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男は最凶の勇者か魔王か  作者: ミイナ
7/23

大都市と地下と少女

「あ~腹へったな」


村を出てあてもなく森をさ迷い兎に角進んだ。

途中で人間と会い近くの村へと行くと日本への行き方を聞いた。

日本というか外国に行くには飛行機に乗って行くらしい。

知識として知っているが見たことはない。

更にお金が必要な事も教えてもらった。


また、ある村に寄った時には体のデカイ外国人らしき男が(俺の事だが)金も払わずに屋台の飯を喰らい怒られた。

恵より少し年上ぐらいの若い女だ。

俺が黙っているのを話が通じていないと勘違いをして身振り手振りで話しかけてきた。


「あんた、浮浪者かい?綺麗な顔をして良い体もしているのに勿体ないね」


そこで彼女は店の手伝いをすれば許すと言って暫くそこで世話になった。

その女の家で3日ほど滞在して地図や世間の常識を習った。


俺は僅かな金を貰いその村を出ると大都市と呼ばれる場所へと向かった。

飯の旨い良い女だった。

夜になると俺の部屋にきて半刻ほど女は半裸で踊った欲求不満だったようで汗だくだが満足そうな顔をして一緒に眠った。

別れる際も一緒に暮らそうと誘われたが俺は日本に行くと言って断る。


そして俺の目の前にはその女が言った大都市と呼ばれる姿がある。

これまでの村とは違い柵などなくどこからても入れそうだ。

色とりどりの車が大都市の中や外へと猛スピードで通り過ぎる。


空を見上げると飛行機と呼ばれる鉄の塊が空に浮かび進んでいくのが見える。

あれに乗って日本に行けるのかと思うと自然に足も早くなる。



「くそ、何故俺はこんなところに居るんだ?」


俺は流れる汚物や汚水に目をやりげんなりと呟く。

大都市に入ったのはいいが直ぐに赤い煌めく灯りと騒音響かせる車に乗った人間に追いかけられた。

最初はわからなかったがどうやら俺の持つ猟銃を寄越せだとか後ろを向けだとか言ってきた。


無視をして歩き続けるとその数が更に増えた。

奴等からは怒声は響いても殺気は感じなかったので無視をしていたが煩わしい。

俺は言葉のわからない外国人を演じると、近くにある橋まで来るとその身を川の下へと踊らせた。


水温は冷たくもなく丁度いい。

上は騒がしいので俺はそのまま川を泳ぎデカイ穴があいている場所を見つけるとその中へと入っていた。

そして今がある。


「そういえば村に入る度に騒ぎになったはこれのせいか?」


あまりにも騒ぐので魔法を使ったのだが何の魔法なのかは知らん。

そのせいで余計に腹が減ったが使えば皆が騒ぐのを止めて俺に従った。

この魔法のコツは相手の目を見て俺に従えと心の中で思う事だけだ。

今回は数が多くて面倒くさくなりこんな目にあったが恵の猟銃のせいだとわかればどこかに隠しておこう。


「お、ここがいいかな」


ウィザーの目の前に小さい闇の渦が生み出された。

なんの躊躇いもなくウィザーはその中へと猟銃と弾を入れるとその闇の渦が消えた。

それはウィザーの本能のどこかで理解しているのだろう。


「出ろ」


出したい物を思い浮かべウィザーは手を上げるとそこに猟銃が握られる。


「良し良し、上手くいった。だが………更に腹へったな………ん?」


満足そうに頷き猟銃を出し入れするとウィザーの腹が鳴る。

空腹感を感じ腹を撫でると穴の奥から人間の臭いを感じた。


「お、人間が居るぞ」


人間が居るなら食い物もあると信じてウィザーは薄暗いが灯りが所々ついている地下下水道の奥へと進んでいった。


「どうよ見ろ、女だぞ。俺が捕まえたんだ」


「ケッ!まだ子供じゃねえか使えねえだろ?」


「嫌、た、助けてお母さん」


「ああ!女はみんな穴があれば使えるんだよ。ならお前はどっか行けよ!」


「ケッ、悪趣味な奴め。俺は女を買いに行く。だから早く金を寄越せよ。そいつの親父は金持ちだろう?俺も手伝ったのだから分け前は貰うぜ」


「チッ、わかってるって。ここも安全じゃないからな、騒ぎもあったが警察が来なくて良かったぜ!」


「ヒッ!」


「アガッ!」


「ヒヒヒ。ほら、分け前だ。お前もこいつの両親と同じ所へと行けや!」


