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嵐のまえ
文永四年春正月十九日、内大臣藤原冬忠罷む。
二月二十三日権大納言藤原家経を内大臣となす。
夏五月一日は朝から降り続く雨で殆ど見えなかった。
十九日盗人が大学寮に忍び込み、
孔子十哲の画像に狼藉を為したと云う。
そんな話しが都では人の噂に流れた。
検非違使が押っ取り刀で検分に当たったそうな。
「これこれ、其処の怪しい男、名を何と申す。」
「私は其処の普請の人夫でごぜいます。」
「下がって居れ。」
「へいっ。」
二十三日は如法経十種供養(十種供養とは、
法華経法師品に説かれる十種(華・香・瓔珞・
抹香・塗香・焼香・幡蓋・衣服・伎楽・合掌)
をもって諸仏に供養することまた、其の法要)
が、み佛の前で、仰々しく執り行われた。
九月十四日天皇一院、四天王寺に御幸為された。
冬十月十一日、科人の軽微な者の刑が免じられた。
十二月九日関白實経罷む。
左大臣藤原基平を関白とす。