ろく
隣の部屋に移ったライは鈴を椅子に座らせると、別の部屋から道具箱を持ってきてそのま正面にしゃがんだ。鈴の痛めた足を自らの膝にのせ、素早く丁寧に手当てをしていく。
鈴はライの旋毛を見ながらあれ?っと思ったので聞いてみた。
「魔法で治せないんですか?」
「人族は魔力がないから使えないし効かない。」
なんてこった!折角魔法の世界にいるのに意味なし…凹。
「ライは魔法使えるの?」
「使える。まぁ元々狼族は身体強化が得意だから治癒魔法は使えない奴もいるが、殆どの傷は舐めて寝れば自己治癒するから問題ない。」
狼族ワイルドだな。いや、傷を舐めるのは動物特性か?どっちにしろ人には刺激が強すぎる。
「というかあの蔦でこんなに真っ赤に腫らすとは、人族の子は力がなく脆いという話は本当だったんだな。狼族なら赤子でも引きちぎれるくらいの最弱の魔草のはずなんだが。まぁこの白く柔らかい身体なら仕方がないか。 」
どこか感心しながらライが鈴の足を撫でる。
恐らく狼族が強い種族だというのもあるのだろうが、あまりにも人に優しくない環境のようだ。成人女性を引きずり上げる力の蔦が最弱…やばい、生きていける気がしない。鈴が自分の生存出来る可能性の低さに遠い目をしている間に治療が終了した。
「ほら、出来たぞ。」
「……ありがとうございました。」
新たに治療された足を見ながらお礼を言うとライはニッコリと笑って鈴の頭を撫でた。
「泣かなかったな。偉いぞスズ。」
わーい、誉められちゃった☆って、だから子供じゃないってば。
「あ、あの!」
「ん?どうしたスズ。」
いまだしゃがんで鈴の足を膝に乗せたままの体勢のライが鈴を見上げる。
……くっ!イケメンだからって何でも許されると思うなぁぁ!!
推察するに、どうやらライには本気で私が5歳前後の子供として見えているようだ。だから無遠慮に触ってくるし、子供向けの話し方なんだろう。でも五歳はない。羞恥心半端ない。
「私はもう大人です!」
ちゃんと働いているしお酒も飲んでるんだから。あんまり強くないからすぐに酔っちゃうけどね。
と言うか、見てわかるとおもうのだが。う~ん?と疑問符を浮かべているともはや慣れた温もりが頬に触れた。
「そうか、スズはもう大人か。ははっそれは凄いな。確かに泣かなかったしな。」
エライエライと撫でるライ。
… …駄目だ、全く信じてない。むしろ、子供が背伸びして大人ぶっているのをしょうがねぇなぁという感じだ。何で?
困惑する鈴を抱き上げると今度はライが椅子に座り鈴を膝に座らせた。
「膳を。」
少し低い声でライが言葉を紡ぐとすぐ部屋に誰かが入ってきた。
「お夕飯をお持ちしました。」
入ってきたのは超ナイスバディな女性。スラリと伸びた手足と引き締まった腰がシンプルなワンピースの上からでもわかった。
女性は手に持っていたお膳を鈴達の前に置いてくれた。その際露出した彼女の黒い肌に一纏めにされたグレーの髪がサラリと流れる。
わぁ超美人。
姐さん!と言いたくなるような迫力美人をパカーと口を開けて見ていればパチリと女性と目が合った。
ふぉぉ笑ったー!さすが美人!笑うと迫力パナイ。
フワリと笑った美女にワタワタしつつも鈴はハタッと気付く。そう言えば抱っこされたままだったと。
ギャー20歳にもなって子供みたいに膝に座ってるところを美女に見られたー!!何早くも順応して大人しく座ってるのよ私ぃ!
「あ、あの!降ろして下さい!」
「駄目だ。今からご飯だろ?」
また即拒否された。まさかこのまま食べろと?無理ですよ?おーろーせー!
「フフ、可愛い。」
ライの腕から抜け出そうともがいていたら美女さんに頭を撫でられた。あ、いい匂い。美女から花の香りがした。美人は匂いも美人。
「――マーサ。」
「まぁ怖い。初めまして私の名前はマーサ。ライの乳姉弟よ。よろしくね?」
「は、はじめまして。鈴です。」
声が低くなったライを怖いと言いつつ全く怖がってない感じでマーサさんは私達の向かいに座り、睨むライをスルッと無視して料理の説明を始めた。マーサさん強いな。
「今日はコッコの卵とピョムの肉のお粥よ。栄養満点だからたくさん食べなさい。」
「ありがとうございます。」
と、言いつつも膳を見ながら鈴はどうしようと心の中で思った。お椀からはホコホコと湯気が立ち上がりいい臭いが食欲をそそる。お腹も空いている。食べたい。今すぐ食べたい。だがしかし……
お椀を見つめているとお腹の虫が鳴った。
ぐー(飯!)。
わかってるよ、ちょっと待って!鈴はお腹の虫に文句を言った。コッコとピョムっていう何かわからない生き物を食べるのには勇気がいるのだ。
た、食べても死にはしないよね?最悪腹痛位だよね?う~せめてピョムとやらが普通の肉と同じ色をしていれば!!
――ピョムの肉は水色だった。
ピョム→カエルっぽいもの
コッコ→鶏っぽいもの