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氷の館  作者: 辰野ぱふ
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新しい生活 (2)

 それから、ジャイラが起き上がることはなかった。

 マシウスが、ジャイラの七つ星の扉を開けると、ジャイラはいつもにっこりと微笑み、小さい消え入りそうな声で

「ごめんなさいね。マシウス」

 と言うのだった。

 マシウスは何も言えずにジャイラの手を取った。

「言葉も忘れて行くようなの」

 とジャイラは涙を流した。そして、その通り、どんどん言葉を忘れて行った。

 マシウスはそんなジャイラを見ていることがつらく、どうしようもなく、ジャイラの部屋の扉を開けることが少なくなっていった。

 メイドのキミがジャイラの世話係りになり、いつも温かい食事を運び、ジャイラの部屋で熱いお湯をわかし、からだを洗ってくれることもあった。部屋はいつも暖かくしてあったし、きれいに掃除されていた。

「わたしは幸せだったわ」

 とジャイラはキミに言った。

「そうでしょうとも。おくさま。こんな大きなステキな部屋に住むことは、ふつうではできませんもの」

 とキミは言った。

 ジャイラは久しぶりに笑った。

「おくさまではないのよ。わたしはただ歌を歌うだけ」

「それはすごいことです。みんながステキと思う歌を歌えるなんて。だからこんな生活ができるのですもの」

 とキミが言った。

 そのうち、キミのほかにはもう、ジャイラの部屋に入ってくる人はいなくなった。もともとジャイラはたくさん食べるほうではなかったけれど、もっと食べることがなくなった。

 キミは一日に3回、人肌のおかゆを運んできてくれる。それがいつなのかもわからなくなってきたし、そのおかゆも残すようになった。

そして、ある朝、ジャイラが動かなくなったことを知り、キミは涙が止まらなくなった。

キミはマシウスの部屋へ走って行った。

「マシウス様、ジャイラ様がお亡くなりになりました」

 マシウスは、冷たく「そうか」と言っただけだった。


 コーネリアの遺体は、氷の館の北側に作られた、大きな地下室に安置してあった。ジャイラの遺体もそこに運ばれた。

 マシウスはジャイラの部屋の扉に鍵をかけた。そして、自分の部屋の扉の大きな星のとなりに小さい星を一つ加えた。

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