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非力な私が悪いのか?  作者: 七
日常
12/13

安眠手段

目覚めた先は天国だった。


「……天使って獣耳がついてるんだー」


半覚醒状態の鈴の目の前には黒髪の男の子がピスピスと気持ちよさげに眠っていた。天使のような愛らしさだがたまにピコっと動く獣耳が恐ろしいほどの萌を演出している。


ピコ。ピコピコ。


動いてる…。

鈴は男の子の獣耳にソッと手を伸ばす。


フワッ


「……」


フワッフワッ


「……やばい、止まらん」


あまりの触り心地のよさに調子に乗って触り続けていると、ふと視線を感じた。


「……」

「……」

「オハヨウ?」


いつの間にか寝惚けた様子の蒼い眼がじーっと鈴を見ていた。


ヤバイやり過ぎた!鈴は内心焦りつつも会社勤めで培ったスマイルゼロ円を浮かべながら朝の挨拶をした。その際然り気無く手を耳から離――…泣かないでー!


男の子の蒼い眼にみるみる涙がたまる。誰かー!


「……っと」

「え?」

「もっと」


冷や汗をかいて焦る鈴を涙が張った蒼い眼が見上げてくる。え?え?何?その期待の籠った瞳は何?


グルグルと考え抜いた末に鈴は恐る恐る男の子の獣耳に手を戻してみた。


モフ

フニャ


「……」


モフ

フニャ


……うん。取り敢えず耳を触るのは正解だったみたい。男の子の涙は引っ込んだ。でも今度は私の鼻血が出そうだよ。フニャって!何その蕩けた顔!


男の子は気持ちよさげに目をつぶるとスリッと鈴の胸元にすりよって再び寝息をたて始めた。


獣耳が頬に当たってくすぐったい。しかし男の子が起きてしまうかもしれないから下手に動けない。


うむ、果たして私はこの愛らしい生き物を泣かせてまで起きる必要があるのか?答えは否!


「…寝よ」


鈴は子供の温もりを享受しながら二度目の眠りに入っていった。





現在鈴がいる場所は臨時の子供部屋だ。鈴に抱き付いている男の子以外にも数人子供達が仲良くお昼寝中で、皆ギュウギュウに隅に固まって寝ているため素敵な萌饅頭状態である。


何故いつもは外を元気に駆け回っている子供達と室内にいるかというと、例によって異世界優しくねぇなコノヤロウという的なアレである。


それは昨日の朝に遡る。


鈴はその日、ブルリとした肌寒さで目が覚めた。ほとんどカラッとした温暖気候に油断して腹をペロンと出して寝ていたから超寒かった。


何事!?と思って窓を見てビックリ。


「嘘ぉ…雪?ってか寒っ!!」


昨日までの亜熱帯が一夜にして変化した銀世界に目を見開きつつヘックショイと可愛くないクシャミをしたところでライが部屋に入ってきた。鼻水垂れてる所を見られたー!


「すまん鈴、寒かったな」


ライに寒い部屋から連れ出された鈴はメェのモコモコな毛皮――薄紅色(天然色)――に包まれ更にライに抱き込まれながら温かいスープを飲み、ようやく人心地だ。まぢ寒かった。


ライの説明によると原因――と言うかきっかけ?――は水の精霊王の後継者が誕生したかららしい。飲んでいたスープを一瞬吹きかけてしまった。


来ましたファンタジー☆


直接的な原因は5大精霊の1つ、水の精霊の最上位である精霊王の次代誕生ということで同系統の精霊がテンションMaxのお祭り状態になったからだそうだ。


「この辺は水の精霊を祀る祠が近くにあるから上位種の雪の精霊が騒いでいるんだろう」


もう少し南に下がったら大雨だぞーと楽しそうにライが言っているが鈴は思った。


精霊超迷惑。


…いや、うん。わかってる。非力のヒガミだよね。


この世界は精霊と共に生きている。獣人が精霊の力を借りることはあるが基本精霊は別次元の存在だ。自然そのものと言い換えてもいい。


それこそ下位の所謂普通の精霊ならそこら中にいるし、発生しては自然に還るというサイクルを短いスパンで繰り返している。しかし上位になるにつれて数が減りサイクルも緩やかになるため、昨日誕生した水の精霊王の次代などゆうに千年ぶりらしい。親子ではなく次代も自然から発生し、また現王も死ぬわけでもない。ただ発生し、還るだけ。それが精霊という存在だ。


その際、王の誕生は各属性にちなんだ天変地異――主に調子に乗った精霊が原因で――が起きるらしいがそこは獣人。強靭な身体能力のおかげで大した問題はなし。しばらくすれば精霊達も落ち着いて天候も元に戻るからそれまで 多少生活に制限が出る位だそうだ。自然界のバランス的に獸人にとってもめでたいらしい。


たしかにめでたい。めでたいが、鈴は泣きたくなった。何なの?精霊王の誕生の度に生命の危機とか本当に勘弁して下さい。


今外に出たら死ぬとか!一瞬で氷漬けとか何!?怖すぎる!


「火の結界を張ったこの部屋から勝手に出るなよー」


一通り説明を受けた後ライに安全を確保された子供部屋に入れられた。まだ狩りが出来ない幼い子供達も次々放り込まれてきた。


ただでさえ精霊達が箍を外して騒いでいるのに更に生まれたばかりの精霊王の強大かつ未熟な制御でだだ漏れした力が精霊達の力を強めてしまっていて、通常ではあり得ないほど気温を下げていてるそうだ。まだ未熟な狼族の子供達もヤバイ位らしい。なるほど、絶対死ぬ。


火の精霊王の誕生の際には灼熱地獄なのかとライに聞いたら私なら水分蒸発して一瞬で干からびると言われた。へぇー…怖っ!


どうやら落ち人は精霊達がヒャッハーしただけで生きていけないみたいである。本当にコノヤロウ。


ちなみに最近水の精霊が騒いでいたから一応用心してライが指示を出して各家に水耐性の結界を張っていたから鈴も凍える程度ですんだようだ。次期族長さすが!ステキ!ナイス判断!!聞いた瞬間思わず抱きついたら力強く抱き返してくれた。逞しい腕万歳。私のちっぽけな命は貴方にかかってます。





後日、鈴10ヶ条に1人寝禁止が追加されたのは言うまでもない。


精霊が見えず、魔法も使えず、更には獣化も出来ずに体毛も薄い鈴には気温の変化に独自で対応不可と判断されたのだが、今回は本人に異議はなし。次がどの系統の王が誕生するかはわからないが――干からびて死んだりするくらいなら抱き枕ドンとこいである。



メェ→羊っぽいもの

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