暗い闇の中でウィザーはその一部始終を見つめていた。

小さい少女に二人組の男が話している。

少女は怯え、泣き男達を座って見つめる。

二人の男の片割れが視線を外すともう一人の男がその男の頭を何かで殴った。

二人とも小汚ない格好をした男達だ。


殴った男は頭から血を流す仲間の男を汚水の流れる水の中へと蹴落とすと唾を吐き少女に向き直ると何故かズボンを脱ぎだした。


「ヒッ!い、嫌!助けてお父さん!お母さん!」


「ヒヒヒ、お嬢ちゃん。お前の両親はもう天国へ行ったよ。お嬢ちゃんも天国へ行きたいだろ?ヒヒヒ~」


半裸の小汚ない男が少女の目の前に立ち下衆な笑みを浮かべている。

ウィザーそっと進むとその男の背後に立つ。

男の顔を恐怖の表情で見つめていた少女がウィザーに気づいたが小汚ない男は気づかない。

ウィザーはニヤリと笑うとその小汚ない男の股間を蹴りあげた。


「ウグ!…………アッ」


ドサ!と音をたてて倒れる男。

ウィザーは泡を吹いて倒れている男の体を汚水の川に蹴落とした。


「ヒッ………助けて……」


小汚ない男が汚水に沈むのを無言で見つめていた少女がウィザーを見つめ恐怖に体が強張る。

だがウィザーを見て何かを感じたのか小声で呟いた。


「ん?俺に言ったのか?」


「………はぃ。助けて」


こくりと頷く少女を見て思案する。


「お前、飯は作れるか?」


「……え?………簡単のなら」


「そうか!旨い飯を頼むぞ少女よ。そうと決まればここを出るか」


「は、はき!」


「ん?」


「………はい」


うつ向いた少女の頬が赤い。

ウィザーはそれに気づかずに歩きはじめた。

その後ろを少女がついていく。


「なあ、ここから出るには何処から出る?」


「え?」


突然話しかけられた少女は困惑しながらも自分が連れ去られた道を思いだし指をさす。


「……あっち…だと思う」


「そうか!行くぞ少女よ」


少女が指をさした方へと歩き出すウィザーに少女は置いていかれまいと早足でついていった。


「待って、私の名前は唯。ユイ・サカモトです。あなたの名前は?」


「ん、俺か。俺の名はウィザーだ。ユイサカモトと言ったか?お前は俺にご飯をくれればいい。それ以外は望まない」


「は、はい!助けてくれてありがとうございます。ウィザーさん。それと私の名前は唯です。名字が坂本です」


少しは安心したのか唯の声にも元気がでてきた。

唯が指をさした方へと進んで行くと外の光だろうか先が明るい。

ウィザーと唯はその光に向い進んで行くと外へと通じる場所に出た。

だがそこは鉄格子がはめられよく下を見ると大人一人分くらいの穴が空いているがウィザーの体ではそこを抜けられそうになかった。


「ど、どうしよう」


唯だけが外に出て鉄格子の向こうのウィザーにたずねる。

唯の力では勿論、大人でも曲げるのが難しそうだ。


「ふん!」


「ええ!」


唯の見ている前で銀髪の大男のウィザーが鉄格子を曲げる。


「良し、行くかユイ」


「は、はい」


呆然としていると唯の体を抱えウィザーは飛び上がるとまるで無重力のように高く舞い上がった。

ウィザーの服をギュッと握り目を閉じた唯は暫くして浮遊感が無くなったのを感じると目を開けると人の手が入っている道と通り行く人を見てホッとした。

唯は自分が捕まったのが昼前の何処かのお店の駐車場だったと思い出す。

父と母が突然に襲われ自分すぐに目隠しをされてあそこに居た。


唯はウィザーを見上げ泣きそうな表情をみせる。

助けてもらった事にとても感謝をしているが両親の事も心配だった。

だから早く両親の事を知りたい。

だけどウィザーと約束をしてしまった。


「どうしたユイ?」


目の前の小さい少女が自分を見上げ悲しそうな表情をしている。

何かを苦悩しているようだが理由がわからない。

恵のような黒く長い髪と闇のように黒い瞳。

身体もウィザーの下半身くらしかない小柄な少女がウィザーを見つめている。


「お、お父さんとお母さんを探さないと………」


「そうか、ならコレに入っているお金を幾らかくれ。それで良いぞ」


「え?」


唯が見ている目の前でウィザーは黒い財布を手のひらにだした。


「あ!それ、お父さんの財布!」


