灯台
防波堤の端っこまで歩いてみたけれど僕以外の人は見あたらなかった。吹きつける風が冷たくて指先をポケットに突っこんだ。寒さはざわりざわりと僕の中に入り込んでくる。群青色の海を眺めていると今にも呑みこまれそうな変な感じがしてくる。
「ああ、やっぱり一人で来ちゃいけなかったかも」
戻ろう……。
くるりと踵を返し走り出した足は灯台の前で止まった。
灯台はいつも目にしていて見慣れたものだけど、中がどんななのか全く知らない場所だ。入ってみたかったんだ。ずっと前から中を見てみたかったんだ。けど、誰かが出入りしているところも見たことがなかったし、ここは一人じゃ来ちゃいけない所だったし、とうさんと一緒でも灯台は外から見るだけで通り過ぎるだけだった。入ってみたいなんて言うこともいけないような気がしていた。
この中なら風は入って来ないんじゃないか? 頭の中で誰かがそう言った気がした。
気がついたら両手で扉を押す僕がいた。
初めて触れた灯台の扉はひんやりと冷たくて、両手で押したら、ぎぎぎっと鈍い音が辺りに響き、ぶるっと体が震えた。
そして――名前を呼ばれ僕は驚いた。
扉は少しの隙間しか開いていないのに、中からはっきりと僕を呼ぶ声がしたんだ。
足が地面にへばりつき動けなくなり、逆に両手はすごい勢いで扉から離れた。
なのに扉は僕の目の前でゆっくり動いて開いて、やがて全開になると四角い部屋の灰色をした床いっぱいに赤いまだら模様が広がっていた。
「真っ赤だ」
僕の呟きに声が答える。
「風が強くなってきたね。中は案外あったかい。おいでよ、ここに」
声はそう言って僕を中に誘った。