第一章
うるさい目覚ましの音で、私は目を覚ました。
夏休み最後の日というのに、盛大に寝坊してしまった自分に腹が立つ。
溜息と共に、ゆっくりと起き上がった。
それにしても、我ながら変な夢を見たなぁ…。
昔っから訳の分からん夢は何度か見たけど、あんなに意味不明な夢を見たのは生まれて初めてだ。
いつもなら、ぼんやりとしか覚えてないはずなのに、今日見た夢は鮮明に覚えている。
……………。
「えーい!考えてても仕方ない!」
大声を出すと同時に、暑い部屋から勢いよく出た。
廊下に出ると、リビングから漏れてるクーラーの涼しい空気が流れている。
はぁ…。クーラーもあと数日でお休みかぁ…。
階段を下りて、リビングに入る。
お兄ちゃんが誰かと電話している。
顔がすっごく楽しそうなところから見て、最近できた彼女かな?
あーあ、いいよねー、幸せ者っ!
冷凍庫を開けて、残り一つのアイスを取り出した。
お父さんとお母さんは、多分仕事に行ったんだろうな。
ふふんっ。子供は仕事がないから、本当に楽だ!
いまのうちに、この楽しさを味わうのさ!
「それじゃ、また明日な」
お兄ちゃんはそういうと、携帯を閉じた。
アイスを持ちながら、私はお兄ちゃんをからかう。
「彼女とですかぁ?」
「その顔、めっちゃ腹立つなぁ…」
「結婚式は、私にブーケを投げるように彼女さんに伝えといてね」
「こいつっ」
お兄ちゃんは私の頭を軽くたたくと、二階に走って行った。
高校生にもなって、照れやなところは本当に変わらないねぇ。
中学生の私にからかわれとあっちゃぁ、お兄ちゃんもまだまだ未熟者!
暇だ…。
宿題は去年痛い目にあったから、今年は7月中に終わらせた。
夏休み最後の一周間で、汗だくになりながら徹夜した去年の夏と同じ思いなんてしたくないっ!
友達に電話をかけようにも、何だかめんどくさいしなぁ…。
「あー、本当に暇だよね、お兄ちゃん!」
「人の部屋でごろごろしながら何言ってんだっ」
お兄ちゃんの不機嫌な言葉に、私は空気を読んで口を閉じた。
だって、リビングや私の部屋でごろごろしてても、誰もいないしなんか虚しいもん。
お兄ちゃんは、もくもくと勉強している。
「………彼女かわいい?」
私の質問に、お兄ちゃんはブッと吹き出した。
ここまで単純だと、笑いを通り越してちょっと呆れる。
「お~ま~え~な~」
お兄ちゃんは顔をひくひくさせて、私を睨んだ。
まったく、彼女ができてうれしい癖に。
私がニヤニヤしてると、お兄ちゃんは携帯電話を投げてきた。
キャッチして開くと、待ち受け画面にお兄ちゃんと一緒に女の人が映っている。
背中までありそうな長い髪を、サイドテールにゆるく縛っていて、とても優しそうな顔立ち。
「お兄ちゃんには勿体ないねェ」
「返せ!」
形態を取り上げられてしまった。
大人気なーい。