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Last Phase / ai......_


<record.009>

<etl=jp>



 少し話をしよう。

 先に言っておくと、これはわけのわからない話かもしれない。

 けれど僕が視た結果を――“少女を解体して隅々まで視つくした”僕がその結果を言わせて貰うと、人の心というものは“この次元には存在しない”。


<疑問>


 一次元、二次元、三次元。

 これは説明するまでもないだろう。縦、横、高さだ。

 では四次元はどうだろうか?


<点、線、奥行きに加わる時間軸>


 そう。

 つまり簡単に言えばこの世界が四次元。

 けれど、人間に感知できるのは三次元まで。


<それは時間軸を超えた観測が出来ないから>


 僕は違うと思う。


<視覚、聴覚といった感覚器で認知できないから>


 僕は違うと思う。


<item:[心].人間の理性・知識・感情・意志などの働きのもとになるもの。また、働きそのもの。精神。心情。>


 だから。

 僕は違うと思う。


 心は――心と定義付けるそれは、きっと言葉と似ている。

 まるで、


 命令で動くロボットのように、

 他人の言葉が人を突き動かすように、

 偉人の言葉が後世に語り継がれるように、

 親の言葉が子に受け継がれるように、

 機械と人間を繋ぐETL言語のように、

 有機物と無機物の枠を超えて、

 過去から未来へと時間軸を超えて、


 繋がる。

 繋がることができる。


 人間の観測可能な三次元では存在し得ない、

 人間の存在可能な四次元には存在し得ない。

 心はきっとそれ以上の次元、五次元とか六次元に存在する。


 人間の機能では三次元までしか感知できないけれど、しかし次元を超越した“心を感知する特別な器官”をその身体に備え持っている。それがいったいなんなのか――それは与り知らないところではあるけれど――なんにせよ、少女を解体ばらしたことで疑問の一つが解消されたわけだ。

 重畳、重畳。

 と。

 処理される思考の中で、僕はそう思った。



「君の病名は、『限局性脳断片消失』。脳神経の病気だ」



 との医者の言葉。

 警察に捕まった僕が、病院みたいなところで聞いた言葉。もしかしたらカウンセラーだったのかもしれない。


<item:[限局性脳断片消失].電脳化による不治の病。NLO施術した疑似神経部位の伝達障害。>

<症状:心臓の障害(心不全や不整脈)、腎臓の障害(ネフローゼ症候群や腎不全)、胃腸の障害、末梢神経や自律神経の障害(手足のしびれ、麻痺、立ちくらみ、排尿の異常、便秘、下痢)。認知症症状及び脳出血などの脳卒中と類似症状も確認されている。>



 それを簡単にいうと。

 私が僕の脳に入り込んだことによって、脳がどちらの信号を優先すべきか解らなくなってしまった状態。

 僕か、私か。

 つまり、


<私によって引き起こされた>


 脳障害。

 僕の意識が私の脳にあり、私の意識がNLOインプラントにある――曖昧に有にも無にも有耶無耶になった脳と融け合わさって個と個が曖昧模糊に完全明確に不明瞭になった心。

 そんな神経伝達の不具合。

 病気。


「自分が誰だか解るかい?」


 と。

 そう訊かれても、私はすぐに言葉を返せなかった。


 なんか、傷ついた。

 私は大変傷つきました。


 なぜなら僕には、それに含まれた意味が理解できて、自分という意味が出来なかったからだ。おべんちゃらや戯言を抜きにして、他人と本音で接するというのは、つまり傷つけ合うことと同じだ。だから下手に踏み入れば互いに致命的な亀裂を生じさせることだって、きっと珍しいことではありません。