唯は驚きながらも財布を受け取る。


「あの小汚ない男達が言っていたのならお金が入っているのだろう?ならそれで良いぞ。俺は腹が満たされば他に興味は無い」


「……じゃあこれを」


唯は手付かずの財布からお金をウィザーに渡した。

少女が大金と思っている高額紙幣を2枚。

それを受け取りウィザーは満足そうに頷いた。


「うんうん。じゃあ目的の場所まで送ってやるから安い店を教えてくれ」


ウィザーと別れる事に不安を感じていた唯だが目的の場所まで送ってくれると聞きホッとする。

両親の事を知るにはやはり警察がいいと判断して唯は道行く人に警察の人が居る場所を聞きながらウィザーと共に歩きだした。


目的の場所はここから歩いて10分ほどの近い場所にあると判明。

どうやら大都市中心部に近い場所だったらしい。

唯は道すがらウィザーにファーフトフード店を指にさしてあそこなら安く食べられると教える。

ウィザーはニヤリと笑い覚えたと言って唯の目的の場所へと向かった。

唯の目的の場所に着くとウィザーは顔をしかめる。

それは自分を追いかけ回した車が何台も止まっていたからだ。


「ユイ、ここでお別れだ」


「え?」


「俺は腹が減ったので飯を食いに行く」


「は、はい。ウィザーさんありがとうございました」


別れるのは寂しいが約束だからと自分を納得させた唯はペコリと頭を下げる。それを見たウィザーは頷くと唯と別れた。

ウィザーはそそくさと警察署の見える場所から離れた。


唯と別れ教えられた店へと入ると笑顔の店員の顔が強張っている。

猟銃は持ってないしどこかおかしいだろうかと首を傾げると店員の視線がウィザーの服に注目していた。

それを感じてウィザーは自分の服を見る。

川に飛び込み下水道を歩いた服は薄汚れ臭いもする。

そういえば人間は身だしなみを気にしていたなとあの屋台の女を思い浮かべウィザーはとにかく安くてこれで買えるだけと注文をだして店の中で待つ。


店員はこの国でも珍しいウィザーの銀髪を見て言葉も通じない外国人だろうかと思い黙って注文を受けた。

高額紙幣1枚で大量のバーガーを受け取ったウィザーは店を出て歩きながらそれを食う。


さて、これからどうしようかと考えているとネットカフェなる看板が目に入った。

ウィザーはその店に入ると利用法方を確認して金を払うと空いている個室に入る。

ウィザーが入るとその部屋が狭く感じるがとりあえず風呂もあるらしいので体の汚れを落としに向かった。

風呂で汚れを落し全裸で店の中を歩いていると慌てて店員が走ってきて怒られた。

着ていた服は全て捨てたので服をくれと言うと店員は素直に頷き店に置いてあった大きめの服を無料でウィザーに渡した。


「タダなのか?」


「………………」


どうやらまた魔法が発動したようだとウィザーは腹を押さえて残りのバーガー個室で食う。

数十個あったバーガーを食べ腹も満たされたウィザーはパソコンに向き合い知りたい情報を探す。


日本、行き方、値段、銃、警察と調べていく。

高速で羅列する文字を目で追い知りたい情報を得るとこの都市で見かけた気になる看板なども検索して情報を得る。


どうやら日本という島国に行くには電車に乗り空港に向かって航空チケットを買い飛行機に乗るのが早いらしい。

だがそこに向かうにはパスポートと呼ばれる物が必要だとか。


「チッ、面倒くさい」


今の自分には無理な注文だと舌打ちをしてウィザーは更に日本へと向かう方法を探す。

時間をかけて何か方法がないかと探していくと密売人という存在が何処かに居るらしい情報が目に入る。

大金を出せば何でもやってくれるらしい人間の存在にウィザーの顔に笑みが浮かぶ。

だが、それに会う事も非常に大変だとも書いてある。

裏社会、マフィア、命知らずなど危険そうな言葉もあるがどれもウィザーは気にしなかった。


「さて、どうやって大金を手に入れるかだな」


ウィザーの思考は既に大金をどう手に入れるかにうつる。

大金といえば銀行、競馬、宝くじなど出てくるワードを検索して吟味し、1番早いのは競馬などの賭け事だと結論をつけた。

幸い、この都市にも競馬場がありそれが明日開催される事も知った。


競馬場はこの都市の外れにありバスで30分ほどで着くとある。

