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男は最凶の勇者か魔王か  作者: ミイナ
8/23

星の輝き

「ここが日本か」


「………帰ってきたよ。お父さん、お母さん………グス……」


普通のサラリーマン風の日本人の男と小学生の少女が日本の空港から外に出る。

大勢の人が行き交う中で二人はそれぞれの思いでその景色を見つめる。

ウィザーは無表情で唯は涙ぐんでいた。

これから先の事はウィザーも考えていないただ恵が日本に帰りたいと言ったから目指しただけだ。


「唯はこれからどうする?」


「………迎えが来ます。お祖父ちゃんが……」


「そうか、ではここで別れだな」


「…………はい、ありがとうございました。ウィザーさん」


「唯~!」


遠くから唯を呼ぶ声が聞こえた。

ウィザーと唯はそちらを向くと一人の老人が手を振り唯の元へと歩いてくる。


「お祖父ちゃん!」


その姿を見て唯が駆け出す。


「おお、可哀想に唯。お祖父ちゃんが来たからには安心して家で過ごしなさい」


「グスグス……うん」


「それとそちらの方は?」


細身の白髪の老人が鋭い視線をウィザーに向ける。

どこか戦士のような雰囲気を放つ老人だなとウィザーは思った。


「俺はウィザー、縁あってユイと行動をしていた」


「唯?」


「………グス、ウィザーさんは私を助けてくれたの良い人よ」


「おお!それはそれは、孫の恩人でしたか、では我が家でお礼をしたいので一緒にどうです?」


唯の肩に手をやり慰めていた老人がウィザーを見て柔らかい笑顔を見せ家へと誘う。

見た目は日本人のようだが名前からして日系らしい。

ただ孫を助けてくれたウィザーは無愛想だが普通のサラリーマンのようだと老人は感じた。

それにウィザーは首を振り断りをいれる。


「すまんが他にやることがある」


「グッ、なら後程お礼をしたいので電話番号を教えてほしいのじゃが」


「電話?そんな物は持ってないので気にするな」


「な、電話もないと?ググ、なら用事が終わったらここへ連絡をしてくれんか、使いの者を寄越すので是非とも孫のお礼をさせてほしい」


老人が差し出した小さい紙、そこには名前と電話番号が書いてあった。

名刺を貰ったウィザーはどうしたものかと思案すると唯と目があった。

唯のすがるような眼差しを見てウィザーがそれを了承した。


「わかった。用事がすんだら連絡をしよう」


「おお!そうかそうか、待っておるぞウィザーさん」


「ウィザーさん。待ってるからありがとう。またね………」


去っていく二人の背を見送りウィザーも歩き出す。

先ずは恵の猟銃を土に返してやるかと思いながら。


空港から日本の首都まで一時間、その途中でウィザーはバスから降りた。

バスの中から見えた山を見て恵の猟銃を埋めるのに丁度いいと思ったのだ。

バスを降り遥か向こうに見える山まで走る。

体を強化し飛ぶように走るウィザーの姿を見たものはいない。

あっという間に山に着くと人が入っていないであろう延び放題の草をかき分け山の中へと足を踏み入れた。

真っ直ぐに上へと目指し人が通った道さえ無い山の中を奥へと入り頂上へと着いた。

さして高くない山だが人が踏みしめた跡もない事からここが良いだろうと穴を掘ると恵の猟銃を埋める。


「恵、お前が望んだ日本だ」


そう呟いてウィザーは山を下った。

やる事も終え、山の中を歩き日本の首都へと向かう。

その途中でウィザーは思い付いた。

ここなら調べた魔法を試すのに丁度いいのではないかと。

日本に来る前にネットカフェで検索した結果、魔法の種類が豊富に考えられている事に興味が湧いたのだ。


いまウィザーが使えるのは火魔法、魔眼、アイテムボックス、治癒、身体強化だ。

これも検索した時に自分の体感した結果これだろうと考えそう呼ぶことにした。

そして魔法を検索した時に他に水、土、風、聖、闇、氷、光、雷、重力、空間、呪、召喚、精霊、創造など様々な魔法をこの世界の人間は創作していた。


参考にした本を数十冊読むと大抵は異世界召喚により魔法が使えるようになり大冒険をしている。


異世界、それは最近になりウィザーの脳裏にある姿を一瞬思い浮かべる。

数人の人間らしき者がウィザーを見下ろし失敗作と嘲笑うのだ。

その力は強大で今のウィザーでは遥かに及ばないと思った。

だが、それでも奴等を皆殺しにしたい。

そう肉体、細胞、遺伝子が叫んでいる気がする。

それが実現すればとても気分が良いのではないだろうかと最近になってウィザーはそう思うようになった。


脳裏に浮かぶ負の感情、それはウィザーが初めて感じるれっきとした殺意。

