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模擬戦の裏で


「さて、どうなる。」


 静かに息を吐く。説明を終え、訓練場の外周まで戻る。

 ガリウスは遠目で武器を選んでいる新入生を見る。いや、正確には珍しい黒髪の少年を見ている。


(やれないことはないと思うが…。)


「考え事かね、ガリウス。」


 不意に声をかけられ、思考が途切れる。


「ローグ将軍。どうしてここに…?」


 色の抜け始めた茶髪と髭、目尻に深い皺の刻まれた初老の男性。自身の上官であるローグがそこにいた。

 人が近づいていたこともそうだが、本来この人は試験官ではない。この訓練場にくる用事は無かったはずだが…。

 あくまで公の場だ。驚いて上官に砕けた話し方をしそうになるが、咄嗟に取り繕った。

 将軍は周りにいた試験官に、目で離れるように促した。他の試験官は慌てて距離を置く。


「仕事で来たわけではない。もう少し楽に話せ、いつも通り。」


「そういうことならお言葉に甘えて。」


「それで、さっきの質問の答えだが…お前が目にかけている子がいるという噂を聞いてな。」


「目にかけた子だなんてそんな…。」


「隠さぬでも良い。他言はせぬ。」


 鋭い視線でこちらを見てくる。

 隠し通すのは無理そうだ、誤魔化したところで信じてもらえないだろう。


「そうですね…色々教えこみました。」


「ほう。」


「正確には俺とレリックの二人で、ですが。」


 そう言うと、将軍は少し驚いたように目を見開き、笑いながら言った。


「はっはっは、お前たち二人でか!随分な入れ込みようだな、もしやあの時の子か?」


「ご名答。」


「そうか、もう5年も前になるな…。二人いただろう、女の子はどうした?」


 将軍は苦い顔をしながら思い出している。

 5年前のあの日。将軍は先に避難した人を保護し、こちらに向かっている途中だった。

 彼は魔法師であり軍人として、国民を守ることを信念としていた。

 しかし被害は甚大、思うところがあったのだろう。あの事件の後、将軍は原因究明と魔法師の育成に注力するようになった。


「アヤメはこっちにはいません。」


「まぁあの子はそうなるか。――しかし、よく入学させたな。いつからルミナスに好意的になった?」


 そう言って目を細め、怪訝そうに俺を見る。


「正直迷いました。でも、”教会”が手を出せない場所としてここがベストでした。」


「他のところでも良かったのではないか?それこそ…」


「もちろん考えましたが、ここなら牽制もできる。どれだけ隠そうとしても、あの才能は隠しきれませんから。」


「なるほどな…して、あの少年はどこまでやれる。」


 将軍はまるで品定めをするかのようにヨヅキの方を見たあと、ちらりと視線を向けてくる。

 

「どうでしょう。俺にも分かりません。」


 教えはしたが付きっきりだったわけではない。肩をすくめながらそう答えた。特にここ一年は忙しく、ろくに見ることができていない。


 (見てない間に変な癖が付いていなきゃいいが。)

 

 そう考えていると、訓練場で案内係が指示をしている。どうやら始まるようだ。


「…あの少年が当たるのは、シュウ・ブルベルトという者だ。」


 様子を見ていると、将軍が教えてくれる。


「その少年について何か知っているので?」


「詳しいことは知らぬ。ただ、北でギルドからスカウトしてきたらしいぞ。」


「ギルドからですか?」


 話を聞いて驚いた。スカウト自体は珍しいことではない、見込みのある者や才能あふれる者を度々ルミナスはスカウトして入学させている。

 ただ、意外なのはギルドに入っていたという事実。要するに民間で魔法師として活動している組織の所属だったのだ。


「儂も聞いたときは意外だった。だが、聞くにシュウという少年は魔法師として教育を受けたわけではないらしい。いわば傭兵みたいなものだな、金稼ぎのために働いていたという。民間と協力した際に見つけ、そのまま引き込んだらしい。」


「あぁ、なるほど…。」


 ルミナス魔法学園は他の育成機関とは違う仕組みがある。

 魔法師という職業は魔物と戦ったりなど命の危険が伴う。そのため、最初にある程度の費用はかかるものの、在籍中は本人や家族に金銭の支払いが行われる。

 在学中にお金をもらって魔法師を目指し、卒業してきちんと箔がつけば魔法師としてより稼ぐことができるようになる。そのため、家計が苦しいものや家族を養うために早くからここへ入学するものも少なくない。


「俺はどうかと思いますけどね。」


「無論だ、とはいえ魔法師が少ないのは事実。実践経験のある有望な人間は特にほしいだろう。」


「実戦経験者と当たるとは…運が無いな、あいつも。」


 ヨヅキの方を見てみると、槍とバックラーを持っているのが見える。

 盾の使い方は基礎だけ教えた。しかし武器を片手で使うには技量が足りない。魔力での身体強化が使えないなら筋力もまだまだだ。

 自分なりに工夫したんだろう。左腕に通して武器は両手で扱えるようしている。


「槍…レリックと同じか。だがあのバックラーはなんだ?お前らは使わんだろう。」


「盾は基礎だけ教えたので使えはすると思います。両手で武器を持てるよう選んだのでしょう。工夫は悪くないが…無い方がいい。盾が無くても十分守れるはずです。」


「ほう、ではなぜ?」


「多分ですけど、あいつビビりましたね。全く…。」


 思わずため息が出る。確かに使うなと言った覚えはなかったが…。

 最低限動きを理解させるために教えただけに過ぎない。おざなりだ。


「剣は教えなかったのか?」


「教えました。しかしこの先、魔物との戦いで生き残るなら最初は槍の方がいい。剣はしばらく使うなと言ってあります。」


「なるほどな、これからか。」


 話をしているとヨヅキの名前が呼ばれる。

 将軍の言った通り、相手はシュウという大柄な少年だ。


「始まりそうだな。儂もこのまま見物させてもらおう。」


「そうですね、いったいどこまでやれるのやら…。」


 その直後、訓練場に開始の合図が聞こえ、鈍い音が響いた――。



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