目標
これが外の世界かとウィザーは思った。
荒廃した研究施設から外に出る、初めて目にする自然の風景。
「そうか、これが世界か。映像じゃない本物か………」
眼前に広がる森、なんと色彩溢れる光景だろう。
それだけに今が夜だというのが残念だった。
「ほう、あれが自動車か?」
ウィザーの目にここから離れていく光がスピードを上げて離れていくのが見えた。
先程、見逃した男が運転しているのは想像がつく。
ウィザーは男が置いていった銃を手に持ち離れていく車に狙いをつける。
両手持ちの口径が大きい銃だが、さすがに射程距離外だったがウィザーは構わずに引き金を引く。
バーン!
闇の中に消えていく弾、いい加減な狙いで撃ったのだが弾は遥か先の光に向かう。
当然、弾は途中で失速して地面に刺さる。
今度は魔力を込めて銃を構える。
銃の隅々まで魔力を通して狙いをつけて撃った。
「ほう、当たるのかあれが」
ウィザーが見つめる先に小さな炎があがるのが見えた。
物質に魔力を通す、出来るとは思っていたが想像以上の威力はだった。
これは使えるとほくそ笑むウィザーは目の前に広がる森の中へ歩いていった。
………………………………
「閣下、例の研究施設に送り込んだ傭兵との連絡が途絶えました」
「なに?………どういう事だ?」
「ハッ、最後に連絡を受け取った者の報告によりますと何かの恐怖にパニック状態で、言っている意味が解らないのですが、言葉だけを読むと銀髪の男、化け物、ウィザーと叫んで以降の連絡が途絶えました」
「………………あの研究施設に何かが居たのか?………」
「どういたしますか?」
「………………あの施設にまだ人を送れるか?」
「敵国の奥地ですが、時間をもらえれば必ず!」
「そうか、流石に直ぐは無理だな。あちらも馬鹿ではない傭兵の侵入には気づいているだろう、この件はお前に任す。少しの時間ぐらい構わんから必ず原因を見つけろ」
「ハッ!必ずや!」
………………………………………
ウィザーは興味の赴くままに森の中を歩いた。
体は想像以上に動く、自分の意思通りに動く体にウィザーは笑いがとまらなかった。
(フハハハハ!動く、動くぞ。思い通りに動く………………さてどうするか?)
森の中で一通り体を動かしたウィザーは、これからどう行動しようかと考える。
外の世界に出たはいいが、目的はない。
魔法という概念がない世界の異物というべき自分がなにをすれば良いのか、この世界をとるか?今の自分なら簡単に達成できるだろう。
ならこの世界が欲しいかと言われれば答えはNOだ。
興味も無い、なら女かと言われれば人形の体で抱きたいとも思わない。
いずれこの人形を脱ぎ捨てて、人となれば欲するかもしれないが………。
ではどうするかとウィザーが考えていると。
ガサガサガサ!
不意に大きめな音が背後から聞こえる。
「なんだ?」
「ゴフ、ガフ!」
「ん?………熊か?」
ウィザーが見つめる先に巨大な熊が姿を現した。
「やるのか?」
興奮している熊を見つめ、ウィザーは笑みを浮かべる。
「ちょうどいい。退屈をしていたんだ!」
獰猛な瞳を巨大な熊に向けたウィザーは腕を回しながら巨大熊に近づいた。
「がぅうう!」
威嚇するように唸る巨大熊にウィザーは来い!と片手で手招きをする。
この戦いでウィザーは自分のやるべき事を発見した。先ずはとウィザーは無造作に巨大熊を殴る。
この時、ウィザーは人の力では巨大熊は倒せないと知る。
「ム?………ウワ!」
ウィザーの拳が巨大熊の体にめり込むが、巨大熊はそれになんのダメージも感じていない。巨大熊は反対にウィザーを殴り払った。
呆然としていウィザーの体に巨大熊の攻撃が当たる。
その衝撃でウィザーは後ろに吹き飛ばされた。
(う、何だ?体がうまく動かない?)
のしのしと近づいて来る熊を見つつウィザーは自身の体を点検する。
(まずは、腕が折れている?右腕か、胸や背中にダメージが大きい。下半身は………大丈夫だな)
それを確認してウィザーは体に魔力を通す。
スゥーと起き上がると右腕から嫌な音がする。
ウィザーが魔力で強引に折れた腕を伸ばしたのだ。
「まさか、こんなに弱いとはな」
苦笑しつつウィザーは迫る巨大熊を見る。
目の前の人間の雰囲気が変わった事に熊は驚いた。
餌が敵に変わったのだ、不気味な雰囲気を放ちこちらを見ている。
正直、気分が悪い。
熊はもう殺してしまおうと立ち上がり、全力で右手の爪で目の前の人間に攻撃をした。
迫り来る熊の攻撃を折れている右腕で受け止める。
魔力を通した腕は鋼のように固かったが、攻撃を受け止めたウィザーの腕が魔力に耐えきれずに爆散した。
「もったいない」
そう呟くとウィザーは残っている左手に魔力を通すと巨大熊の目の前で空間を撫でる。
バシュ!
と空気が弾ける音と共に、巨大熊の胸に穴が開く、
すると左手も弾け飛んだ。
左手も無くなったウィザーは倒した巨大熊の前で深く考え込んだ。
(脆い。脆すぎないかこの肉体、ちょっと魔力を通したら爆散するなどありえないだろ?筋肉だけでは足りない。もっと補強しなければ力を使えないな。あの銃も結局ちょっと魔力を強めに通したら壊れたしどうにかならないか考えなければならないな)
とりあえずウィザーは散らばる自分の肉片を回収して体内に取り込む。
ムクムクと生える腕を見て満足毛に頷く。
(再生は想定通りに出来ているな、ただ使用する魔力が多いのが気になるが、まあいいだろう。問題はこの程度の敵に破損する体をどうにかしなければ………)
ウィザーは両腕が完全に再生するまで、その場で考え込んだ。
取り込んだ過去の映像や資料を記憶から呼び起こす、そこで改めてアニメや漫画など参考になるものが多い事に感嘆する。
(なるほど、機械的サポートか。ロボコップにサイボーグ、機械を体に埋め込み補強か………………それでいくか?だが作り方などは知らん、空想などの資料などは沢山あるが役にはたたんな)
再生した両腕を動かし具合を確かめる。
不備はないようなので、ウィザーは歩き始めた。
「この世界には大都市が数多くあるようだ、そこでなら俺が求める技術があるはずだ!ならそれを手にいれる」
先ずはそれを目標にしてウィザーはこの森を抜けるべく歩くペースをあげた。