第四話
「まってよ、タクミ」
「あぁ、アデルか」
学園の廊下を歩くタクミの後ろからアデルが追いかけてくる。
「フィアのことだけど、気を悪くしないでね彼女も貴族だから・・・」
「わかってるよ、貴族は都市民の安全を最大限守らなければならない、時には憎まれ役になってもな、ったく世知辛いよな」
「でも、やっぱりすごいよタクミは42番っていっても3年前は倒せずに追い払うまでしか行かなかったんだから」
「そりゃ位階序列4位なんだそれくらいしないと認めちゃくれねえよ」
先日の怪異撃退戦の話になるととたんに花が咲いたように笑顔になるアデル。
「今日は放課後どうするの?」
「墓地にでも行こうかと思ってる」
「墓地ってタクミのおじいさんのお墓?」
「決まってる」
先ほどの笑みから打って変わって沈んだように顔を伏せるアデル。
「そういうわけだから俺はもう行くな、じゃあまた明日」
「うん、また明日」
手を振りアデルに別れを告げるとタクミは一直線に墓地へと足を進めた。
■
時刻は17時、少し肌寒くなったと感じながら、タクミは学園用のコートの襟を立て首をすくめた。
「じいさん、俺やっと怪異を倒したよ、じいさんの代わりはちゃんとできるから、安心して眠ってくれよ」
そういいながら足元に置いた桶から柄杓を持つと目の前の墓石に水をかける。
周りにはちはほらと他の墓参者の姿が見える。
「最初は不安だったけどさ、じいさんが死んで俺が聖人を襲名したらみんな聖人様、聖人様って、今じゃタクミなんて名前で呼んでくれるのは学校か防衛本部のやつらくらいだよ、あのみんなの顔見てたら不安なんていってられないしさ」
墓に手をつき独白を続けるタクミ、そこへ。
「あれ、タクミさん?」
「ん、ココネちゃんか」
タクミが振り返るとそこには振り返るきれいにそろえられた赤髪のショートカットに黄色のカチューシャをつけた12歳くらいの少女が立っていた。
「すいません、お声を掛けちゃって、お墓に手を着いていたので具合が悪いのかと、まさかタクミさんだとは」
「いや、構わないよ、ココネちゃんもお墓参り?」
「はい、兄が仕事で忙しいのでお墓の掃除は私の日課なんです!」
「そうか、えらいねココネちゃんは」
タクミは手をココネの頭の上へと伸ばすとくしゃくしゃと撫でた。
「ひゃっ、タクミさん!?」
「ああ、ごめん嫌だった?」
途端に手を引っ込めるタクミ。
「いや、嫌ってわけじゃないですけど」
ぼそぼそと俯きながらしゃべるココネの言葉はタクミには聞こえなかった。
「じゃあ、またね。ココネちゃん、お兄ちゃんにもよろしく」
「でももうちょっと撫でられても・・・は、はい!よろしくおつたえします!」
ビシっとなぜか敬礼で返すココネに笑みを浮かべるとタクミは来た道を戻った。
■
タクミがココネとあっている頃。
「フィア、こちらへ来なさい」
「はい、お父様」
天井は見上げるほど高く、吊られた大型のシャンデリアがこの家の主の経済状況をうかがわせる。
赤に縁を金糸で刺繍した絨毯はこの部屋に張られているものだけで普通の家族が50組は1ヶ月食べるに困らない額だ、これが屋敷中に張られているのだから恐れ入る。
件の自分を呼んだ壮年の男性を見てフィアは半眼になるのを隠しもせず自身がお父様と呼んだ人物の元へと向かった。
「第四位・・・タクミといったか、彼は。長年苦しまれてきた射出を一撃で倒すとは、お前の学友は優秀だな」
「ええ、お父様。心構えはともかく実力は確かでしょう、都市防衛能力に関しては賞賛すべきと思うわ、心構えを抜けばね」
心構えという言葉を強調し、繰り返すフィアに相対するフィアの父テラヴォルは笑い声を上げた。
「はっはっは、そんなにやつが嫌いか、フィア」
「そうね、人間性でいうと嫌いよ、防衛任務に遅刻するし、方向音痴だし、報告書を見る限りでは彼がもっと早く到着していれば被害はゼロよ」
「たしかにそうかもしれん、しかしお前は少々戦いを甘く見ているかもしれんな」
「な、お父様はタクミの肩を持つの!?」
バンっと机に手をたたきつけるフィア。
「そこまではいっておらん、ただタクミのことをもう少し理解する努力をしたらどうかという話だ、お前の話は机上の内容でのみ判断している、そこでだ」
テラヴォルは机の引き出しから一通の手紙を取り出した。
「それは?」
「これは王都トゥランにて24聖人が集う円卓会議の招待状だ、基本都市を守る聖人とその都市の貴族がペアで招待される、フィア、行ってきなさい」
「はあ!?」
タクミのあずかり知らぬ所で物語は着々と進行していた。