永遠の歌姫 (2)
「父上は、からくりの時計を見たことがありますか?」
「いや。マリユスの日記は見たか?」
とジムントが言った。
「はい」
「わたしの父上、マシウスのおじいさんは、いろいろな所に行ったことがある。たしか、その中に、人形が歌う時計というのがあった」
「それはいい! 歌姫の時計だ!」
とマシシが言った。
その時にはまだ、もやもやとした考えだったけれど、ソリを作った時のように、またマシウスはいろいろ考え始めていた。マシシが言うように、確かに、人形が音を奏でるようになったらいいのではないか。それは、ずっと歌い続けてくれるだろう。
「永遠の歌姫か…」
とマシウスが言った。
「いいね。永遠。ま、壊れることもあるかもしれないけれど、直すこともできるだろうしね」
それから、何日かかかって、マシウスとマシシは仕事が終わると、いろいろ調べ始めた。
ジムントが言っていたとおり、マリユスはからくりの時計人形の絵を描いていた。それは、バルメコ地方で見たものらしい。大きな時計の箱があり、時間になると中から鼓笛隊の少年の人形が出て来て、太鼓をたたくしくみになっているようだ。でもからくり自体の作りかたなどは詳しくはわからない。
また、この日記を実際に記録しているのは、旅のお供をしていた、ギャバ・クラウドという人だった。ジムントとギャバが砂漠のようなところで、肩を組んでいる絵が描かれている。ギャバについては「何かを探し、言い当てる人」と書かれている。水がない所では水脈を探し、天気を予報するという。
でもまあ、クラウドというのだから、たぶん、今も続く天気予報士の家系の誰かなのだろう。
また、人間の器官を金属に置き換えるという技術があるらしい。だけど、その技術を持っている人がいるのは、やはりバルメコ地方で、ここから行くとなると、往復で数日かかるし、しかも向こうで何かを作って帰って来るには、もっと日数がかかるだろう。ひと月はかかるだろうか?
今、館の北側の地下の石部屋に安置されている歌姫のことをマシシは考えた。
グラシコ地方は氷に閉ざされているから、そのまま置いておいても大丈夫だけれど、それを全部バルメコ地方の方まで運ぶことができるだろうか? バルメコ地方は温暖な気候だと聞いている。歌姫の身体を凍ったままそこまで運ぶことはできないような気がした。きっとどこかで溶け出してしまう。
「とにかく、今、歌姫たちの凍った身体がそのままになっているのは、良くないんじゃないかな」
とマシシは言った。
「その話はやめてくれ。おれはもう、あの場所には行けない。あの部屋には悲しみが詰まっている」
とマシウスは頭を抱えた。
「しょうがないなあ。でも、ほかの歌姫も呼んで、ちゃんと弔いをしよう。そうして、新しい歌姫としてよみがえってもらうんだ」
「そんなことができるのか?」
「わからないけど…。とにかく技術を持った人はバルメコ地方に行かなければいない。でも、金職人やメッキ職人はいるんだ。ララシムの家族にはね」
「で?」
「歌姫ののどをオルガン用のパイプに置き換えてもらおう。そして、ちゃんと弔うんだ。サルクネリの歌姫たちが祈りを捧げることができるように、ジョンキョンの墓地に埋葬しよう。パイプになれば、なんとかバルメコ地方まで運ぶことはできるんじゃないかな」
「そんなことができるのかな?」
「できるかじゃあなくて、やるんだよ。悲しみをずっと抱え込まないために、そうするんだ」
「だれが行くんだ?」
「もちろん、君とわしだよ」
マシウスの顔にまたどんよりと暗い影が下りてきた。
「おれは行けない」
そう言うと、マシウスは自分の部屋にこもり、また数日出て来なくなってしまった。
「やれやれ、あの活発で明るかったマシウスはどこに行ってしまったんだろう」
とつるつるの頭をなでながら、マシシは言った。
「わしはきっと、誰からも大事にされなかったから、こんなに強いのかもしれないな。わしには、マシウスがわしを氷の溝から引っ張り出してくれた、あの思い出だけが宝だからな。まったく、何が良いか悪いかなんて、ちっともわからないもんだな」
マシシは、もう、自分が思ったように事を進めることにした。そうやって用意していれば、いつかまたマシウスが動き出すだろう。
でも合同の弔いにはマシウスにも参列してもらおう。
それにはどうしたらいい?
マシウスが動きだせる日を弔いの日にすればいいだけだ。
「そうしよう、ケケケ」
マシシはケロリとして、明日からの予定を整えた。




