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夕焼け 2

 

 目を覚ますと、ベッドの上だった。

 ヨヅキが照明のまぶしさにうめいていると、聞き覚えのある声がかけられる。


「お、目が覚めた?」


 声の主を確認すると、少し離れたところで座っている人物を見つける。

 あの狼から助けてくれた金髪の男だ。


「アヤメは…?」


「大怪我したのに真っ先に気になることがあの子のことか。あの子は無事だよ。ほら、そこで寝てるだろう?」


 促されるまま見れば、ベッドの脇で腕枕をして寝ているアヤメがいた。

 どこにも怪我をしている様子はない。

 その様子を見て、ヨヅキは深く息を吐いた。


「たくさん泣いててね、全然離れようとしなかったよ?」


「助けてくれて、ありがとうございます。怪我も手当してもらったみたいで…。」


 背中を切り裂かれる大怪我をしていた。しかし不思議と痛みを感じない。

 あれからどうなったのかわからない。ただ、治療をしてもらい助かったのだと理解した。


「お礼が言えてえらいね、小さいのに敬語もしっかり使ってて関心だ。俺はガリウス。」


「あ、俺…ヨヅキって言います。」


「よろしくヨヅキ君。早速で悪いが、一つ間違いを正さなきゃならない。君を治療したのは俺たちじゃない。」


「え?」


 ガリウスの発言に首をひねる。

 ヨヅキは。助けてくれた後にガリウスが治療してくれたと考えていた。さっぱりと否定される。

 到底、放置しておけば塞がるような傷ではない。

 ならばいったい誰が――。


「確かに魔物からは助けた。だが傷が深く、出血が多かった。子供の君だと大人よりも猶予がない。正直、俺は治療ができるやつのとこに連れていっても間に合わないと思ったよ。」


 その話を聞いて、背筋が冷える。

 全身が寒く、体は全く動かない。目は開けていられず、周りの音すら聞こえないあの感覚。

 だとすれば疑問が残る。

 誰かが治してくれなければ、ヨヅキは文字通り死んでいたはずなのだから。


「…なら、何が起きたんですか?」


「その子だよ。」


 ヨヅキが恐る恐る聞くと、何でもないかのように答える。

 まるで、アヤメが治したと言わんばかりに。


「まさかアヤメが?」


「そうだ。魔力、ないし魔法については学校とかで聞いたことあるかな?」


「はい、一応…。」


 魔法とは、魔力を使って実現できる不思議な力のこと。

 人や動植物には多少なり魔力が流れていおり、魔力の使い方を学び、訓練で誰でも魔法を使えるようになる。

 魔法や魔物のことは学校で学ぶが、だからと言って使い方を知っているわけではない。


「まぁ、君は子供だし難しいことまで知ってるとは思っていない。俺があの魔物を斬って君たちを助けたのも魔力や魔法によるものだ。ただ、簡単に言うと俺が使えるのは攻撃とか戦うための魔法でね。傷を治したりするのは専門外。だから、俺では君のことを助けることはできないと思った。」


「そう、なんですね。でもじゃあどうやって?」


「だから、そこで寝てるアヤメちゃんが君を魔法で君を治したのさ。」


「はい?」


 言ってる意味が分からなかった。

 アヤメも当然魔法については知っている。しかし、魔法どころか魔力の使い方すら学んだことはないはずだ。小さいころから一緒にいるが、今までも使っているところを見たことはヨヅキにはない。


「なんとなく言いたいことはわかるよ?君たちはまだ魔力すら使ったことすらないはずだ。訓練しないと使えるようになんてならない。」


「なら、どうして。」


「正直俺も信じがたいが、アヤメちゃんは魔法を使って君を治したんだ。…嘘は言ってないよ、俺だって最初は目を疑ったさ。だが事実、君はこうして生きている。」


 そう話すガリウスの表情は真剣で、冗談や嘘を言っているようには見えない。

 

「君が気を失った後、アヤメちゃんは泣きついてたんだ。俺は助からないと思っても、そのまま置いていくなんてひどいことはしない。だから、周囲を確認した後にアヤメちゃんと君を担いで戻ろうとしたんだ。その時に俺も気づいたんだ、魔法が使われた痕跡と中の傷がふさがってることに。」


 ヨヅキはただただ驚愕し、何も言わず聞くことしかできない。

 ガリウスはヨヅキが聞いていることだけ確認して続ける。


「とりあえず急いでここに戻って、魔法で治療ができるやつに見せた。すると跡は残っているが傷そのものは塞がっている、失ったはずの血液も問題なし。意識を失ってるだけときた。そいつが言うには、君を治した魔法は神聖魔法っていう珍しい魔法なんだって。」


「神聖魔法?」


 聞き覚えの無い単語が出てきて、ヨヅキはようやく口を開く。

 

