約束
僕はそれを聞いて、おにいちゃんってすごいなと思った。夢に出てくるおじいさんのお願いを叶えるために、冒険をして秘密基地を作ったんだろう。
僕はだめだと言われていつも防波堤を眺めるだけだった。とうさんに叱られるのが怖くて、灯台に入りたいということも出来なかった。でもおにいちゃんは違う。僕もおにいちゃんのような冒険をしてみたい、そう思った。けど僕が出来ることといったら〈ほし〉拾いくらいだ。だったら――。
「僕はね、もう少ししたら浜で〈ほし〉を集めるんだけど、すごくきれいなんだ。だからおにいちゃんにもあげる」
「星?」
「貝だよ。深い所へ行けないからちょっとしか見つけられないけど、大きなのを見つけたら持っていく!」
「それは嬉しいね。でもその頃、僕はもう家にいないよ」
「じゃ、ここにこっそり置いておくよ。ここなら危なくないんでしょ?」
今日だってだあれもいなかった。こっそり来ればきっと大丈夫だ。それにおにいちゃんの秘密基地、このままなくなっちゃうのは残念だと思うんだ。
「じゃあ僕は君がその貝をもっと見つけられるように神様にお願いしておくよ」
結局僕は上の部屋へは行けなかった。階段は思ったよりも段差があって、上の段に手をついてようやく昇れるくらいだったから。手をつくと赤錆で両手が赤くなる。そんな手で帰ったら、ここにこっそり来たことがとうさんに知られてしまうだろう。
「遅くなる前にもう帰りなよ」
その日はおにいちゃんの声に送られて灯台を出たんだけど、おにいちゃんの声は少し淋しそうだった。だからもう一つの疑問は聞けなかった。でも心配はしていない。