4…報復
黒いメルセデスは大阪から東京へと向かって制限速度を遥かに超える速度で高速道路を走っている。
時速メーターの針は140Kmを超えていた。
その時低い唸り声のような不気味な音が車の中に響き渡った。
男はコートのポケットから携帯を取出し通知不可能と表示されているディスプレイを見ると通話ボタンを押した。
電話越しに女の声が聞こえた。
『久しぶりね柴島…。』
柴島はその声に聞き覚えがあった…。
『…何故この番号が分かった?』
『携帯番号くらい直ぐに調べられるわ。』
電話の女は結城理江と言う名で過去に警視庁の公安部に所属していたが、事情があって今は警視庁を辞め情報屋を営んでいる。
『そうか…これで疑惑が確信に変わったよ‥とにかく会って話がしたい…
レアマドリアに明日12時に落ち合おう』
『ええ、分かったわ。』
柴島は携帯を助手席に放り投げると、オールバックにした黒髪を撫でながら深い為息をついた…。
そしてダッシュボードから一枚の写真を取りだした。
写真にはロングヘヤーで緩いパーマのかかった美人の女の人が小さな女の子と手を繋いでカメラに向かって微笑んでいる。
その時柴島の頬を涙が伝い写真の上に涙の雫が零れ落ちた。
柴島は涙を拭うと写真をダッシュボードにしまった。
柴島は約束の時間より30分も前にレアマドリアへ着いていた。
レアマドリアは洋食専門のレストランで柴島はオーナーの周防秀一と昔から馴染みがあり店の奥にあるプライベートルームと呼ばれる部屋をよく使わせてもらっている。
柴島は店員に自分の名を名乗りオーナーを呼んでくれと頼むと店員は足早に去っていった。
店内には洒落たインテリアが数多くあり、客の年齢層は10代が多くカップルもよく利用する。
5分くらい経ったとき店の奥からオーナーの周防秀一が出てきた。
周防は丸顔、丸坊主で卵のような頭だが身長はやたらと高く柴島も183と高いほうなのだがその柴島よりも頭が一つデカかった。
『久しぶりだな、どうしたんだいきなり?』
『突然で悪いんだが‥奥の部屋を使いたいんだが』
『ああ、構わないよ。
部屋は開いてるから勝手に使ってくれ、手が空いたら何か持ってくよ』
『悪いな』
『いいって!いいって!ゆっくりしてってくれよ。』周防はまた店の奥へと消えた。
柴島はプライベートルームに入り椅子に腰を下ろしたプライベートルームといっても実際は八丈一間の居酒屋の個室の様な部屋だ。
柴島は東京に来ると必ずこの店に立ち寄る。
プライベートルームを使う理由は人がまわりにいると落ち着かないから、只それだけの理由だ。
しばらくすると周防が部屋に入ってきた。
『待たせたな』
周防はテーブルに烏龍茶とペペロンチーノのパスタをを置くと椅子に座り胸ポケットからセブンスターを取出した。
『周防‥相変わらずヘビースモーカーなのか?』
『まぁな…タバコは俺のエネルギー源だからな、禁煙したらストレスで病気になっちまうよ』
『ははは、お前ならありえるな』
その時プライベートルームのドアが開きスタイル抜群のグラマーな女性が入ってきた。
『変わらないわね…柴島』『お前もな、結城』
周防はくわえていたタバコを勢い良く灰皿に押しつけた。
『お前!!こんな美人と知り合いなのか!!』
『まぁな』
周防は立ち上がり結城に向かって手を差し伸べた。
『僕は周防秀一と言います柴島とは昔からの馴染みでして、どうぞ宜しく。』
『私は結城理江と申しますこちらこそ宜しく。』
周防は結城と握手を交わすと、飲み物を持ってくると言いプライベートルームを後にした。
結城は柴島と向かい合った椅子に座り一枚の写真を柴島に見せた。
写真には外国人らしき人物と見覚えのある人物が写っていた。
『一昨日、東京で撮った写真よ』
『こいつは‥。』
『十中八九奴に間違いないわ…柴島‥奴の狙いは間違いなくあなたよ。』
『復讐か‥例え果たしたとしても虚しさだけが残るというのにな‥。』
『それは復讐を果たした者が言う台詞よ‥あなただってそうだったじゃない。』
柴島は3年前の…自分の運命を変えたあの日の出来事を鮮明に思い出した…。