よん
「……いい加減目ぇ覚まそうよ私。」
やはり見慣れぬアジアンな天蓋を見ながら鈴は2度目の目覚めを果たした。
どうやらかなり寝ていたようで窓の外は真っ暗になっていた。起き上がるとズキッと足が痛み顔をしかめる。
「やっぱり治ってないし。」
布団をめくると治療されたままの自分の足があった。夢にしてはリアルすぎるでしょう?
鈴はおもむろに足に巻かれた布をむしり取った。布の下には何かが練り込まれた葉っぱがベトリと張られていたがそれも剥ぎ取る。
出てきたのは真っ赤に腫れた足。
「痛い…。」
痛い。何で?夢じゃないの?まさか……本当に現実なの?
鈴は胸元の服をギュッと握った。ドクドクと心音が煩く感じる。
電気ではない何かがほのかに照らす部屋に沈黙が広がった。
「――起きたのか?」
ビクッと鈴の肩が揺れる。ソロリと声がした方を見ると、一人の青年が入り口の布を捲って入ってきていた。部屋の外の方が明るく逆光で青年の顔がよく見えない。
「だ、誰?」
「俺は――何をしている!」
「きゃー!」
不安で一杯だった鈴は急に青年が声をあげた事に驚き悲鳴をあげる。
何?何なの!?もう嫌だ!怖いよー!!
小さく膝を丸め頭を抱えてギュッと身を固めていると、不意に足元に温かい感触がした。
「……え?…………え!!?」
鈴は目を見開く。視線の先には自分の足を抱えてペロペロと舌を這わす青年がいたからだ。
うおいっ!何してるのこの人!
「ちょっ!やめっんっ。」
「大人しくしていろ。」
鈴の制止も全く意に介さず青年は鈴の足を舐めあげていく。舐めた後に付いた唾液が光って大変エロい。くすぐったくって変な声が出てしまうから声も出せない。
「……こんなものか。」
いきなり始まった羞恥プレイはしばらく続き、ようやく解放された頃には鈴の息は絶え絶えとなっていた。
「な、何……」
「どうして包帯を取ったんだ?せっかく治療していたのにまた血が出ていたじゃないか。」
何をしている!と怒鳴ろうとしたのに何故か逆に怒られてしまった。え?治療?
見れば確かに足から血が少し出ている。乱暴に布を取ったから傷が開いてしまったようだ。いやいやだからって!
「だからって舐めなくても!」
「何を言っている?傷は舐めないと駄目だろう。」
「……はい?」
不思議そうにこちらを見る青年を鈴もキョトンと見返した。いや、そんな犬じゃあるまいし。と、言おうとして鈴の視線は青年の頭――獣耳を捉えた。
……こら鈴。お前は今何を考えた。それはないでしょ。ないないと思いながらもゴクリと喉が鳴った。
「あの、その耳は本物?」
「本物?あぁ、そう言えば人間は変わった耳をしているな。そんなんで聞こえるのか?」
と、青年の獣耳がピコピコ動いた。
――人間は。
待て。それではまるで自分は人間ではないみたいではないか。
「……あなたは人間では、ない?」
否定して!と祈りながら鈴は震える声で青年に聞いた。
「この世界に人族はいない。俺は狼族のライ。異世界へようこそ、落ち人のお嬢さん。」
――否定どころか余計な事実までついてきた。
山科 鈴、20歳。どうやら異世界トリップしたみたいです。