金はまだあるので今日はここで一晩過ごす事を決めて更なる知識を求めて検索に励む。

腹が減れば飯を買い眠らずに朝を迎えた。

少女から貰った金まで手をつけずとも過ごせたウィザーは慣れないバスに乗り競馬場へと着いた。


早朝、バスを降りると大勢の人間が歩いている。

向かう先は同じなのでその流れに任せ競馬場に入ると昨夜仕入れた予備知識と実際の人間の動きを見て馬券の買い方を学ぶ。

誰もウィザーを気にも止めない。

こうもウィザーが普通に動けるのも理由がある。

あれだけの騒ぎがあった事はニュースとなりウィザーの事がテロリストととしてニュースになっていた。

ウィザーの容姿に体格、髪の色など都市中に広まっている。

それを知ったウィザーは直ぐにネットカフェの店員に自分の存在を忘れるように相手の目を見てお願いしたので騒ぎにならず穏やかな時間を過ごせたが外へと出ると目立つ。

そこでウィザーは自分の外見を変える事にした。

それは魔法で検索したときに湯水のごとくヒットした文章から得た知識だった。

魔法が存在しない世界のくせに自分よりも知っていて魔道解説書なるものもあるらしい。

その多くは日本から発信された物が多かったので少し日本に興味がでたウィザーだった。


現在のウィザーは恵と同じ黒い髪を短くし、180㎝ほどの身長の普通の青年に姿を変えている。

姿を変えるのには自身の細胞が役にたった。

元はただの肉片だった自分を理想通りの姿に変えたのだから多少の肉体変化など簡単だった。

少量の魔力を使用したがほぼ負担がなく別人になれた。

魔法使っても腹は減らなかったのでウィザーの中では肉体変化はお手軽な魔法だと認識した。


「さて、買い方は覚えた後は馬か……」


ウィザーはレース前に馬の状態を見られる場所へと向かった。

その際に人気の馬のチェックも忘れない。

人垣ができている中で11頭の馬が大勢の人間の目に晒されていた。

ウィザーはその中で1番人気の馬と目があった。


(勝て、負ければ殺す!)


ウィザーはそう心の中で呟いてそこを離れその馬の馬券を買う。

全額一点、単勝に賭けたウィザーは静かにレースの見える席に腰を下ろす。

時間になり第一レースがスタート。

ウィザーが見つめるなかでウィザーが買った1番人気の馬がスタートから逃げ、そのままゴールした。

まるで命の危険を感じるかのような鬼気迫る迫力に馬に乗っていたジョッキーも困惑顔だった。

その日、全10レースの勝馬が全て逃げ馬だったという珍事が起きた。


「……ではこれが換金のお金です」


テーブルの上に大金が積まれている。

黒服に白い手袋をはめた男が運んできたものだ。

高額紙幣が一束百枚、それがソファーに座るウィザーの顔の辺りまでテーブルに積まれている。

ウィザーはそれに頷き競馬場関係者が用意した鞄に入れるように指示すると競馬場関係者が用意した車に乗り大都市中心部に戻った。

その車を降りてウィザーは金の入った鞄を闇の渦の中に放り込む。


金を運んできた男が身分証やら税金やらと言っていたが無言の話し合いで問題なく解決した。

やはり身分証とやらが必要だなと改めて意識をしたウィザーだった。

大金が手に入ったのでウィザーは近くの服屋に入ると今の体に合う服と1番大きい服を5着ほど上下セットで購入する。

今着ている服もその店で新に買い換えた。


大荷物になったが店を出ると人目を避けてから闇の渦の中に収納して身軽になったウィザーは飯屋に向い歩き出す。

バーガーも良いが肉が食いたいと検索した情報を元に目当ての店へと向かった。

ウィザーが大量の牛ステーキを堪能しながら今日の事を振り返る。

陽も沈み夕食時の店内は大勢の人間で溢れていた。

その中で今日の競馬場の珍事も話題の1つになっているようだ。


ウィザーのとった策など簡単な事だった。

ウィザーの力で馬に命令してその馬券を買う。

買い方は単純な方がいいために単勝買いにした。

第一レースから第九レースまでは人気の馬を勝たせて最後に大穴の馬に命令して大金を手に入ったのだ。

なんでも検索した情報には大金だった場合、その競馬場の一室に呼ばれて受け渡しをするんだとか、ウィザーは目立つ事を避けて第五レースからは配当金が高額紙幣が百枚以下になるように抑え、最後に持っていた全額を最後のレースに賭けた。

