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氷の館  作者: 辰野ぱふ
12/26

最後の歌姫 (1)

 今、マシウスの部屋の扉には、大理石の大きな星が一つはめ込まれていて、その周りをぐるりと囲むように小さい星が五つならんでいた。

 それはつまり、坑道で歌う二人目の歌姫としてダリダを氷の館に迎え入れてから、三人の歌姫、全部合わせて五人の歌姫がここで命を閉じたということだ。

 三人目に迎えた歌姫ミスリルは、白いつやつやの肌をしていて、どこまでも届くような伸びやかな声を持っていた。ミスリルの部屋の扉には十字の星座がはめ込まれた。

四人目の歌姫ラキュルズは銅色の肌をして、黒くくるくる動く目が印象的で、高い声から低い声までを自由に出して、その目の動きに合わせてくるくると音階を変える歌が得意だった。ラキュルズの部屋の扉にはさそりをかたどった星座がはめこまれた。

五人目にはハルミという歌姫がやって来た。ハルミはどっしりとしていて、いつもカラカラと笑い、陽気で丈夫だった。張りのあるよく通る声で、その声もどっしりとしいていた。ハルミはきれいな黒髪を毎日違う編み込みに結い、何も苦にするようには見えなかった。ハルミの部屋には白鳥の星座がはめ込まれた。ほかの歌姫より三倍がんばり、三年歌い続けた。それでもだんだん髪を結う気力がなくなり、声も出なくなり、やはり寝込むようになってしまった。


六人目には、マシウスが最初にサルクネリを訪ねた時に聞いた、ラッラが迎え入れられた。ラッラの部屋の扉には、三角形の星座がはめ込まれた。

ラッラは、もう、城に来た時から気持ちが沈んでいた。そして、坑道で歌い出した最初の日にもう声が出なくなってしまった。

「おいおい、最初からこんなで、どうするんだ!」

 とマシシがラッラに言った。

 ラッラは出ない声を絞り出すように、かすれる声で何かを言っているのだけれど、マシシには聞こえない。しょうがないので、筆談で聞いてみることにした。

『氷の館に来る歌姫は、ここで生涯を終えるのです。私にはまだやりたいことがあるのに、それができなくなるかと思うと、もう、来る前から気持ちが沈んできていました。ここに向かう馬車は地獄へ向かう馬車と同じです』

 そしてラッラは最初の日から泣いているのだった。

 マシウスはぎりぎりといきりたって、部屋を歩き回っていた。

「まったく何の役にも立ちはしない。もういい、ラッラはサルクネリに返そう。ここでまた新しい弔いをやるのはうんざりだ」

 いつも機転が利き、陽気なマシシもだんだん気が滅入ってきていた。

「やれやれ。君はいつから、そんなに癇癪持ちになったんだい、マシウス? 昔は明るくて何にでも興味を示す青年だったのに…」

「うるさい! とにかく、ラッラを送りに行って、次の歌姫を連れてくるぞ!」

 マシウスはなんだかやけになっているようだった。

 まるで、マシシにもマシウスの作る重い空気が負いかぶさってくるようだった。


「さあ、喜べ! サルクネリに帰ることができるぞ」

 マシシがラッラの所に行って、そう告げると、ラッラはまた泣き出して、そして紙に書いた。

『サルクネリにはもう戻れません。サルクネリの親方が二度と戻れないと言うのです』

「そんなことはないよ。戻れるさ。戻っちゃえばいいだけじゃないか」

 そう言っても、ラッラは泣いて、荷造りを始めようとせず、また、新たに紙に書いた。

『マシウス様から契約金をもらっていると、サルクネリの親方が言いました。それを返すわけにはいかないから、戻って来るなと言われています』

 確かに、サルクネリのパブから歌姫を一人ずつ連れて来る時に、マシウスはサルクネリに金貨を納めて来ていた。

「大丈夫だよ。マシウスはお金を返せなんて、そんなケチなことは言わないさ」

 マシシがそう言ってなだめても、ラッラはまだ泣いていて、部屋を離れようとしなかった。

 マシシは困り果てて、マシウスにそれを報告に行った。

「じゃあ、ラッラは置いて行く。とにかく、次の歌姫を連れて来るんだ」

 マシウスは今度は意地になっているようだった。


 マシシは仕方なく、マシウスに着いてサルクネリの所に向かった。

 マシウスが次の歌姫の候補に考えていたのは、ミューリだった。

 マシシはミューリを迎え入れるソリを整え、まずソリの中に埋め尽くす花を用意しに行った。最初にジャイラを迎えた時と同じだった。夕方になる頃には城に戻り、マシシはマシウスと一緒にサルクネリのパブに向かった。そうやって、サルクネリのパブに向かうのは7回目になった。

 

その日、ミューリは二番手の歌い手として、歌姫の控室に座っていた。

 ミューリのママがステキなステージ衣装を作ってくれた。小さい花柄のワンピースで、リボンのえりをしばる。今日歌うことにしていた民謡を口ずさんで、そのリボンがいちばかっこう良く見えるようにと、形をたしかめて、鏡を見ているところだった。


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