 けれど私たちは肯定も否定も欺瞞も満足もなく、一つのこととして共感できる。

 いや、それは共感というまでもないことかもしれない。

 ごくごく自然に。

 ただ当たり前に解る。

 そしていま突きつけられた。


 もう僕と私の枠に、境界はありませんでした。


 と、

 自分のそんな認識も曖昧に。


「だから君の中にある記録を取り除かなくてはいけない」


 そんな言葉すらも、曖昧に。




<record.009/>

<record.011>



 消されることになりました。



<record.011/>

<record.012>



 刹那に思えば、彼女と出逢ってから僕は色々と考えることが多くなったように思う。昔なら委細構わず一切思いもしなかったことをこうもつらつらと考えるようになったのは、きっと彼女、つまりシエルが僕の中に入ってきてからだろう。まあ出逢ったという言い方をしてしまえばいささかロマンチックが過ぎるような気もするけれど、しかし捨ててあった彼女を拾ったと言うよりかは幾らかマシだし、既に僕と並列した彼女を犬や猫みたいに言うのは流石にどうかとも思う。いつからか徐々に、それでいて確実に僕の中に入ってきた彼女に人間としての人格の有無があったかどうかは今現在に至っても解らない。それはつまりIの有無。カウンセラーや医者の言うように自己の証明なんてものは究極言ってしまえば自己認識を出来るかどうかであって、それは自分を取り巻く環境を含め、自分で自分という枠を何処までの範囲に敷くか、そういうお話になるのだろう。人、人間という単語には間がある。問題、欠点と置き換えてもいい。そこを埋めるのが言葉や仕草などの感情の伝達で、愛しくなく、狂おしくもなく、その境界がなくなった僕たちの関係はきっと人間という枠にはいなかった。なぜならそこに感情の共有こそあっても、相手を思いやる気持ちが致命的なまでになかったからだ。いや、共感するまでもなかったといったほうが正鵠を射ているかもしれない。通じ合い過ぎる故に不要で、互いに解り過ぎる故に不器用で、近過ぎる故にあいまいになった自分たち。そういう意味ではぼくたちは人間じゃなかったんだろう。いってしまえばアイの不在。無情なほどの感情のふざい。

 でもいまは違う。

 ちがうと思う。

 こうやって走馬灯のように考えることもある意味ではとても人間らしいといえばうそになるだろうか。じょじょに僕の中から離れていく彼女をいまは感じて想うことができる。それがぼくは嬉しい。とてもうれしい。ひとつひとつとまたぼくのなかでぽっかりとあながあいたようにくうはくがうまれていく。おもいだせることが少しずつわからなくなっていくようなへんなかんじ。おもいだそうとしたことがなんだったのかおもいだせない。でもぼくの記憶といっしょにぼくの記録といっしょにぼくの欠片となったかのじょはぼくの心のなかでずっときっと生きつづける。そんざいしつづける。そうなればいいなそうであってほしいなそうじゃなきゃかなしい。とてもかなしい。

 いやだよ。しえる。

 ぼくはなきそうになる。

 むねがきゅうとしめつけられてすごくいたい。いたい。いたいよ。もうすぐきえよとするかのじょはいまもぼくのなかでずっとずっとおもっている。のぞんでいる。ねがっている。やっぱりそれはぼくもいたいほどじぶんのことのようにわかるからとてもかなしい。はなれたくない。いなくなるのがとてもこわい。じぶんがどこにいくのかもわからないのにみとめてくれないからけすだなんてとてもひどいはなしだとおもう。なんでわかってくれないのわたしはここにいるのにとそういっているのがきこえるのはぼくだけだからだからぼくはめをとじたばしょでみみをふさいだばしょで心のなかでかのじょを想うことにする。ずっとずっとおもいつづけるよ。やくそくする。だからなかないでほしい。かなしまないでほしい。このせかいがいんちきだなんておもわないでほしいんだ。かのじょはいまもきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないきえたくないいきたいとずっとずっとそういっている。でももうだめなんだみんながみとめてくれないからけされてしまうんだこのわくのそとにはかのじょときょうかんしてくれるひとなんていないからいばしょなんてないからだから、だから……




<record.012/>




 白。

 ぽっかりと穴が空き、真っ白になった心の中で、ぼんやりと君の姿が見える。

 僕は訊く。



 ……ねえ、シエル。

 消える最後に、君は何を思うの?



『そうだね』



『私っていう環境を創ってくれたすべてのものに、ありがとうって言いたいかな』



 そっか。



『ねえ』



 なに?



『ありがとう』




 ......_




<record.013/>

<?etl // ia=CIEL uninstall>

<$contents = data_delete_contents("/path/to/Implantdata"); />

<etl=jp>




 ......_




 ............error, data missing_





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