〈ほし〉拾い
その日僕は砂浜で貝を集めていた。
丸くて平べったくて黄土色で、中に黒い五芒星がくっきりと描かれた――クッキーみたいな貝だ。
本当に貝なのか、なんていう名前なのかは知らない。だけど僕は、その貝が大好きで〈ほし〉って呼んでいた。毎日何個も拾っては緑色のネットに入れていく。遠浅の砂浜に浅く埋まっていて、裸足で歩くと足裏にふれるから見つけることが出来る。
砂浜は防波堤でとぎれるのだけれど、浜沿いのコンクリートには風の通り穴が開いていた。
僕が屈んでも通れない小さい穴の前あたりには、いつ行っても〈ほし〉がいっぱい砂に埋っていた。
毎日裸足で砂を踏みながら一つ残らず拾い集めても、次の日はまたいっぱい落ちている。だから僕は毎日風の通り穴へと通っていたんだ。
防波堤は海へ向かい、水平線に沿うように曲がる角に小さな灯台があり、小さな扉がついている。
そして僕は知っていた。
その扉は両足を踏ん張り両手で押すと僕の力でも開くってこと。扉の先には赤錆に染まった螺旋階段があるってことも。
知ったのはまだ水温が冷たくて〈ほし〉集めが出来ない春休みになったばかりの頃だ。
まだ冷たい風が通り穴から吹きつけていた。それはまるで女の人の低い泣き声みたいで、あまり気持ちのいい風鳴りじゃなかったから、防波堤へ行くつもりはなかったけど、ほっぽり出しの古い自転車が転がっているのを見つけた僕は、誰かがここへ来て防波堤へ行ったんだろうと思った。自転車は大人用だったから。
防波堤はとうさんと一緒の時だけ歩いてもいい道で、一人で行ったらダメだけど、大人の人がいるならかまわないはずだ。