これまでウィザーは攻撃をされたから殺しただけでそこには感情は入ってない。

恵を殺されてもそれは同じだった。

どうしてここまで内心を揺さぶるのかはまだハッキリとはしないがそれが自分にとって必要な事だとそう思うようになった。


だから新たな力がほしい。

ウィザーは山の中を歩きながら周囲の気配を感じ生き物の気配を探る。

気配察知=遠くの気配を察知して場所を特定する。

この能力は使い勝手が良さそうだったので覚えたい。

そして危険察知、自身に危険な事が迫ると察知できる能力らしいがこれは得られないだろうとウィザーは思っている。

なにせウィザー以上に危険な存在などこの世界には存在しないからだ。

だからウィザーは焦りを感じる。

このままではいけないと、ウィザーより強く死の香りのする敵と出会いたいと。


だから今はやるべき事をやると自分に言い聞かせる。

この山に住む動物の気配は感じる事ができた。

山の中で微かな音や臭い風の流れを肌で感じていく。

すると小動物だろう小さい気配を感じそこに使い慣れた火魔法のファイヤーボールをぶつけると派手な音とその気配が消えた。

反応の消えた場所へと行き見てみると火が木に移り燃えている。

着弾点らしき場所を見ると焼けすぎで炭になった小動物の死体があった。


これまで適当に魔法を使っていたせいで魔法の威力を抑える事は考えていなかった。

持っている食料も少なく炭にするほどの威力は今は必要ないと考えてウィザーは腹に手をあてると、まだ腹の空き具合もそれほど感じないのでさらに山の中を歩き感じる小動物の気配に対して火、水、土、風と最小の威力で魔法を試し小動物を食べられるよう調整しようと決めた。


満足のいく結果になるまで数日かけて山の中を歩き魔法を試していった。

基本5種=火、水、風、土、無属性ぐらいしか実験できなかったがある程度力を抑えて使えるようになり、人の作った食べ物が喰いたくなったので首都の姿が近くに見える場所まで移動した。


「ボリボリ…ガリ…ゴクン。やはり生より焼いた方が旨いな」


火魔法で焼けた小動物の死体を噛み砕きながらウィザーは歩く。

山の中で歩き汚れた服を着替え大勢の人間が住む首都へと着いた。

鋪装された道と灰色の高い建物が並び車や人間が多く見える。

時間も昼時とありウィザーが着ているスーツを着た男達も多く居るのでウィザーの存在も違和感なく溶け込んだ。

ただ日本には来たがこれからの目的は無い。

金はあるし気に入った本や物を買うぐらいでもう日本には用が無いと言ってもいい。


「そういえば連絡してくれと言っていたか………」


ウィザーは唯の祖父から貰った名刺を取り出し公衆電話を見つけて書かれている番号に電話をした。


「はい、坂本組です」



若い男の声が電話口から聞こえてきた。


「連絡をくれと言われたから電話をしたんが」


「はあ?……どちら様で?」


「ウィザーだ」


「…………悪戯か?」


その男は初めは慎重に受け答えをしていたがウィザーの言葉を聞いてだんだんと声を荒らげる。


「だから!どこのウィザーだよお前!」


「知らん。俺は俺だ」


「……舐めてんのか?殺すぞ」


「ほう、俺を殺せるのか?やってみろ」


「ああ!上等だ!殺ってやるよ場所を言えコラ!」


場所と聞いてウィザーは周りを見る。

ここがどこなのかは知らない。

仕方なく公衆電話の中を見渡すとそこに場所らしき文字が書いてあるプレートを発見して伝える。


「あ、場所か?…………××××だ?」


「あ!……××××だな!今から行ってやるよ!そこで待ってろ!痛って!」


「なにを騒いでやがるマサ!」


「あ、兄貴…………すんません」


「で、誰からだ?」


「し、知りません。ウィザーと名乗ってますが…………」


若い男の声ともう少し歳が上そうな男の声が電話口から聞こえた。


「すみません。誰からの紹介でしょうか?」


「誰?」


「はい。何か名前が書いてませんかね?」


さっきの若い男から変わったらしい。

ウィザーはそれを聞いて名刺を見ると名前があった。


「坂本 十蔵か?」


「…………どうしてそれを?」


「ん、唯と日本に来て空港で爺さんに名刺を貰った」


「…………すみません!直ぐに若い者に迎えに行かせます!おい!マサ!おやじの客人に舐めた口をききやがって!てめえは客人の迎えに行けや!唯さんの命の恩人だぞ!」


「ヒッ!すんません兄貴!直ぐに迎えに行かせていただきます!」


電話口の向こうでドタバタと五月蠅い音が聞こえてくる。


「……はあ。申し訳ない。おやじから話は聞いておりますウィザーさん。今、家の者が迎えに行きましたのでそこでお待ちを黒のセダンでマサと名乗る者が行きますので車に乗って下さい」


