1話
木村拓哉っていう名前に完全に負けていた。
これも、芸能人っていうもののせいだ。僕は不幸だった。木村拓哉が、テレビで売れ始める前にこの名前を授かったのに、僕はその後、この名前のせいで苦しむようになった。
冗談が通じる奴は大好きだ。顔が似てるならいい。名前だけだ。名前を呼ばれて立ち上がる。僕に注目が一斉に集まる。
「キムタク?」
女子の声が高くなる。笑い声も聞こえる。
でも、僕は不細工だ。食べることも大好きで、でっぷりとしている。遺伝のせいで頭も薄くなり始めた。
でも僕は木村拓哉だった。
僕の顔を見てがっかりするやつ。表情がなくなるやつ。失笑、苦笑、苦笑い、絶句。いい反応が返ってきたことがないことには慣れた。
成績のいい兄と、器量のいい姉のために、僕の家での存在は浮いていた。
努力もあるのだろう。姉の身体も、兄の知能も、僕には継いでいない遺伝子のようだった。父親は、そこそこいい会社で、出世し、いい立場を築いていた。その父親にあやかり、母は専業主婦。3人の子供を育てた。
姉も兄も就職して家を離れた。僕だけが家に残って大学に通っていた。
両親は僕を愛していた。知能が兄よりも劣っていようが、器量が悪かろうが、手のかかる息子であるだけに、母は僕に他の兄弟よりも手をかけて育てた。自立した兄弟の中で、現在進行形で世話を焼ける僕に、両親は愛を注いでくれていて、とても感謝している。
名前をつけた両親のことを嫌いにはなれない。むしろ僕は、恩返しをしたい。真面目に勉学に励んで、いい会社に勤めて、親が退職してもいい暮らしをさせてあげたい。僕にできることなら何でもしてあげたい。
彼女もいない僕だが、両親と過ごす時間や、学校での仲間と過ごす時間は充実していた。アルバイトもうまくいった。ファーストフード店での賄で、10キロ太ったけど、なかなかいい人間関係を築いていた。仲間として、みんなとうまくやっていた。
ある日、研究室の仲間が言った一言が、僕の運命を少し変えたんだ。