はじまりのうず
A.T.G.C 第九回
ジャンル:童話。 縛りはなし。
深月と竜輝、二人の魂が最初に出会った時のお話。なーんて、ちょっと突拍子も無いお話になってしまいました。しかも、これ、童話なんでしょうか……。あはは。
それはまだ、人も、神も、妖怪も、精霊もいなかった頃。
いえ、みんな精霊で、人で、妖怪で、そして神だったのかもしれない。
そもそも、お互いの区別なんてなかった。
ただ、それぞれの存在になる前のものが、一緒に、ぐるぐるとうずまいていた。
けれど、次第にいろいろな部分に分かれ始めた。
好奇心旺盛なものたちは、うずをさかのぼって、うずの中心を目指した。
静かな調和を望むものたちは、うずの流れに乗り、うずの外縁部へと漂って行った。
それでもまだ、最初の頃はそれぞれのものたちは、一体で、分かち難いものだった。
うずの中心に近い部分。その辺りは密度が次第に濃くなり、うずの流れが次第にゆるくなり始めた。続いて、濃くなった密度は、さらに濃くなっていく部分、あまり濃くならない部分、それは次第に重いもの、軽いものへと分かれた。
そして、長い時間を経た後、そこには形が生まれた。
丸い形。
大きな、大きな丸いもの。その表面までうずまき、燃え盛る、とても大きな丸いもの。
その大きな丸いものの周りで渦巻いていたものから生まれた、少し小さな丸いものたち。
少し小さなものたちは、大きさも、その中身もさまざまに違った。
燃えてはいないけど、とても大きくて、ぐるぐると全体がうずまくもの。
そんなに大きくはなくて、表面は固い殻で覆われたもの。けど、その中身はやはりぐるぐるとうずまいていた。
それらのものたちは、一つのうずとして繋がっていた時とは違い、形を得た代わりに、別々のものと、なりはじめていた。
それでも、やはりそれぞれは分かち難く、ぐるぐるとお互いの周りを回っていた。
そんな中、最初にカタチを得たものたちは、変わらずに、楽しそうに、喜びいっぱいで、その世界を飛び回っていた。
まぁ、そのカタチ、というのは、他の者たちとはちょっと違うカタチだった。
手に取れる、目に見える形ではなかった。
そう。 あえて言葉で言うなら、心のカタチ、もしくは魂とでもいうものだろうか。
好奇心旺盛な魂。
静かに佇む魂。
静かに佇む魂は、うずの端の方に佇んでいた。
そこは静かで、調和に満ち、確かに彼女が望んでいたものがそこにあった。
けど、何かが足りない様な気がした。
好奇心旺盛な魂は、うずの中心にできた大地の上を走り回っていた。
そこはにぎやかで、活気にあふれて、いくつもの楽しいことが次々と起きていた。
けど、彼はそれだけでは満足できなかった。
あの、遥かうずの中心。 ずいぶんと活気にあふれている感じがする。
あそこには、何があるんだろう?
あの、遥か空の上。 すごくきれいなものが静かにきらめいている。
あそこには、何があるんだろう?
今の自分に、自分の周囲に不満がある訳じゃない。
けど、なんだか、もっと素敵なものが、すばらしいものがある様な気がする。
行って見たい。
そこには何があるんだろう?
そこには誰がいるんだろう?
ある日、静かに佇む魂は、そっとうずの中心を覗き込んでいた。
いつも佇んでいる、うずの外縁を離れ、うずの中心の近く。 その中で、一番にぎやかな大地の周りをぐるぐると回るモノの陰から、彼女はそっとにぎやかな大地を覗き込んでいた。
その日、好奇心旺盛な魂は、好奇心を抑えきれず、空をぐんぐんと上っていた。
いつも駆け回っている大地を離れ、うずの外縁に向かい、いつも見える、空に浮かぶ、まるくて、優しい光を放つモノを目指して、彼はぐんぐんと上って行った。
彼女は、覗き込んでいる大地から、何かが飛び上がるのを。そして、その何かが自分の居るほうに向かってぐんぐんと近付いてくるのを見つけた。
なんだろう?
でも、きっと、あのにぎやかな大地のことを知ってるに違いない。
あの活気あふれる場所に、何があるのか訊いてみたい。
そう思い、ぐんぐんと近付いてくるそれを見つめていた。
彼は、優しい光を放つモノを目指してぐんぐんと上った。
あそこには何があるんだろう? そう思って、良く見ると、そこに何かが居るのが見えた。
今までに見たことがないものだった。
この先の、もっと空の上のことを知っているだろうか?
あの静かにきらめく場所に何があるのか知ってるだろうか?