「ああ、わかった」


公衆電話から出て、言われた通りにウィザーはここで待っていると一台の黒い車が近くの道で止まり若い男が降りてウィザーのいる公衆電話まで来た。


「あの、ウィザーさんでしょうか?」


恐る恐るといった感じで黒服の細身の若い男が声をかけてきた。


「そうだ」


「さ、さっきはすみませんでした!」


ウィザーが名乗ると若い男が謝り頭を下げた。


「お前、さっきの電話の奴か。俺を殺せると言った」


ウィザーは目を細め射抜くように若い男を見つめる。


「は、すみません!謝ります。お嬢さんの命の恩人だとは知りませんで失礼な事を言いました!」


その男の金髪の頭部を見つめウィザーは矛を納める。

見るからに弱そうで敵では無いようだと判断した。


「もういい。俺はどうすればいい?」


「は、はい。あの車で屋敷まで送ります。俺はマサと言います。兄貴からウィザーさんを丁重に迎えよと言われてますので何なりと命令をしてください!」


「…………わかった」


マサが乗ってきた車に乗り込むと後部座席に乗ったウィザーはマサに任せて流れる景色を見つめた。

数十分移動すると車のスピードがゆっくりとなり家の門をくぐる。

けっこう広い屋敷で門から玄関まで数十メートルはある。

マサの運転した車が止まると家の玄関前で大勢の黒服の男達が出迎えウィザーが乗った後部座席のドアが開いた。


「どうぞこちらへ」


ウィザーは促され頭を下げる黒服の男達の間を歩き家の中に入る。

廊下を歩き奥へと進むと広い部屋へと通された。

部屋の中にはあの老人と唯が居て唯はウィザーを見ると笑顔を見せた。


「どうぞそこにお座り下さいウィザーさん。よく来なさった。唯も喜んでいますぞ」


老人に言われた通りにウィザーは草の匂いがする床に膝を曲げて座ると案内をした男がお茶と菓子をだすとウィザーの後ろに離れて控えた。


「ウィザーさん用事は終わりましたかな?」


「ああ、目的は達した」


「そうですか、では孫を助けてくれたお礼を是非と受けて下され。おい!」


老人が手を叩くと背後に控えていた男が動きウィザーの目の前に現金の束が5つ置かれた。


「これは?」


「なぁに、孫を助けてくれたお礼ですよ。遠慮なさらずにどうぞ」


目を細めウィザーを見つめる老人。

唯は視線を動かしウィザーと老人のやりとりを見つめている。


「いらん。それより唯よ、飯を作る約束だったろ?それで良い」


「は、はい!」


「待ちなさい唯。金はいらんだと?金は力だ誰もが魅了されるウィザーさんも遠慮なく受け取ってもいいのですぞ?」


腰を浮かせた唯を呼び止め老人がウィザーを鋭く見つめる。

ウィザーは老人が何を言いたいのかわからなかったがどうやら金は力らしいと感じるとウィザーは持っていた金をアイテムボックスから出すとテーブルの上にぶちまけた。


「ならこれでお前は俺の言いなりになるのか?」


「なっ…………」


老人が用意した30倍はあろう札束を見て老人が声をなくす。

唯も驚いて目を開きウィザーを見るとウィザーの背後から声が飛んだ。


「てめえ!親父を愚弄するのか!」


何を怒っているのか家の中を案内してきた男がウィザーに掴みかかってきた。


「止めねえか!タツヤ!」


「お?」


「グフ!」


老人が声を張り上げ止めに入ったがウィザーは顔を殴りにきた男の拳を掴むと座りながら男の拳を捻り畳の上に捻り落とした。


ボキ!バギ!