面倒事は一度でいいと思ったからだ。

ウィザーの予想通りに最後だけ部屋に呼ばれ換金となったがこれで目的の半分はクリアーした。

後は偽身分証を手に入れるだけだと牛ステーキを何枚もお代わりをしながら次の手を考える。


「へへ、兄ちゃん。こんなところで迷子かい?」


「へえ、いい身形をしてるじゃん。俺達にもその金を分けてくれよ?」


ウィザーの目の前に肌が黒い少年と白い肌の少年が立ちはだかった。

道路にはゴミが散乱しいままで綺麗だった街並みが汚れた街並みに変わっている。

ウィザーは目の前に現れた少年達を見て笑みを浮かべた。


「おい!何を笑ってんだよ」


「死にたくなかったら金を出せと言ってるんだよ兄ちゃん」


ウィザーの調べによるとスラム街という場所には裏社会の人間が出入りをしているらしいとの検索結果が出た。

腹を満たしたウィザーはその足でその場所へと足を運んだのだ。


「もう殺っちゃえ」


「そう……「おい、身分証がほしい」だな」


「「はあ?」」


少年二人がウィザーの言葉に間抜けな声をだした。


「プッ」


「アハハ、馬鹿かお前。何で俺達がお前の要求を聞かなくちゃならないんだ?」


「無理か?」


「ケッ!もういいよ話にならねぇ。殺っちゃえ!」


「ああ!」


少年二人の手にはナイフが握られている。

気勢をあげて迫る二人にウィザーは黒い肌の少年の攻撃をかわし白い少年の右腕を掴み動きを封じる。


「グッ、離せよ」


「おい!トムから手を離せ!」


どうやらこの白い少年はトムと言うらしい。


「もう一度言う。身分証がほしい」


「うるさい!知るか!」


「ググッ、いいから殺れジミー」


今度は黒い少年の名が知れた。

だがウィザーの望みを聞くきは無いようだ。

ガキの攻撃など脅威たりえないのでウィザーは淡々と対処をした。


「そうか……」


「えっ?まっ、待って、止めろ~!」


「え、トム?」


いきなり狼狽し顔をしかめるトムの声を聞いてジミーの動きが止まる。

ウィザーはジミーに見せつけるようにしてトムの右腕をその場で握り潰した。

ボキリ!となるトムの右腕、とたんトムが泣き叫ぶ。


「ギャ~!痛い痛い痛い痛い」


「……ト、トム。よ、よくもトムの腕を!」


ジミーが怒りに任せてウィザーに襲いかかる。

ナイフ突きだし体ごと体当たりをしてきた。

それをウィザーはトムの体を引っ張りトムの背中にそのナイフが刺さるように動かした。


「ギャ~!」


「へ?………トム。俺、ゴフ!」


トムの背中に刺さったナイフを見て動きの止まったジミーの顔をウィザーは殴った。

地面に倒れたジミーの顔を更に蹴る。


「や、止めて!ごめんなさい。ごめんなさい」


「ウッ、痛い痛いよ。許して」


地面にうずくまり泣きながら謝るジミーと腕と背中の痛みに涙を流し苦痛の表情をするトム。


「俺は身分証が欲しいと言った。で、知ってるか?」


「…………知ってる」


「ジ、ジミー…………」


どうやら知っているらしい。

一発目で当たりを引いてウィザーの頬が緩む。


「ジミーと言ったか、コイツは預かる。死なせたくなかったら身分証をくれる奴を連れてこい」


「グッ、こんな事をしてただで済むと思っているのか?」


「アハハ、なら応援を連れてきても良いぞ。その時は目の前でコイツを殺してお前達も殺す」


「…………わかった」


ヨロヨロと立ち上がったジミーはスラム街の奥へと消えていった。


「さて、待つか」


「グッ、痛ッ。お、お前死ぬぞ。ざま…みろ」


「ククク、俺をか?ならお前は願うんだな、俺を殺せる奴が来ると」


「………………」


不敵に笑うウィザーを見て言葉を失う。

トムは流れる血と痛みに意識を失った。


パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!


