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輪廻の檻 ―異世界で再会した幼馴染は、俺を知らない敵だった―  作者: あすらりえる
第一章_転生者の原罪

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第4話:託された命、安息の微笑

 ルクスは、全身の力を振り絞って放った光の剣をゆっくりと下ろした。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 地面に剣を突き立て、荒い息を吐くルクスの耳に、負傷した海里の弱々しい声が届いた。


「あの……魔物を退けるなんて、さっきの一撃……すごい威力だったな……」


 ルクスが彼の身体を見れば、脇腹にかけて酷い裂傷を負っており、出血多量でこのままでは長く持たないだろうと直感させた。


「ああ……光の魔力を、剣に収束させた僕の……得意技だよ」


 ルクスも口元を押さえて血を吐きながら、海里の元へ向かってきた。


「すまない、僕を助けるために、君に深手を負わせてしまった」


 海里は、その言葉にゆるゆると首を横に振った。


「俺が勝手に……乱入したんだ。それをルクスが……責任に感じる必要はないさ」


 それは己の信念に基づいた行動だという意志が垣間見えた。ルクスは、海里の顔を見つめながら、彼の素性を問うた。


「海里……君は何者なんだ?」


 海里は、かすれ声で答えた。


「俺は……転生者だ。教団に売られそうになって、逃げてきた……。その途中でルクスと……あの魔物を見つけて、首を突っ込んだ結果が……このザマさ」


 ルクスは、心底驚愕したように目を見開いた。


「転……生者だって? どうして……僕を助けてくれたんだ? 」


「なんでだろうな。転生者はそんなにも……危険な存在なのか?」


 海里は、自分の中の疑問を問い返した。


「過去に、第一転生者(だいいちてんせいしゃ)と呼ばれた転生者がいたんだ。その人物の悪評は今も残ってる。その第一転生者の復活を謳う輪廻教団(りんねきょうだん)に、君は売られそうになったんだね……」


 吐血を繰り返しながら、痛みに耐えるようにゆっくりと海里に近づいてきたルクスの身体を見て、海里は絶句した。


「ルクス……何だよ、その傷は!? 何で、そのケガで……動けていたんだ!?」


 ルクスのマントと鎧が隠していた深い傷。腹部は大きく抉られ、血が滲んでいた。ルクスもまた深手を負っていた。


 それは致命的な傷だった。海里はルクスの傷に驚愕し、自身の身体の状態を一瞬忘れてしまった。


 ルクスは、力なく笑った。


()()()()()()()()()()()を受けてしまってね……。僕に力を貸してくれる精霊に痛覚を麻痺させてもらったんだ。でも、それも限界だ。このままだと……二人とも、死ぬね……」


 海里は、ルクスの周りを点滅するように漂う、小さな光の粒に目を向けた。


「その……周りで光ってるのが……精霊なのか?」


 ルクスは、その問いに、微かに驚いた表情を見せた。


「……見えるのかい? ……それだけで、十分すぎる素質だよ」


「そう、か。……死ぬ前に……知りたかったかもな……」


 薄く笑う海里に、ルクスがはっきりと告げた。


「大丈夫さ、海里。君は死なない」


「え?」


 言葉の意味が分からず、疑問を呈した海里に、ルクスは剣を地面から抜き、両手で大切そうに抱えながら、その光沢のある刃に、自らの血を滴らせた。


「精霊たち、今まで僕を支えてくれて、ありがとう。僕の、最後のお願いだ。僕の力と記憶、そして残る生命力を、彼に、海里に託してくれ」


「何を言って、ルクス。……あ」


 不意に、自らの身体が、内側から熱を帯び、傷が癒されていくことが感じられた。それがルクスが精霊に頼んだ影響だと理解できて、彼に問わずにはいられなかった。


「なんで、俺を助けようとするんだ!? 昔いた転生者は危険だったんだろ!? 俺を助けたことで、この世界を乱すかもしれないんだぞ!」


 ルクスは、海里の疑問に、穏やかな笑みを浮かべた。


「海里。君が転生者かどうかは……関係ないよ。売られかけたのに、君は迷わず……僕のために身を挺してくれた。そんな君に……僕は死んでほしくないんだ」


 ルクスの言葉は、海里の心を強く打った。しかし、今、起きていることは、海里にとって受け入れがたいものだった。


「自分の生命力を……俺に託すなんて、傷を負ってるルクスが、すぐに死んでしまうじゃないか!」


 海里の言葉に、ルクスは薄く笑みを返した。


「このままなら……二人とも死を待つだけさ。僕は、君を信じているよ。でも……転生者だと打ち明けるなら、信頼できる人間に限定するんだよ」


 一度、言葉を区切ったルクスは、吐血を堪えて話し続けた。伝えられることは伝えていこうというかのように。


「輪廻教団は……君の存在を知れば、必ず利用しようとするだろう。……気を付けるんだ」


 海里の目には、急速にルクスの身体から力が抜け、命の灯が消えようとしているのが分かった。ルクスの周りを漂っていた精霊たちの光も、悲しみに満ちたように点滅を繰り返していた。