体格の良い男の腕は折れ曲がり嫌な音がこの部屋に響き男は畳の上で気を失う。


「キャ~!」


「ぬっ」


それは一瞬の出来事だった。

その一瞬で信用している部下が気を失いウィザーは老人を見つめ平然としている。

それを見て老人の背筋に冷たい汗が流れる。

けして相手にしてはいけない化け物がここに居ると。


「…………すまなかった、ウィザーさん。タツヤの事を許してほしい。それにさっきの言葉も取り消す。だからその金は私からお詫びだと思って受け取ってほしい……」


畳の上で気を失っているタツヤを心配そうに見つめる唯。

常識が欠けているウィザーはこの程度の事で詫びる老人に内心で首を傾げながらも老人の言葉に頷きテーブルの上にあった金を全てアイテムボックスへとしまった。


「な、なんと」


「わあ、やっぱり!」


驚く老人と瞳を輝かせる唯。

次いでに襲ってきたタツヤという男の怪我を治してやる。


「グッ、な、なにが?」


気を失っていたタツが目を覚まし首を振って立ち上がる。


「タツヤ?」


「へ、なんですおやじ?」


折れ曲がっていた腕が治り怪我らしい怪我もないタツを見て更に驚く老人とそれを不思議そうに見て呟くタツヤ。


「いや……なんでもない。それよりウィザーさんの失礼な事をしたのを謝りなさい」


「は!……すみませんウィザーさん」


自分に何が起こったのかを思い出したタツヤは老人が発する圧力を感じて直ぐに土下座をしてウィザーに謝る。


「構わん。それより飯をくれ」


「ククク、わかった。唯、ウィザーさんにご飯の用意を」


「は、はい!」


パタパタと部屋を出ていく唯を優しげに見つていた老人がウィザーに視線をやり頭をさげる。


「すまなかった。ウィザーさん、客人としてしばらく孫の相手をしてもらえないだろうか?」


「ふむ。暇だからいいぞ」


「ホホホ。タツヤ、ウィザーさんの部屋を用意しなさい。暫く逗留なされる」


「ハッ!皆にもきつく言い聞かせておきます。では失礼を」


タツヤが部屋を出ていきウィザーと老人は他愛のない話をした。

晩御飯が用意されそれを三人で食べながら話をしてその日は与えられた部屋で眠りについた。

朝起きると唯の姿は無く老人とそれに付き従う黒服の男達に挨拶をうける。


「よく眠れたかなウィザーさん」


「ああ、いい感じだ」


「ホホホ、儂は用があるので家には居ないが好きに使ってくれて構わない。手がいるならマサを使ってやってくれ」


「は、はい。ウィザーさんお願いします!」


「ああ、わかった」


老人を見送りウィザーとマサが残る。

とりあえず用は無いのでマサとは別れ家の中を見て回る。

広い家で庭もある。

敷地を囲む高い壁もあり、移動中に車の中から見ていた人の住む家の姿とは別物に感じた。

隔絶した雰囲気の家の敷地の外を出るとこちらを見張る視線を感じる。


(この家の者ではないな)


敵意があり老人の家で覚えた男達の気配とは違う。

けっこう遠くから見ているようだがウィザーにはその人間がどこに居るかは直ぐにわかった。

だが手出しをしてこないないなら無視しても構わないと思い歩き出す。


「兄貴!」


ウィザーの背後から声が聞こえた。


「兄貴!ま、待ってくれよ……」


「ん?」


まさかウィザーの事では無いと思い無視して歩いていたがマサが回り込むようにウィザーの前に来て荒い息を吐く。


「はあ、はあ。兄貴、散歩なら俺もついて行きますよ」


「兄貴?」


「は、はい。兄貴と呼ばせてください」


「ふむ。まあいいぞ」


「はい!兄貴は何処に行くので?」


「決まってない。それより唯は何処だ?」


「お嬢さんですか?小学校ですが?」


「学校?」


「?」


聞き覚えは無いが意味なら思い出し納得した。

子供が勉強をする場所だと脳裏に思い浮かぶ。


「そうか、なら行くぞ」


「は、はい!」


朝から晩まで歩き続けたウィザーは平気そうにしていたがマサは汗だくで疲労の色も濃い。

屋敷に着くと倒れたマサを仲間の黒服達に任せてウィザーは唯と共に飯を食べた。

こんな日が一週間ほど続いた朝の事だった。

ウィザーはまだ寝ていたが老人と唯が屋敷を出ようと車に乗り門を通り外に出ると銃声が鳴り響いた。


パンパンパンパンパン!


驚いて車を止めた運転手が急いで車をバックさせようと車を動かすがタイヤが破裂して空回りをする。

屋敷に居た男達が怒声を上げて車の回りに集まると更に銃声が鳴り響いた。


「グア!」


「ガア!」


「ギャ!」


集まった男達は撃たれ血を流し地面に倒れる。

まだ息はあるが痛みで苦痛をあげている。

集まった男達は撃たれ地面に倒れる。

まだ息はあるが痛みで苦痛をあげている。

それを見て駆け寄る顔を隠した男達が車の窓を破り唯を連れ出そうとするのを老人は必死に庇う。


「死ねや!」


「グッ!」


「お祖父さん!」


自分を庇い背中を撃たれた十蔵が口から血を吐き唯を庇おうとしがみつく。


「おい!そいつはまだ殺すなよ。生きていて役にたつんだからな」


「は!」


「よし!こっちも終わりだ。娘を連れ出せ!」


力付くで老人を車の外に出し唯の手を掴むと強引に引っ張り襲撃してきた男達は逃げていった。


「………………唯」


「どうした?怪我をして」


頭上から聞き覚えがある声が聞こえた。


「グッ、唯を……唯を助けてくだされ」


「組長!」


騒ぎ出す男達に目をやりながらどうすかと考える。

五月蝿くて起きたウィザーが門の前まで来ると騒動は終わっていた。

道路は血塗れで黒服の男達が倒れている。

車は穴だらけ、門や壁も削れていた。

遠くからあの嫌な目にあった音を響かせる車が来るのを感じる。

ウィザーは車の近くで血を流し倒れている老人に声をかけると直ぐにマサが老人を助け起こす。

体を起こされた老人は掠れた声でウィザーに助けを求めた。

ウィザーは姿が見えなくなった唯の気配を探しとらえる。

車で移動しているのだろうすごいスピードで動いている。

このまま行くとウィザーの気配察知範囲外に出てしまいそうだ。


「良いだろう、行くか。ん?」


ここに居ても面倒な事になりそうな予感がしてので移動しようとしたときにこの前感じた視線と気配を感じた。

こちらを見張る人間の気配だ。

ニヤリと笑いウィザーは駆けだした。

密集する住宅街に入ると見張りからこちらの姿を確認できないよう死角に入り移動する。


目指すは階層のあるマンションの屋上。

ウィザーは一気に飛び上がりそのマンションの屋上に静かに降りると老人の家を見張っていた男の姿をとらえた。

男は一人で腹這いになり双眼鏡で老人の家を見ている。

ウィザーはその男の背後に気配を消して近づき腹這いの男の背中を踏みつけた。


「ぐあ!な、なんだ?」


「何を見ている?」


「ぐ、なんだお前は!」


「五月蠅い、質問に答えろ」


ボキボキボキッ!