「な、なんだ?」


突然の轟音に気絶していたトムは目を覚ました。

目を開けて音のした方へと顔を向けると大勢の仲間とトムの前に立つウィザーの姿が見えた。

どうやらジミーがリーダーに知らせて応援を呼んだらしい。

仲間の後ろでオロオロとしているジミーを見てトムは内心で違和感を覚えた。


(なんで……予想外の顔をしてるんだジミー?)


ジミーが助けを呼んだのだと思う。

実際に目の前で起こった事を見ればリーダーと仲間達があの男は撃ち殺した。

トムは痛みで麻痺した頭でそう判断した。

だが……………………。


「それはもう知っている」


背中しか見えないがあの男の声が聞こえた。

そして駆け出す黒髪の男の背中をトムはかすれる瞳で見つめる。

そこから辺りは恐怖に支配された。

大勢の仲間から発砲された男が何食わぬ顔で襲いかかってきたからだ。

男の拳は骨を砕き肉を抉る。

10人は居た仲間はリーダーとジミーを残して無惨な死体となった。

銃で撃っても傷つかずその拳はナイフ以上に危険なものだった。


「ハ、ハハハ……嘘だ。こんな悪魔がいるなんて」


「ヒィ、許して。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


血溜りの中に佇むウィザーがリーダーの男に視線を向ける。


「ヒィ!」


「おい。お前は俺の身分証を用意できるか?」


「は、ハイ!用意させていただきます。だから命だけは……」


ウィザーはジッとリーダーと呼ばれた男を見つめる。


「なら早く用意しろ」


「はい、では着いて来て下さい…………」


こちらを様子をビクビクしながら見るリーダーに頷くとウィザーは一緒に歩きだした。


「…………ジミー」


「ト、トム。直ぐに医者に見せるから……」


「………………」


再び意識を失ったトムをジミーは抱えウィザーとリーダーが消えた方とは逆の道を歩きだした。

もう関り合いになりたくないと心底願って。


ウィザーはスラム街にあるとある家に案内をされた。

家の中に入るとリーダーの男は恐縮したように家の主の老人に話しかけている。

その老人はリーダーの男の背後に居るウィザーに視線を向け顎でこちらへ来いと促すと部屋の奥へと消えた。


「こ、これで良いですか?」


恐怖で背中を丸めウィザーを上目使いで見つめるリーダーに頷くとウィザーは高額紙幣の束を一束リーダーの手に渡す。


「…………これは?」


「礼だ。俺は初めからこうするつもりだった。手を出したのはお前達だから自業自得だ。俺は身を守っただけ……わかるよな」


「は、ハイ!失礼しました!」


リーダーの男は逃げるように家を出ていった。

ウィザーは老人が入った部屋に入ると椅子に座る老人と目が合った。


「そこに座れ若いの」


落ち着いた口調で言う老人の言葉に従い机を挟んで置いてある椅子に座る。

老人の背は低く痩せて小柄だ。

椅子に座り老人の顔を見ると茶色の髪に白髪が混じり眼鏡をかけていた。


「で、身分証だったか?」


「ああ、用意できるか?」


「出来る。だが何に使う?」


こちらをジッと見つめる老人にウィザーは日本に行きたいのでパスポートと身分証が必要だと言った。


「……それだけか?」


「ああ」


「…………2000万だ。それで全て用意してやる」


「円?」


「なに?お前は日本人じゃないのか?」


「違う。だが額はわかった。言い値で払う」


「…………前金で300万」