「そう。魔法には種類がいろいろあるんだけど、その中でも使える人はかなり珍しい魔法の一つ。回復魔法も珍しいんだけど、それよりもっと珍しいものさ。使える人も、使えるようになるのも珍しい魔法。」


「そんな魔法が…。」


「ほかに人はいなかった。俺の目で確かに確認している。ということはつまり、そこで寝ているアヤメちゃんが、とっても珍しい魔法をあり得ない才能で使いこなして君を治した。それ以外考えられないのさ。そして、これもまぁ凄いことだけど、もう一つ不思議な点がある。」


「もう一つ?」


 まだあるのか、とヨヅキは思った。理解しがたい状況に、初めて聞いた単語。頭の中で何も整理がつかない。


「過剰な魔力は人には有害でね、毒みたいなものさ。魔力の使い方を知らない一般人が魔物に傷つけられるとそりゃ大変。どんな影響があるかわからない、だから治療する前に少しでも外に出したりするんだけど…。」


 そう言ってガリウスはヨヅキを見る。

 今まで向けられたことのない厳しい目つきを向けられ、ヨヅキは体がこわばるのを自覚する。


「やっぱり影響が出てないね。生まれつき魔力に耐性のある人はいるけど、これも神聖魔法の力なのか…。まぁどっちにしろ、めちゃくちゃ幸運だった。だから、その分のお礼をするならその子に。俺らは本当なら助けられないはずだったんだ、むしろ遅くなってすまなかった。」


 じっくりと観察したあと、ひどく申し訳なさそうに、ガリウスは頭を下げる。

 ガリウスが言った通り、運が良かっただけで本来なら死んでいたのだろう。しかし、来てくれなければヨヅキだけでなくアヤメも確実にあの狼に殺されていた。


「それでも、あなたが来てくれなきゃ俺とアヤメは死んでました。本当に、ありがとうございます。」


「…怖がらせちゃったかな、ごめんね。まぁ大丈夫そうだし、もう少ししたら家族のところへ帰れるよ。」


「家族、父さんや母さんは無事なんですか!?ほかのみんなも…!それに、街もどうなったんですか!?」


 家族と聞いて思い出す。大きな声が出たが、ヨヅキにはそんなことを気にしている余裕などない。

 そう、魔物が街を襲ったから逃げていた。ならば、家族はどうなったのか。街はどんな状況なのか。街に住んでいた人たちはどうなったのか。

 命が助かったという安心の後に、それ以上の不安が襲ってくる。


「結論だけ言うと、君の両親は無事だよ。他にも生存者はいるけれど…怪我をした人がたくさんだ。ただ、こことは別のところにいる。街を襲った魔物は俺たちがある程度倒したけれど、別の部隊がまだ調査中。」


 父さんと母さんは生きている。それを聞いてヨヅキは少し安堵する。しかし、話している途中に間があった。

 ガリウスの表情は険しい。言葉を選んでくれているということが、ヨヅキにはわかる。

 想像がつかないくらいの被害が出ているのかもしれない。


「ん…?」


 話している途中で、寝ていたアヤメが目を覚ます。ヨヅキの声で起きたのだろう。

 長いこと寝ていたのか、頬が赤くなっている。


「アヤメ、おはよう。」


「ヨヅキ…?良かった起きた!!」


 アヤメが飛びつく。心配だったのだろう、ヨヅキの胸元から鼻を啜る音が聞こえてくる。

 勢いよく激突され少し傷むが、それ以上にほっとした。不安だった気持ちが、幼馴染と再び触れて会話できるという事実で心が穏やかになる。


「アヤメが魔法で助けてくれたって聞いたよ、ありがとう。」


「わた、私なにもしてなくて、動かなくなっちゃって、神様に助けてくださいってお願いすることしかできなくて…。そしたら、ヨヅキの背中の血が止まったから…。」


「それなら、アヤメがお願いしてくれたおかげだ。ありがとう。」


 泣いているアヤメを宥めながらお礼を言う。そのお願いがおそらく神聖魔法なのだろう。

 ただ、本当に無事でよかった。混乱していたが、アヤメの姿を見てヨヅキも落ち着く。頭を撫でながら話していると声がかけられる。


「アヤメちゃんも起きたことだし、親御さんに無事を伝えに行こうか。」


「父さんと母さんはもいるんですか…?というか、ここはどこなんですか?」


 落ち着いてきたとはいえ、結局のところ何がどうなってるのか詳しく分かっていない。

 眠っていたからなのか、気にかかることが多い。そんなヨヅキに、ガリウスは優しく話す。


「少しは落ち着いて、興奮しすぎても体に良くない。気になることがあるのはわかる、移動しながら説明するよ。一人でも歩けそうかい?」


 ヨヅキは頷いてガリウス手を取り、アヤメとともにゆっくりと立ち上がった。

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