「ぐあ~!」


「ふむ、あばら骨3本か……話すか?」


「グググ、だ、誰がは、話す……グア~!」


ボキン!


「おっと、あばらの次は左腕か……次は何処にしようかな」


ボキン!


「グア!!!」


「ほら、右腕が逝ったぞ」


ボキン!


「ヒィ~!や、やめ……て」


「フフ、右足もダメだな。次は……」


「は、話します……だから止め、てください……」


ボキン!


「ギャ~!」


「ん?話すのか?左足も逝ったぞ。話すなら早く話せ、次は腰骨にしようか」


「はあ、はあ、はあ。グ、俺は早乙女組、の者だ。兄貴から坂本組を見張り、日々の行動を、探れと命じられただけだ」


「早乙女組?」


「はあ、はあ。そう、だ。坂本組とは……犬猿の仲だ。奴等は俺達の縄張りまで犯そうとしたから、見せしめに娘を、誘拐しろとあ、兄貴が……」


もはや動くことも出来ない男が痛みにあえぎながらもウィザーに話す。

顔は汗だくで嘘を言っているようには見えない。


「で、ユイは何処に連れていかれたんだ?」


「兄貴の、家……です……………………」


「ふむ。あっちか」


気絶した男から足をどけてウィザーは唯の気配を感じる方向へ視線を向ける。

気絶した男を放置してウィザーはマンションの屋上から飛び降りて唯の気配を追って走り出した。


離れていく唯の気配を感じながらウィザーは途中のコンビニに入ると手軽に食える物を全て買い占めて店員に金を払うとアイテムボックスに放り込む。

どこまで行くのかと3時間ほど唯の気配を追いながら走っていると唯の気配が止まる。

どうやら目的地に到着したようだ。


ウィザーがその場所に着くと辺りは住宅は少なく離れている。

土が剥き出しの道が林の中を通りどうやらこの先に行ったらしい。

ウィザーは気配を消しながら林の中を進み遠くに見える家に唯の気配を感じるとその家の回りを警戒している男達が見えた。

その手には長い銃があり十人以上は居る全員が持っている。

その男達が守る家は白い壁で囲まれウィザーからは家の姿さえ見えない。

殺気が漂うこの中をどうするかはウィザーは考えない。

堂々と姿を見せて林の中の道を歩いて行く。


「おい!止まれ!」


一人の男がウィザーの接近に気づき大声を上げた。

その声を聞いた男達も集まる。

男達の背後には唯が居るはずの家の出入り口と白い壁が見える。

ウィザーはその声を無視して歩みを止めない。

それを見て十人程の男達が警戒しながら銃を構え狙いをつける。


「近づく者は消せと言われている。構わん撃て!」


「「「おお!」」」


バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン


一斉に男達が手にした銃でウィザーを撃った。

硝煙がウィザーの姿を隠し男達は銃を下に向け死体になったであろうウィザーを探す。

そして現れる人影、それを見て銃を上げる男達が見たのは全身穴だらけで頭部は削れ、顔面は醜く崩れ手足も千切れ欠けている日本人の男の歩く姿だった。


「ククク、これは予想外だ。俺の肉体をこうも傷つける事ができるとはな……」


「ヒッ、化け物!」


「う、撃て!」


再度の銃撃の嵐、しかし目の前の男の体はみるみるうちに再生していく。


「ば、化け物だ」


「黙って撃ち続けろ!」


「もう、それは覚えた。ほれお返しだ。アイスニードル!」


完全に体の再生を終えたウィザーの体にはもはや男達の持つ大型の銃では傷をつける事が出来なかった。

そしてウィザーの回りに浮かぶ氷の槍が五つ。

本来なら小さい針ぐらいの大きさが基本らしいのだが魔力の調整が甘いウィザーが使うと加減しても威力が高くなってしまう事が山歩きでの実験で判明した。

その氷の槍が高速で動きウィザーを攻撃してきた男達5人の体を貫き絶命させる。


「な、なんだよこれ?」


「お、おい!もっと強力な武器を持ってこい!相手は化け物だ」


「は、はい!」


残り7人の内2人の男の姿が消え残りの男達が再び銃をウィザーに向けて撃つ。


「…………ウィンドカッター」


そうウィザーが呟くと5人の男達の体は見えない刃で切られたように上半身と下半身を分断された。

更に後ろの壁さえも両断して崩れ落ちる。


「な、なんだよこれ?」


「奴だ!あの化け物がやったんだ!」


「あ?あれが化け物だと?普通の兄ちゃんにしか見えねえぞ?」


「は、はやく手榴弾を!」


「わかったわかった。焦んなよ。おい!回りに隠れている奴の仲間が居るはずだ。奴一人でコレができるはずはねえ!奴ごと回りを吹き飛ばしてやれや!」


「「「おお!!!」」」


ウィザーが切り裂いた壁の後ろから8人程の男達が顔を出してウィザーに何か小さい物体を投げてきた。


コロン、コロン、コロン……ドガンドガンドガン!!!