「この国の紙幣でいいか?」


「勿論だ」


ウィザーは300万と思い浮かべると老人の机の上に高額紙幣の束を出して渡した。


「…………どこから?いや、詮索はしまい。3日時間をくれ、顔写真と名前を教えてくれれば今日は帰っていい」


「わかった。俺の名はウィザー。3日後だな?」


「ああ。任せてくれ」


老人の家を出てスラム街を抜ける為に歩いていると。


「助けてくれよ!お願いだ」


「うっさい。金を持って来い!なければ来るな!」


「くそ!…………行こうトム」


見知った声、あれはジミーとトムらしい。

どうやらあの家は医者の家で追い出されたようだった。


「おい」


「なんだよ!」


声をかけられたジミーが顔だけを後ろに向けると腰を抜かして驚いて地面にへたりこむ。

トムもズルズルと地面に横たわり慌ててジミーが担ぐ。


「死んだか?」


「死んでねぇ!……です」


「そうか」


「………………」


それだけを確認してウィザーは二人を追い越して歩き出す。


「ま、待ってください。お願いだ。トムを助けて下さい。まさかリーダーが仲間を集めてあんたを殺そうとは思わなかったんだ。お、俺は偽身分証を作れる人を教えてほしいと言っただけなのに…………」


「ほう。まあ、良いだろう。目的は達したからなホレ!」


「な、何すんだ!トム~!」


ウィザーは意識のないトムを片手で掴むとゴミ袋の山の中へと投げ捨てた。

それを見てジミーが怒りながらトムの元へと行く。


「痛って~、何をするんだよ」


「え?……トム」


「ああ、ジミーか。と、お前は!」


「……良かった」


「ああ?何を泣いてるんだよジミー?…………あれ?」


トムは泣きながら抱きつくジミーに困惑した。

更に自分の怪我も治っている事に更に困惑の度を深めた。

ウィザーはそれを見つつ腹に手をあてる。


「グッ、人を治すのにこんなに腹が減るとは……お前ら飯を食べに行くから付き合え!今の俺は気分が良いから奢ってやるぞ」


「え、いや、俺達は……」


「良いから来い!」


「お、おい。トムを離せよ」


ズルズルと引きずるように連れてこられた場所は深夜でも開いている飯屋でそこへ3人で入る。

本物の悪魔とは目の前のこの男の事を言うのだろうとガチガチに緊張した様子の二人を横目にウィザーは大量の料理を頼んで食らう。


「おい、食わないのか?」


「「……いただきます」」


食事をしながらウィザーは二人がポツリポツリと話すのを聞いていた。

孤児収容所を飛び出した二人をは生きていく為にあのリーダーの仲間になったらしい。

いつしか人を傷つけるのは平気になったが殺した事は無いそうだ。


「あの、怪我を治してくれてありがとう」


「ありがとう、トムを治してくれて」


腹もふくれ少し緊張も解けたのか二人がウィザーに頭を下げる。


「別に構わん。ただの気まぐれだからな」


「そ、それでも」


「ああ、感謝してます」


「そうか、なら3日ほど俺に付き合え。身分証が出来るまで暇だ」


「「え?…………はい!案内をさせていただきます」」


席から立ち上りウィザーに頭を下げる少年二人を怪訝な目で見る店員の様子に気づき二人は慌てて席に座りなおした。

それから3人で店を出ると目についた高級ホテルへと入ると目が泳ぎ不審な行動をする少年二人を見て泊まるのを拒否しようとするホテルの者にウィザーは3日分の金とチップを上乗せしてカウンターの上に置いた。

