なな
――青い。
鈴は自らが持つ木のスプーンに鎮座しているピョムの肉を見つめた。見れば見るほど青い。まるで青色絵の具の原液に漬け込んだような青さだ。
鈴はチラリと自分を膝に乗せるライを見た。心配そうにこちらを見ている。いかん、早く食べないとスプーンを取られる。折角自分で食べる権利をもぎ取ったのに。
20歳にもなってイケメンにアーンされる私。
ないわー。想像しただけで羞恥心で叫びたくなる。それだけは避けたかった鈴はアーンをしようとスプーンを持って待ち構えているライに交換条件を出した。
狼族はデカイ。必然的に家具もデカイ。
鈴が1人で座ると顔がようやく机から出る感じだ。そう、まるで小さな子供のような。
子供のように膝抱っこされて食べるか、合わない机に懸命に腕を伸ばして子供のような醜態を晒しながら食べるか。
どちらも嫌だがどうせ子供のように見られるならばと鈴は覚悟を決めた。
自分で食べさせてくれるなら大人しく膝に乗る、と。
いや、まぁ1人で座ったり自分で食べる権利なんて考えるまでもなく本人所有のはずなんだけどね。はずなのに当然のようにその権利を主張してくるライ。
何でやねん。
ちなみにマーサさんが「私の膝にくる?」と聞いてくれて、男よりはと私の気持ちがグラつく前にライが却下した。
いや本当、何でやねん。
色々々々突っ込みたいがソロソロお腹の虫が限界だ。
取り敢えず食事をしようとスプーンを持った。←今ここ
えぇいっ!女は度胸だ!!
鈴は目をつぶってピョムの肉を口に放り込んだ。
モグモグ
あ、意外においしい。
咀嚼する鈴に2つの視線が前後から刺さる。
モグモグモグモグモグモグ
「…スズ?」
ライが問い掛けるが鈴は無言で咀嚼を続けた。瞑っていた目はもう開いているが今は何だかんだ難しい顔で口を動かしている。
「…ライ、様子が変よ?」
「…ああ。スズ、どうした?不味いのか?」
様子がおかしい鈴に2人の眉が寄る。しかし鈴は難しい顔をしながらも首を横に振る。
「…スズ、一回口から肉を出せ。」
ライが空の皿を鈴に差し出すが、鈴はやはり口に手を当てながら首を横に振る。
ライは眉間にシワを寄せ鈴の顎を掴んで上を向かせた。
「出せ。」
しかしなおも口を隠して嫌々する鈴に、ライはチッと舌打ちしたかと思うと鈴の手首を掴んで口から引き剥がし覆い被さってきた。
食べられる。
鈴がそう思った瞬間ライに口を塞がれた。目を見開いて叫ぼうと思わず口を開くと咥内にヌルリとした何かが入ってくる。
「んんっ!」
掴まれていない手でライの身体を押し返すもビクともしない。顎を掴んでいた手も頭の後ろに回されておりガッツリと抑え込まれているではないか。いつの間に!
「ん ー !」と抵抗しているとようやくライが離れていった。
「な…何…っ!?」
え?え??何今の。何今の。口の中に入ってきたのナニ。あ、ピョムのお肉取られた。
パニクる鈴を他所にライは鈴の口から奪い取った肉を咀嚼する。
「…どう?」
「…何ともない。いつもと同じだ。」
心配そうに見ていたマーサが肉を飲み込んだライの言葉をいて安堵の溜め息を吐く。では何故?
「ねぇ鈴。」
「っふぁい!?」
マーサが真っ赤になりながら固まっている鈴に話し掛けた。パニック中だったためおかしな声が出てしまった。
「どういして難しい顔でずっと噛んでたの?」
「…え?」
何?ずっと噛んでた?ピョムの肉の事?
いまだ混乱しながらもマーサの問いに答えなければと口を開く。
「噛めなかっただけ。」
「「は?」」
2人の声が揃った。
「…噛み切れなかったの?」
「うん。」
「ピョムの肉が?」
信じられないという顔で聞いてくるマーサを不思議に思いつつも鈴が頷くと、マーサの目が更に見開かれた。あ、ライも。
美人は驚いた顔も美人だった。