3つほど小さい物体がウィザーの目の前に転がってくると爆発した。

それがウィザーの回りでもおき土煙と倒れた木でウィザーの姿を隠した。


「ふん!終わったぞ」


「ああ、坂本組の奴だろうがなぜここがわかった?」


「あ、兄貴……も、もっと」


「あ?どうしたそんなに怯えて……」


バキ!バキ!バキ!


「あん、なんだ?」


「ヒッ!」


男達の見つめる先で手榴弾で倒れた木が折られ中からあの男が立ち上がるのが見えた。


「う、嘘だろ?」


「なんだよあれ?」


男達が見つめる中、ウィザーが木の下から立ち上がる。

右足が無く体全身の皮膚が裂けて内身が飛び出していたが比較的ましな顔に笑みが浮かんでいる。


「……アースランス」


「ギャ!」


「ゴワ!」


「グエ!」


「ゴブ!」


「ガッ!」


「ゴホッ!」


「な、なんだよコレ?」


「ひっ、ば、化け物だ!逃げろ~!」


突如、地面から飛び出した槍の様な物に串刺しにされた仲間を見て腰を抜かし2人の男達が這うように家の中へと逃げていく。


「ふふ、なんて愉快だ。この世界にもまだまだ俺を傷つける武器があるなんて……ヒール」


笑みを見せながらウィザーは自身の肉体を回復させる。

本来なら回復魔法など必要としない体のはずなのだが…………。

魔法名は全てこの世界の本で覚えた名前を使用し効果はそれに載っていた説明文で造ったが割りと上手くいったとウィザーは思っている。

さすがのウィザーも全身回復には腹が減って直ぐには動けなかった。

その場で破れた服を脱ぎ、新しい服とコンビニで買った飯をアイテムボックスから出して喰う。

腹も満たされゆっくりと唯が居るであろう家へと向かった。


その家の中では大慌てで逃げてきた子分を見て右頬に一筋の傷のある青年が怒鳴りちらしていた。

その部屋の隅には唯が手足を縛られ小さい体をさらに縮ませながら黙ってそれを見つめている。


「仁科の兄貴……ヤバイです、外には化け物が……」


「ほ、本当なんです。兄貴、逃げましょう」


「あ~ん!敵は何人だ?こっちには人質が居るんだ。直ぐに応援も来る、ここで時間を稼ぐぞ!」


「い、嫌だ!俺は組を抜ける死にたくねぇ!」


「お、俺もだ!」


「お、おい!戻ってこい!おい!」


部屋から慌てて出ていった子分2人を見て呆然とした表情をする青年。

青年からしたら子分達は死をも恐れない強兵だったはずなのだ。

それが恐怖の表情を浮かべ一目散に逃げ出した。


「…………化け物?」


「……逃げないの?」


部屋の隅から聞こえた少女の声に頬に傷がある青年が驚いたように振り返る。


「……こっちに来い!」


仁科と呼ばれた青年が唯に近づき強引に引き寄せると部屋のドアに向い銃を構える。

家中が静寂に包まれ唯と仁科の息遣いが大きく聞こえる中で家の玄関の方から物音が聞こえてきた。


「…………ゴクリ」


緊張で唾をのんだ仁科が見つめる中で部屋のドアが静かに開く。


「死ねや!」


パンパンパンパン!