それを見て笑顔を浮かべすぐに3人を部屋へと案内する。

ウィザーの一人部屋と二人用の部屋を確保してその日は眠りについた。

この辺の知識は屋台の女に教わったのだが実践してみると金の力は威力があると改めて思い知った。


身分不相応の待遇に緊張で眠れなかった二人だが二日目からは爆睡できるほど眠れたらしい。

ホテルで服も新調して二人の少年に渡すとホテルの中でも外でも二人を忌避な目で見る者はいなくなった。

それだけ身形には気を付けないといけないのだなと改めてウィザー思った。

二人に大都市中の見所を案内してもらうと3日などあっという間に過ぎた。

ホテルを引き払いウィザーは身分証を受け取る為にあの老人の家へと少年二人を引き連れて向かった。


コンコンコン


「開いておる」


家の中から老人の声が聞こえウィザーは中に入る。

トムとジミーとはここで別れだ。

別れ際にウィザーは二人に案内賃を渡すと二人は激しく首を振りながらもウィザーの人睨みで渋々金を受け取りウィザーが老人の家に入るまでその頭を下げていた。


「できてるか?」


「ああ、勿論じゃ。儂の最高傑作だ。どこでも通用する」


老人から身分証とパスポートを受け取りウィザーは約束の金を老人に払った。

どこから金が出てるのか不明だが本物の金に間違いはない。

老人はそれを受け取り家の戸を目線でしめす。


「ああ、世話になった」


ウィザーはその意味を汲んで老人の家を出てその足で空港に向かった。


「……はあ~。何じゃあの男は、冷や汗が止まらん。悪い男ではないようじゃが…………」


老人はしばらくウィザーが出ていた戸を見つめていた。

ウィザーが空港に着くとさっそく日本行きのチケットを購入した。

後は時間になれば飛行機に乗り日本へと飛び立つことがてきる。

搭乗まで数時間あり、それまでどう過ごそうかと空港の周りを見ていると見知った小さい少女の姿があった。

少女の近くにはあの高圧的な制服を着た警察官が二人いた。

心細い表情をした少女は俯き地面を見ている。

その手には白い布に包まれた物があり雰囲気も沈んでいる。


「ユイ、どうした?」


ウィザーは警察官と一緒にいる唯に声をかけた。

ハッと顔を上げる唯がウィザーを見るがその顔は知っている顔ではない。

警察官がそれを察してウィザーに質問をした。


「失礼、あなたはこの娘の知り合いか?」


「ああ、ここで知り合い飯を作ってくれる約束をした」


「え?」


「……本当ですかサカモトさん?」


「…………はい。ウィザーさん?……ですよね?」


「ああ。両親には会えたのか?」


「あっ!ちょっとちょっと。ウィザーさんでしたかその話題はまだ………」


「………いいんです。ウィザーさん両親は亡くなっていました。あの時はありがとうございました」


唯が頭を下げた事から知り合いだと信じた警察官がウィザーに提案をした。


「ウィザーさん。空港に居るということは帰国で?」


「ああ、日本へと行くが」


「そうでしたか、ならサカモトさんと一緒に帰国してくれませんかね。ここで会うということは同じ便でしょう。こちらから同じ席にするように話してきますから向こうに着くまで話し相手になってもらいたいのです」


ウィザーから搭乗チケットを見せてもらい警察官の一人が頷くと少し借りますと言って空港の中へと向かった。

ウィザーは唯を見つめ反応を見る。

唯もウィザーを見つめるとコクリと頷いた。


「わかった。引き受けよう」


「そうですか!サカモトさんをお願いします。ウィザーさん」


ウィザーのチケットを持っていた警察官が戻り問題なく唯と同じ席の隣にすることが出来たと同僚に報告すると警察官達は後をウィザーに任せて帰っていた。

ウィザーと唯は人気のない場所へと移動すると設置してあるベンチへと腰を下ろした。


「………………あの~、ウィザーさんの知り合いなの?」


黙ってウィザーの後についてきた唯が遠慮がちにウィザーに訊ねる。

どうやら警察官の前では話をあわせてくれていたようだ。

人気のない場所だからこそ少し不安にさせたらしい。

だが本当の事を話していいのかと迷う。

なにせこの星には魔法という力は存在しない。

知ってはいるがそれは物語や映画などの人の作りし物語にしか存在しないというのが常識だからだ。


「本人だユイ」


だがウィザーはあえて顔だけ元に戻した。

唯の瞳には黒髪の青年が見知った銀髪の青年の顔に変わったのに驚きの表情をする。


「ウィザーさん?だけど顔が………」


「俺は魔法使いなんだ」


「………………魔法使いさん?」


「そうだ」


「………お父さんとお母さんに会える?」


「それは無理だ。死んだ肉体を生きかえさせる事はこの世界ではできない」


「………ごめんなさい」


ウィザーは顔を元の黒髪の青年の顔に戻して俯く唯を見る。

しばらくして唯がポツリとウィザーと別れた後の事を話始めた。

その中でウィザーはなぜこの世界ではと言ったのかと疑問符を浮かべた。

それはきっとウィザーが居たあの世界では死者蘇生が可能だった事を細胞が記憶しているのだろう。

ウィザーは忘れているが彼は最上級の合成生物の成れの果てなのだから。

だがウィザーは日本に行き奴等を思い出す。

自分が他の異世界から来た異物だと。

そして自分を産み出した神の嘲笑う姿を、全てではないがその断片でも思い出す事になる。

なにせ彼の向かう日本にはその手の話が溢れているのだから。








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