシシは一日も休むことなくいろいろな手配を済ませた。サルクネリに行き、親方にも、歌姫にも参列してくれるようにたのみ、スーメルクの親戚に楽隊の手配をたのみ、葬儀の間に音楽を流し、歌姫にあのバルメコ地方に伝わるもの悲しい歌を口ずさんでもらうようにした。悲しい旋律は歌姫を天国に送るのにぴったりのような気がした。

 人が祈りを捧げる間、寒くならないよう、松明を灯したほうが良さそうだ。その場所を用意し、石炭を用意した。暖かい飲み物、食べ物も必要だろう。それをメイドや執事に運んでもらって…、とつぎつぎに手配して、葬儀の用意はすべて整った。あとはその日にマシウスが起きて、参列してくれることを祈るのみだ。


 合同弔いの当日、人々は葬儀の開始時間に合わせて、岬の墓地に集まって来ていた。

あいにく雪が降り出していた。雪と言っても、氷のつぶに近くて、ささくれだっている。マシシはなんだか嫌な予感がしながらも、「マシウス!」と扉の外から声をかけた。

 中からは声も聞こえなかった。

 世話係のアンジュも葬儀のために黒いドレス、黒いコートを着て用意していた。

「どうだい? マシウスの様子は?」

 とアンジュに聞くと、

「葬儀の日に近づくにつれ、だんだん気分がお沈みになっているように感じます」

「じゃあ、どうかな? 今日は起きだせないのかな?」

 マシウスが言うと、

「わたしはどうしたらいいのでしょう。マシウス様のおそばを離れない方が良いのでしょうか」

「うう…、そうだね。ここにいて、いつでも出かけられるようにしておいてくれ。もしかしたら、急にマシウスが行く気になるかもしれないしね…。そうしたらマシウスを励まし、一緒に来て欲しい。わしは、もう行かなければならないから」

 とマシシは懐中時計を確かめて、

「正午の合図で式を始めることになっているからね。よろしくたのむよ」

 とアンジュに言って、とぼとぼと墓地に向かった。


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