銃声が部屋の中に響きドアに小さい穴が空いたがその人影は怯んだ様子もみせずに部屋の中に入ってきた。


「な、馬鹿な!当たったはずだ。防弾チョッキかよ……死ね!」


部屋に入って来たのはごく普通の日本人の青年だった。

背も普通だし黒い髪も短く清潔そうだ。

さらにサラリーマンが着ているような服を着てとても子分が言った化け物には見えなかった。

だが、仁科が言った防弾チョッキのような物は着ていない、それでも何か理由があるはずだと仁科は思い敵の素顔である顔面に向けて銃を撃った。


鳴り響く銃声、唯は驚いて目を閉じ、仁科は笑う。

銃から発射された弾は確実に青年の顔に命中し殺したと実感したからだ。

しかし青年の顔に命中する直前に弾が何か見えない壁に弾かれ青年の後ろの壁に当たる。


「な、なんだと?」


「……マジックシールド。いい加減に飽きた。唯を離せば命は助けてやる」


「……ふざけるな!お前こそ武器を捨てろ!怪しげな物も全部だ!」


仁科は唯の髪を掴み乱暴にウィザーに見せつける。


「痛い!止めて……」


「へへ、どうする?」


「どうもせん。マジックアロー」


「へ?……ギャア!」


「アッ」


突如、仁科の右目から吹き出す鮮血。

右目を押さえ倒れる仁科の目には不可視の矢が突き刺っている。

その拍子に掴んでいた唯の髪も離され床に座り込む唯。

後ろで苦痛に呻く仁科の声を聞き唯は慌ててウィザーの方へと来てその足にしがみつく。


「ウ、ウ……ウィザーさん」


「ユイ、少し目を閉じてろ」


「…………はい」


ウィザーの言葉に素直に頷いた唯は目を閉じる。

痛みで床に手をつき右目を押さえている仁科にウィザーは一言告げる。


「死ね…………ファイヤーボール」


「え?……ギャア~!」


サッカーボール程の火の球が仁科に向いその身を焼く。

信じられない物を見て仁科の表情は凍りつき、そこで意識を失う。

後には炭になるまで焼けた人間が残った。

ウィザーは直ぐに唯を抱えると家を出る。

目を閉じたままの唯を抱え林を抜ける頃には後ろから火の手が上がっていた。



無事に唯を救いだしたウィザーは唯と共に十蔵の屋敷まで戻ってきた。

屋敷の前は騒ぎになっていて見覚えのある男達が警察から事情聴取をされている姿が見える。


「……お祖父ちゃんは?」


「知らん」


「ウウ……どうしよう」


2人は屋敷には入れないと覚って離れた位置にいるのだが、不安そうにこちらを見る唯の問いに答えられる程の情報はウィザーは持ってない。

どうしようかとオロオロする唯の近くからマサの声が聞こえた。


「お嬢様!」


「え?」


「マサか」


「よく無事で……良かったです。組長なら顔見知りの医者の所です。案内をしますからこちらへ」


「え、でも…………」


家が警察官で一杯だ。

そこに住む者として見てみぬふりをするのに気が咎めるのか唯がチラチラと屋敷を見る。


「心配はありません。兄貴達が上手くやってます。小学生のお嬢様が心配する必要はないですよ。それよりも組長と所へ行って安心させてあげてください」


「……お祖父ちゃんは無事なの?」


「はい。意識もあります。ささ、こちらへ」


ここから少し離れた所に止まっていた車に乗り十蔵が入院している病院へと向かった。

高層ビルが立ち並ぶ間を通り車はあるビルの地下駐車場へと入っていく。

病院へ行くのだと思っていた唯の顔には不安の色がある。

ウィザーの服を掴み案内をするマサの後ろ姿を見ながらおとなしくついていくとエレベーターがあり、その中に入るとマサがボタンを押した。


「あの、本当にお祖父ちゃんはここに?」


「はい。ここは俺達のようなヤクザ者でも秘密厳守で診てくれる腕の良い先生がいますので安心してください」


「…………そうなんだ」


エレベーターが10階で止り開く。

真ん中に通路、その左右に部屋が並び番号が書かれたプレートがつけられていた。

マサは慣れた感じで歩きだし奥の部屋へと進むとノックをして中へと入る。


「失礼しますマサです。お嬢様をお連れしました」


「な、唯は無事か!」


力強い元気そうな声を聞いて唯が部屋の中へと駆け出す。


「お祖父ちゃん!」


「おお、唯!」


個室の部屋のベットの上で上半身を起こしている十蔵にしがみつくように泣く唯。

ベットの脇には包帯を巻いて椅子に座っているタツヤの姿も見える。


「お、お嬢様!背中は……」


「グッ…………良いタツヤ」


「アッ!ごめんなさい」


最後に見たのが背中を撃たれた姿だったと思い出した唯は慌てて体を離す。


「ググッ、大丈夫だよ唯。それとウィザーさん孫を助けてくれてありがとう」


「いや、十分に満足した。練習には丁度いい相手だったぞ」


「それはそれは…………相手は早乙女組ですかな?」


「ああ」


「…………そうですか。タツヤ、コレを」


「…………殺るんですね」


「なに、礼はせんとな」


「…………お預かりいたします。全軍を動かしても」


「もちろんだ。全てを奪え」


「……ハッ!」


ハハハと笑う十蔵に頭を下げてタツヤが部屋を出た。

何の事かわからない唯はキョトンとして見送りマサは緊張して体が強張っている。

ウィザーは我関せずと興味を無くし部屋に置かれていたテレビに目をやるとそこに他国で作られた映画が映しだされていた。


「……これは」