ちょっと訊いてみようかな。 そう思った。
彼は飛び上がった勢いそのままに、彼を見つめ続ける彼女のまん前に、ずどーんと着地した。
そのせいで、そこには大きな穴が開いてしまった。
その音も、衝撃もすごかったけど、彼も、彼女も、なぜか気になりませんでした。
どうしてって、お互いの存在が気になって仕方が無かったから。
「「ねえ」」
だから、声を掛けたのは、お互いにほぼ同時でした。
お互いのそんな様子に、二人はとても安心してしまいました。 まぁ、これまでに何か困ったことに出会ったこともなかったので、不安を感じるなんてこともなかったんですけど。
そして、次に最初に声を掛けたのは、彼の方でした。やはり、好奇心の塊の方が、行動は早かった様です。ほんのちょっとの差なんですけどね。 だって、その時、彼女も声を掛けようと、もう、口が半分開いてたんですから。
でも、とにかく、彼の方が一瞬だけ早かったんです。
「ね。 空の上、もっともっと上には何があるの? いつもきらきらときらめいていて、とってもきれいなんだけど」
「空の上にはね、お星様があるのよ。 静かに、でも、きれいにきらめいているわ。 とてもきれいで、とても安心できる場所なのよ」
「そうなんだ。 行ってみたいなあ」
「ね。 あの大地の上には何があるの? いつも色んなものが元気に動き回っていて、とても楽しそうよね」
「大地の上はね、山があったり、海があったり、そこには色んなものが生きてるんだ。とても元気に生きてるし、みんな仲良しだから、とっても楽しいんだよ」
「そうなの。 私も行ってみたいなあ」
そんなことを言い合い、二人はにっこりと笑い合いました。
そして、まずは、空の上のお星様を、二人で見て回ることにしました。
「うわあ。 きれいだねえ。 大地から見上げてるときも、きれいだと思ってたけど、近付いてみると、もっともっときれいに見えるよ」
そして、そのまま二人は、今度は大地に向かいました。
「すごいわあ。 こんなに色々なものが居るのね。 海の色も、山の色も、とってもきれいね。空の上から見ただけじゃ見えない、色んな色があるのね」
二人は、お互いに案内されて、お互いの世界のあちこちを見て回りました。
いつの間にか、二人はしっかりと手を繋いで飛び回っていました。
だって、二人それぞれの世界のことを案内するのも楽しかったけど、一番楽しいことが何か気がついたからなんです。
そう。二人で一緒にいることが、どんなに楽しいことか、どんなにうれしいことか。
そうなんです。二人は、それぞれの場所で、不満は無かったんですけど、何かが足りないと感じていた、その何かを見つけたんです。
だから、二人はお互いのとなりにいることで、お互いに触れ合うことで、とても満ち足りた、この上ない幸せを感じていたんです。
きっと、世界がそのままならば、いつまでも、いつまでも、本当に永遠に、二人はずっとそうしていることができたのかもしれません。
けど、世界の仕組みは、二人が永遠にそのままでいることはできないものでした。
世界は、変化することで動いていきます。
二人にも、そのことは十分にわかっていました。
自分たちだけは、もしかしたら、そのまま永遠になれないか、そんな風に望んだことはありました。けど、そうじゃないことは知ってました。
何事も、そのままで永遠になれることはないってことを。
変化し続けるからこそ、永遠に続けることができるってことを。
だから、今の二人のままでいる時間は、いずれ終わりになるってことを。
それは哀しいことではないと考えていました。
それでも、ちょっと切なくて、二人の目には、涙が浮かんでいました。
「そろそろ、お別れだな」
「ええ、そうね。 でも、楽しかったわよね」
「ああ。 楽しかった」
「うん。 あなたに会えてよかったわ」
「僕も、きみに会えてよかった」
「また、会えるかしら」
「会えるさ。 僕たちが、会いたいって思えば、必ず会えるさ」
「そうよね。 じゃ、ゼッタイ会えるわね」
「そういえば、きみ、名前は?」
「わたしの名前は、みつき。 満ちる月で、静かに世界を照らすわ」
「僕の名前は、たつき。 大地の上を、元気に飛び回るのさ」
「わかったわ。 じゃぁ、またね」
「あぁ、またな」
そうして、二つの心は、この世界に最初に生まれた魂は、他にもたくさんの魂が生まれたことを、大地の上がにぎやかな魂でいっぱいになることを確認した頃、静かに別れ、二人の魂は、静かに世界へと還っていきました。
また出会う日を信じて。
世界はずっと平和できらめきに満ちた、優しい場所であることを信じて。
ぐるぐると回るうずから始まった世界。
二つの魂が戯れ、紡ぎ始めた世界。
それが、みんなが生きる、希望に満ちた世界の始まりでした。
だから、少しくらい辛いことがあっても大丈夫なんです。
二人が出会うたびに、希望が生まれ、喜びが生まれるんですから。
二人は何回も出会うんですから。
だって二人とも、ずっと、お互いに会いたいって思ってますから。
その気持ちだけは、本当に永遠なんですから。
今回は、最初に考えたプロットに比較的素直に沿ったお話になったと思います。それでも、書き始めて変わって行ったところもたくさんありますけど。それにしも、なんだか突拍子も何も、テキトーなお話になった様な感じです。童話? 神話? うーん。