 ルクスは、最後の力を振り絞るように、海里の顔を真っすぐ見つめた。


「君には……この世界は、苦しく、生きづらい世界かもしれない。それでも、君に生きていてほしいと思うのは、僕の……エゴだ。どうか、生きて……」


「待て、ルクス……逝くな」


「兄さん、ジュノア……ごめんよ……」


 ルクスは最後に震える手で懐から何かを取り出して見つめていた。


  挿絵(By みてみん)


 その直後、ルクスの身体から力が抜け落ち、地面に倒れた。


 彼の死に顔は穏やかで、安息の微笑みを浮かべていた。


 ルクスが倒れて暫くしてから、海里は身体を動かせるようになった。ルクスが命を託した結果、彼の傷は完全に塞がっていた。


 短い時間だったが、互いに信頼し合える、良い関係を築くことができたと海里は感じていた。できれば、互いの事情や、この世界のことをもっと語り合いたかった。


 海里は、ルクスの遺体をリグリア王国へと送り届けたいと考えた。しかし、それが難しいことをすぐに理解した。


 逃げ出したロルカ村には、おそらく輪廻教団の人間が到着しているだろう。もし迂闊にその近辺を彷徨えば、再び捕らわれの身となるかもしれない。


 そうなれば、ルクスの遺体を送り届けるどころではない。まして、この場所に長く留まることも危険だった。いつ、あのサメ頭の異形の魔物が戻ってくるとも限らない。


 地中に潜行する魔物の前では、ルクスの遺体を土に埋めて弔おうとしても、掘り起こされ、食い散らかされてしまう。自らの命を犠牲にしたルクスに、そのような辱めを受けさせたくなかった。


 海里の周囲に、微かな光を放つ無数の精霊たちがチカチカと集まり始めた。


「俺の考えていることが分かるなら、力を貸してほしい。彼を弔いたいんだ」


 海里の意思を察したように、精霊たちは海里の右手に集まっていく。掌は、微かに熱を帯び、光を放ち始めた。


 海里はその光を帯びた手を、ルクスの遺体にそっとかざした。精霊たちの力を借りた光は、輝く炎となり、ルクスの身体を包み込む。彼の身体はゆっくりと、輝く炎の中へと消えていった。


「ありがとう、ルクス。俺を助けてくれて。この命を決して無駄にはしないと誓う」


わずか一時間に満たない出会いだった。それでも、見知らぬ自分を迷わず信じ、笑って逝った男のことを、海里はもう忘れることはない。


 輝く炎の中でも残った彼の鎧の一部を拾い上げ、手近な土を掘り起こしてその上に置いた。そして、最期まで彼の傍らにあった剣を握りしめた。


「俺の剣は折れてしまったから、すまない。暫く借りていくよ」


 その時、海里は足元の地面に、何かが光っていることに気づいた。それは、小さな水晶のペンダントだった。


 水晶には、繊細な羽根の模様が丁寧に刻まれていた。おそらく、ルクスが最期の瞬間に握りしめていたものだろう。


 海里はそれを拾い上げ、裏返してみる。そこには、「―ジュノアへ―」と、簡潔で、しかし深い愛情を感じさせる言葉が刻まれていた。


 海里自身にも、今はもう会うことの叶わない幼馴染のペンダントがある。


「……ジュノア」


 その名を指でなぞる。同時に、自身の懐にある幼馴染の形見に触れた。 届けるべき場所がある。伝えなければならない最期がある。 海里は水晶細工のペンダントを握りしめ、懐へと仕舞い込んだ。


 この時、海里は、自身の身体に起こった劇的な変化に、まだ全く気づいていなかった。


 彼の髪の色は、元来の黒から、かすかに光を帯びたアッシュブラウンへと変化していた。そして、彼の瞳は、薄い黄褐色(ヘーゼル)の光を秘めて輝いていた。しかし、その変化に海里自身が気づくのは、もう少し先の話となる。


 ルクスの墓標に一礼した海里は、彼の遺志とペンダントを胸に、この森を抜け出すために一歩を踏み出した。


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