ウィザーは食い入るようにテレビを見つめる。

画面には膨大なエネルギーのある空間で地球を救おうと奮闘している人間の姿がある。


「あ、兄貴もこのての映画がお好きでしたか、俺も好きなんですよ。地球を救うために地中に潜って命をかけて核を動かすこの話が」


「……核か」


テレビを見ている事に気づいたマサが得意気にウィザーに話しかける。

ウィザーはジッと画面を見つめ考えこんだ。

これは使えるのではないかと。



十蔵が退院するまでの間、ウィザーは十蔵の屋敷に泊まり唯の相手をしながら調べものに集中した。

召喚魔法、ウィザーはこれに関心があった。

違う次元の世界への移動、さすがのウィザーでもこればかりはどうしようもないと思っていた。

まずは行き先の固定、存在も知られていない場所に行くことはできない。

呼ばれるのではなくこちらから行くからだ。

次に使う魔力の総量が膨大な事だ。

地球には魔力が無く、全てウィザーが賄わなければならないので負担が増大する。

だがこの前見た映画がヒントになりウィザーは別世界への転移を真剣に考え始めた。


物語では神に呼ばれるや別世界の人間による召喚などが基本で自力で違う世界に行くのは難しいようだ。

それは納得できる。

どうしても膨大なエネルギーが負担になり自分も諦めていた事だからだ。

しかし地球の核のエネルギーを使えばどうかと考えた。


ウィザーの血や肉はそれを知っている。

神は存在するし魔神も存在する事を。

勇者、英雄、聖者、聖女、魔王、魔人、上級魔族、古代竜、魔女など全てが存在する世界があるとウィザーの遺伝子が証明していた。


それを知らないウィザーだが勘を頼りに考えついたのが自分の血を使い別世界へと転移する方法だった。

自分の血と魔力、地球のエネルギーを使い別世界へと至る。

色々と調べ月日が立ち十蔵が退院して屋敷に帰ってきた。

屋敷はもと通りに直り、襲撃前の日常が戻った。


「じゃあな」


「…………はい。さよならウィザーさん」


「本当に行くのかの、ここに住んでもらっても構わないが」


「いや、俺にはやらなければならない事が出来た」


「……そうですか。なら何も言うまいよ。世話になったウィザーさん」


屋敷の前に集まった坂本組の面々、十蔵や泣き出した唯と別れウィザーはとある場所に向かった。

人気の無い海が見える場所だ。

ここから地球の核に向い転移する。

ここに来るまでに向こうの世界でも使えそうな物を買った。

主に金の延べ棒、宝石、食糧だ。

持っていた金を全て使った。

向こうではこちらの金は使えないと書物にあるからだ。

だから金にしやすい物を選んだ。

そして食い物もだ。

地球での食文化は他世界では追随を許さないほど旨いらしい。

主食からデザート、お菓子まで購入した。

食い物に関しては貪欲なウィザーらしくこれで持っていた金を全て使いきった。

これを全てアイテムボックスに入れておけば問題ない。


準備が整い海の見える浜辺でウィザー魔力を練る。

先ずは体を小さくする。

日本人の平均伸長ほどの体が数センチまで縮んだ。

見た目は小指の爪ほどの肉の塊が魔法を使う。

圧縮された肉体に更に身体強化の魔法をかけ地中の熱と固い鉱石と圧力に耐える体にした。

次に火魔法で地中を溶かし柔らかくし進むために体を高温にした。

灼熱の白い炎がウィザーを包むと一気に地面へと激突する。


あの映画のように地中の中を進んでいく。

暗く明かりは自身を包む魔法だけ。

方向も何ものわからないが真っ直ぐに下へと突き進んだ。

立ちはだかる全てをその身で破壊し気がつけば広大な空間に到達した。

荒れ狂うエネルギーの波、ウィザーの火魔法以上の熱と光。

それが凄まじい勢いで回流している。

まさにこの地球の命の輝きがここにあった。


(ククク。これだ!このエネルギーが必要だった!)


ウィザーは内心で満面の笑みを作り荒れ狂う空間の中央へと進む。

そこで位置を固定して地球の核のエネルギーを吸収を始めた。

膨大なエネルギーがウィザーの中へと入る。

それをウィザーは自身の魔力と混ぜ放出するとそれは竜巻のように回転し空間に干渉し始める。

膨大な魔力とエネルギーがついに目の前の空間に歪みの穴を空けた。

その穴の向こうには闇の中に浮かぶ無数の星が光っていた。


(これだ!次は血で魔法陣を……)


核のエネルギーの吸収を止め、ウィザーは体に血の紋様を描く。

ウィザーは強く望む思いを血に乗せ自身の遺伝子に全てをかけた。

血は蒸発しないように魔力で保護をする。

まるで意志があるかのようにウィザーの血は動き複雑な模様を描いた。


活発だった地球の核のエネルギーは終息しその動きは徐々にゆっくりになっていく。

その中で光輝く血の紋様。

そして空間の穴に引っ張られる感覚がウィザーを襲う。


「異世界へ!」


ウィザーの体が空間にできた穴に吸い込まれその穴は元に戻った。

この時、地球の内側で強烈な光が生れた。

それは地表に届き幻想的な光景が宇宙から観測できたという。

この映像はニュースで流れ世界各国に配信された。

光輝く地球、人々は神の奇跡と称賛し世界が平和の祈りで満ちた。




………………だがこれは滅亡へのカウントダウン。

人類滅亡まであと…………186日。

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