表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の館  作者: 辰野ぱふ
1/26

マシウス (1)

 自分が住む城について、人が「氷の館」と呼んでいるということを、マシウス・スーメルクは青年になるまで知らなかった。

 それまで、マシウスにとっては、自分の城とその城があるスーメルク岬の周辺が行動範囲のすべてだった。そこでは、城のことは聞いたことがなかった。城はそこにあるもので、うわさ話に出てくるようなものではなかったのだ。


 スーメルクが氷に閉ざされる前は、氷の館、つまりスーメルクの本家では、広く周辺の土地を貸し付けて、それで富を得ていたらしい。けれど、長くくもりや雪の日ばかりが続き、氷に閉ざされてしまってからは、スーメルクでは物も育たないし、せっかく海があっても、ジョンキョン湾の入り口は氷に閉ざされ船の行き来もできず、人は貧しくなるばかりで、そんな人から何か取り立てようにも取り立てる物もなく、人は働く場所を探していた。


 マシウスの父親、ジムント・スーメルクは13人兄弟の長男だった。娘は一人もいなかった。母親のコーネリアは遠い親戚ララシム家の10人姉妹の長女だった。息子は一人もいなかった。そして、この二人が結婚してから、十五年の間、子どもは産まれなかった。もう子供は産まれないのかとあきらめたころに、マシウスが産まれ、皆大喜びした。そのあとに子供は産まれなかったので、マシウスは城の主となって城を守るように、城を長く繁栄せるようにと、皆に望まれて育った。マシウスはこの城の希望の象徴となった。


城にはたくさんの人がいたし、父の兄弟の方にも、母の姉妹の方にもいとこたちがたくさんいたので、マシウスは特に兄弟姉妹が欲しいと思ったことはなかった。

城とその周辺に住むほとんどの人は、マシウスの父、母の親戚とその遠い遠い親戚で、何かしら、ここスーメルクとスーメルク家に関係ある人ばかりだったので、すべてが家族のようなものだったのだ。

マシウスは学校には行かなかった。3歳くらいまでは数人の乳母がいたし、その後は遊びを教える先生、体操を教える先生、歌や楽器を教える先生、勉強を教える先生が城にやって来ていた。

 マシウスは良く笑い、歌い、行動力のある、元気のよい男の子だった。たくさんのいとこたちや、親戚の家を回って遊び、だれからも愛された。


 たくさんのいとこたちの中で、マシウスは少し年上のマシシと一番よく遊んだ。いつもマシシの家に行っては、しばらくそこで暮らし、マシシの後ろを着いて歩いていた。

 マシシの父はジムントの弟で、スーメルク岬の港でずっと漁業をやっていた。マシシもそれを手伝って、氷の海に魚を獲りに出かけることがあり、マシシが父の漁を手伝いに行く時にマシウスも一緒に氷の海によく出かけた。

マシシには2人の兄と1人の弟、2人の妹がいた。

マシシ以外の兄弟たちは皆がんじょうで、強くたくましく、目が良く、広い氷の原の遠くまでよく見えるのに、間に挟まれて生まれたマシシだけは小さく細身で、目が悪かった。でも計算に強く、獲れた魚を数え、重さを量り、魚の種類もよく見分けることができた。

妹たちはよく笑い踊り歌い、いつも陽気だった。兄弟姉妹が集まるといつも祭りのような騒ぎになる。マシシはその真ん中で、兄たちからは「女みたいなやつだな」と言われ、弟と妹たちからは「お兄ちゃんじゃないみたい」と言われ、マシシ自身は「そうなのかな?」と思いながらも、特に気にすることもなく、のんきに暮らしていた。

 マシウスは何にでも興味を持って、マシシの言うことを聞き、マシシの家の仕事をよく手伝った。

漁には二人でおそろいのあざらしの毛皮の防寒着を着込んで、靴底にびょうのあるがんじょうな靴をはいて出かけた。ぶあつい氷の上をガシガシと歩いて、氷が薄くなっている場所を見つけると、そこに穴を開けて魚を獲る。身体が凍らないように、氷の上に小さい小屋を建てて、その中で小さいストーブをつける。その火をマシウスは上手に使って、氷に穴を開けた。

マシウスはその小屋の窓から外をのぞくのが好きだった。なめらかな氷が続くところでは、スケート靴に履き替えて、すべって遊ぶ。氷を砕いたかけらを氷の上にばらまいたり、追いかけっこをする。お尻の下にひものついた小さいソリを敷いて、それを引っ張りっこしては、走り回り、そうやっているうちは寒いことを忘れてしまうのだった。


ジムントの父、マシウスの祖父、マリユスは地質の研究をした人で、スーメルクの地形、地質について調べ、スーメルク岬に豊富な資源が埋まっているだろうということに気がつき、燃料や資源、宝飾品になるものを探すことを夢見た。また活火山だったスーメルク山の周辺には温泉があることもつきとめていて、たくましいスーメルク人を集めてたくさんの温泉を掘り、それを利用して床の暖房にしたり、地熱を利用した温室を作り、スーメルクの農業に貢献した。

ジムントは自分の城の下にも豊かな資源が埋まっていると気づき、それを活用しようと考えていた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