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氷の館  作者: 辰野ぱふ
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永遠の歌姫 (1)

 マシウスは部屋に閉じこもったまま、また出て来なくなってしまった。コーネリアを失ったあと寝込んでいたころのように、館の中にはどんよりとした空気がたまっていった。

 ジムントとマシシは今まで通りに仕事を続け、時には二人で食事をしたが、何も話すことが浮かばない。いつも、館の中はしーんと静まり返っていた。


 数日して、マシシがマシウスの部屋の扉を開けようとすると、物悲しいオルガンの音が響き、グラシコ地方に伝わる、あの物悲しいメロディーが聞こえてきた。どうやらマシウス自身がオルガンを弾き、小さい声で口ずさんでいるようだった。マシシは扉を開けようかどうしようか迷いつつ、しばらく扉の外で耳をすませていた。

 するとぷつりとオルガンの音が止んで、マシウスのうめき声が聞こえた。

「お母さま、わたしが何かしようとすると、皆が不幸になる。それはどうしてなのですか?」

 以前もそんなことを言っていたな、とマシシは思い出した。

 それから、しばらく音がしなくなった。マシウスは眠ったのだろうか?

 マシシの後ろからマシウスの世話をしているメイドのアンジュがやって来た。

「どうなさいましたか?」

 と、アンジュが言った。

「今、マシウスがオルガンを弾いていたんだ。マシウスは起き上がれるのか?」

「ええ。時々、ベッドの周りを歩き回って何か考えていらっしゃいますし、オルガンを弾かれていることもあります」

アンジュがトントンと小さく扉を叩き、部屋の扉を開けた。

マシシはその後ろに着いて、一緒に部屋に入った。

マシウスはオルガンの前に座っていた。

「どうだい? マシウス。少しは起き上がれるようだが…」

「これだよ、マシシ」

 とマシウスが言った。

「これ?」

「そう、オルガンだ」

「オルガン?」

「これがずっと鳴り続けたらいいんじゃないかな?」

それでマシシはピンときた。いつもそうだ。マシウスが何か思いつくと、それに続けてマシシの頭にいい考えがひらめくのだ。

「聞いたことがある」

 とマシシは言った。

「何を聞いた?」

「時間を知らせるオルガンがどこかにあるという話」

 マシウスはこくんとうなずいた。

「それだな」


その日から、またマシウスは少しずつ動くようになった。マシシと一緒にオルガンのことを調べ、坑道に下り、働く男たちをねぎらった。少しずつ食欲が戻り、マシシと話もするようになった。

一人加わっただけだというのに、無口なジムントとマシシが二人だけでむっつりと黙って食事をしている時より、なんだか少し暖かくなったよに感じた。食べ物もおいしく感じられる。

「昔、おまえが外に遊びに行って、ここに帰って来た時も、こんなだったな」

 とジムントがポツリと言った。

 マシウスは悲しそうに下を向いてしまった。

「すみません、父上。悲しみが心の中にたまってくると、身体が動かなくなるのです」

「今、動きさえすれば、そんなことはどうだっていい。マシシに感謝するんだな」

 マシウスは、はっとしてマシシを見た。

「いやいや、ジムント様。わしに感謝してもらっても困ります。わしは、マシウスの言葉で動いているようなものなんですから。マシウスに動いてもらわないと困るんです」

「ハハハ。まったく兄弟みたいなものだな」

 マシウスは、いつもマシシがそばにいたことを改めて思い出した。

「最初に、マシウスがわしを助けたんです」

 とマシシが言った。

「おれが?」

「そうです。わしは、自分の家にいても、のけ者でした。別にそれだって良かったのですけどね。マシウスと皆で氷の海に出かけたある日、わしが氷の割れ目に落ちて、ひいひいしているのを、わしの兄弟は笑って見ていたんです」

 マシウスは首をひねった。そんなことがあっただろうか? ちっとも思い出せなかった。

「マシウスがそこからわしを引っ張り上げたんです。真剣そのものでした。それでマシウスも引っ張られて落ちそうになって、やっとわしの兄弟達も後ろから引っ張り上げてくれたのですが、まだ兄弟たちは笑っていました。マシウスだけが怒っていたんです」

「いつのこと?」

「さあな。マシウスが家に来るようになった頃だから、君もわしもまだ小さかった」

「フフフ。それはわかるな、マシウスはなんでもすぐに本気になるからな」

 とジムントも話に加わった。

「マシウスは言いました。『このまま死んじゃったらどうするんだ!』ってね。そしてわしの兄さんたちになぐりかかって行ったんです。兄さんたちは大きくて、がんじょうだったから、小さいマシウスを突っついて笑っていましたけどね。わしは、なんというか、初めて人に大事にされた感じがしたんです」

 マシウスはなんだか恥ずかしくなって、下を向いた。

「命の恩人ってわけか?」

 とジムントはまた笑った。

「まあ、死ぬことはなかったと思いますが…。ほかのことはあまり覚えていないのに、その日のことははっきり覚えているのです」

「まったく覚えていない…」

とマシウスは言った。マシウスはもぞもぞとおしりが落ち着かないような気持になって、話題を変えた。

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