第三話
「ハイハーイ、タクミ君寝ないでね~?」
ジルベール魔法都市学学区、リントブルム魔法学園の3年Aクラスの教室。
机にしがみつく様に惰眠を貪っていると授業を受け持っている女教師、シャルナ・フォーリアの声で起こされる。
「ん~、シャルナ先生寝かしてくれよ、昨日はすごい疲れたんだよ」
「それはわかるけどね~、都市防衛は大事だけど授業を受けるのも大事よ~」
両目をごしごしとこすりながら答えるレイにシャルナは困ったように腕を組み、頬に人差し指を当てながら朗らかに笑った。
その際シャルナの豊満な胸部が挟まれることによりうおお、という男たちの歓喜の声と女たちんぼ冷たい視線が合ったことは余談であろう。
「じゃあタクミ君おさらいね~、現在確認されている4大元素答えてくれるかな?」
「火、水、土、木の四元素」
「はい、正解。それじゃあ次は後ろの席の子ね~、アデル君その四元素を使って私たちは何ができるのかしら?」
「は、はい!」
シャルナに指され緊張した様子で立ち上がるアデル、座ったまま答えるタクミとは大違いである。
「そ、それぞれ使う元素により用途は様々です、火を使って料理ができるし、水を使って洗濯ができます。土を使えば建築・鍛冶などの工業ができますし、木を使えば食物を育てられます。」
アデルはその男とは思えぬ華奢な体を震わせながら答える、同性にしたら長めの金髪に青色の瞳はある意味この学園で一番人気の異名を持つのも仕方が無い。
「はい、よくできました。じゃあこの四元素以外の魔法は?」
タクミにはひとつしか質問しないにもかかわらずアデルに続けざまに質問を投げかけるシャルナ、一見朗らかで人畜無害そうに見える彼女は自称『アデル君をめでる会』特別顧問のアデルが困る様子が可愛くて可愛くてしょうがないといわれる変態教師である。
「まあ多分男だと俺しかしらねーけど」
「あらあらタクミ君、授業中は私語禁止ね・・・ね?」
シャルナは一瞬だけそのニコニコと弓を描いている瞳をうっすらと開けるととてつもない殺気とともにタクミへと注意した。
「う、うす」
「よろしい、じゃあアデル君答えてね~」
「は、はい。他に固有魔法として代表的なものが無属性魔法、回復魔法、付与魔法があります、無属性魔法は基本誰でも使えます、飛行したり、物を動かしたり。回復魔法はその名のとおり傷や病気の治療ができます。本だと3割程度の人が使えるって書いていました、付与魔法は・・・」
最後の付与魔法の話になると後ろのアデルからの視線を感じる。
「うん、完璧ね、じゃあ次、フィアさん。説明を引き継いで~」
「はい、先生」
そう答えアデルが着席すると変わりにこ金髪ツインテールの見た目が完全にお姫様の少女が席を立った。
高い鼻、少し笑みを浮かべた唇、緑色の瞳をキッと気の強そうに吊り上げるその姿は10人が見れば9人が美少女と形容する少女だ、10人のうち最後の一人は俺だが。
「付与魔法は発現者が極端に少なくこのサザラント連邦1億4千万人の人口の中で102人しか確認されていません、さらに魔法として実用可能な人に絞れば24人、彼らは24聖人とよばれ各24都市に駐在し怪異の防衛に努めています。この都市の聖人は甚だ不本意ですが」
「ん~、このクラスの子達は優秀ね、そう彼ら24聖人は付与魔術を使って各都市の防衛任務についています、それはなぜか・・・次はロイ君!」
「はい、先生」
フィアの最後のつぶやきを華麗に無視しシャルナは次へと質問を投げた、それに答え席を立ったのは。
「怪異には単純な物理攻撃、大砲や弓矢は効きません、今までは魔導砲や魔法士による攻撃が主でしたが近年は魔法そのものが効かない怪異が増えており、その相手に有用な攻撃を与えることができるのが付与魔術のみだからです」
気障に前髪を払いながら答えるロイと呼ばれる少年、確かに堀の深い顔に天然の流れるような銀髪、イケメンではあるのだが、露骨にこんな態度だとまず引いてしまうだろう。
「はい正解、じゃあ今日の授業はこれまで、皆さん次の襲撃まで時間があるといってもあまり遅くに帰らないでね~」
は~いという声を背に教室の扉から出るシャルナ。
扉を閉めた瞬間いつもの面子がタクミの席へと集まってきた。
「タクミ君!君は本当にすごいな今朝の新聞を見たよ、怪異を真っ二つにする聖人現るって、しかも写真つきだ、インパクトがあったね」
「確かにあの記事はすごかったけど怪我は無かった?タクミ」
ロイとアデルである。
ロイはまるで自分のことのように前髪を払いながら語る、高慢な態度に見えるがこいつはいつもこうなので気にしない。
たいするアデルは心配そうにタクミを覗き込む。
周りではタク×アデ一本縛りね!という声が響くがこれも気にしない。
「ああ、42番の雑魚だったからな、楽だった」
その声にさらに周りに集まってきたクラスメイトが口々にすげえと声をあげる。
「でも第一結界線域を破壊されて魔導砲は2機破損、その理由が聖人の寝坊に方向音痴のせいってどうなわけ?」
つかつかとタクミの席に近づきながらあげるその厳しい言葉に周りのクラスメイトは一斉に口を噤む。
「フィア、そんな言い方・・・」
「アデルは黙ってて」
タクミを庇うアデルに一瞥するとフィアはその鋭い瞳をタクミに向けた。
「人的被害はゼロ、確かにその功績は大きいわ、それはこの街を統治する公爵家の娘として感謝します、でも寝坊せずすぐに現場へと迎えたら結界戦域も魔導砲も破壊されずに澄んだわ、結界線域の再構築までどれほどかかるかわかる?6ヶ月よ、次の襲撃には間に合わないわ」
フィアは枷が外れたかのようにタクミへと語気を強める。
「確かに俺がもうちょっと早くつけば被害はゼロだったかもな」
「だったら!」
「だが俺も人間だ、魔導具じゃないんだから休息も必要だぜ?じゃ、俺は帰る」
タクミが認めたことによりさらに追求しようとするフィアにタクミはぴしゃりと言い放ち教室を出た。