逃走?
「右!!」
ジェンが『道標』を使って先導する。支持の通り分かれ道を右に曲がり、直線を再び走る。止まらずに走り続けているが、小鬼は依然として追いかけ続けている。
「出口までどんなもんだ!?」
「まだ先!必死に走って!」
シュウが出口を聞くが、帰ってきたのは希望の無い答えだった。
俺たちの方が小鬼より足が速く、まだ追いつかれずに逃げ続けることができている。ただ走るだけならとっくに撒くこともできていただろう。
厄介なのは、魔窟が暗く入り組んでいることと、小鬼の体力が尽きる気配がないこと。上下の傾斜や細かい曲道などで、どうしてもトップスピードを維持し続けることが難しい。小鬼共はそんな道でも行きも絶やさず追ってきている。
「魔法師はどこいったんですか!」
「行きは会えたんだけどなぁ…!」
そしてさらに不運だったのは、先に入った魔法師と出会えていないこと。マシューの話では万が一の時には助けてくれるという話だった。しかしいなければ助けてもらうこともできない。
三匹程度ならまだしも、あれだけいては数の暴力で擦りつぶされるのが目に見える。本当に逃げることしかできないのだ。
「ギィ!」
直線を走っていると、開けた場所に小鬼が見えた。数は二匹、すでにこちらの方に気づいて走ってきている。
「そこ通らなきゃなんだけどなぁ!」
「そのまま走ってくれ、左は俺が!」
「私は右を!」
「退かせたらすぐ走れよ!無理に殺さなくていい!」
迫ってきている小鬼に向かってジェンを追い越してルートと共に駆ける。いちいち止めを刺していては、後ろの大群に追いつかれてしまう。
顔を目がけて槍で薙ぎ払いを繰り出した。
「ギッ!」
「ボギャア!」
振り抜いた槍は顎から目にかけて大きな傷をつけ、怯んだ小鬼をそのまま蹴とばす。少し遅れて右の方から悲鳴が聞こえ、ちらりと目をやれば、ルートは小鬼の腹を槌で叩き飛ばしていた。
「そのまま走って!」
「「了解!」」
ジェンの指示に従い、武器を担ぎ直して再び走り始める。
とはいえかなり走り続けている。戦闘もした後だ、魔力での強化があっても体力をかなり消費している。そもそも魔力だって無尽蔵ではない。この追いかけっこもいつまで続けられるのか。
「いたぞ!」
そう考えていた時、向かっている先から人の声が聞こえる。明かりを持っているようで、その人物を俺たちも視界にとらえることができた。魔法師だ。
後ろを走るシュウが声を上げる、
「すんません助けてください!!」
「なんだあの大群!?」
「よく生きてたなあの子たち!こっちだ!!」
後ろの小鬼たちを見て、急いで向かってくる。
俺達をあっという間に飛び越し、魔法師たちは魔法や武器を振るって大量の小鬼を蹴散らしていく。
あっという間に数を減らしていく小鬼を守られながら見ていると、何かの鳴き声が聞こえた。
「ギャギ!ギャアギャギャ!!」
鳴き声の主は大群の一番後ろにいた呪術師だった。その叫び声が聞こえると、魔法師を襲っていた小鬼たちが一斉に来た道を走っていく。
「何だ!?」
「撤退…?小鬼が?」
相手をしていた魔法師たちも、突然のことに驚いている。
「追撃は?」
「この子たちの安全が最優先だ。我々も撤退するぞ。」
魔窟を走り続けて疲れ切った俺たちは、魔法師に助けられ一緒に外へと向かった。
*****
外に出た後、入り口から少し離れたテントで休む。怪我がないか診てもらっていたが、幸い誰も怪我をしていなかった。
「何だったんだよあれ…。」
「わからん…。」
「しばらく走りたくない…うぅ…。」
俺たちはなんとか魔窟の逃げ切ることができた。あの大群を思い出し悪態をつくと、シュウも疲れた顔で首を振る。アヤメはかなりきつかったのか、水を飲みながらグロッキーになっている。
全員無事でだったのは、魔法師の人と運よく合流することができたからだろう。
彼らは俺たちの捜索をしていた部隊らしい。彼らが来なければ小鬼の大群に飲まることは想像に難くない。
「君たちは無事そうだね?良かった。」
休んでいるテントの暗幕を開き、マシューが入ってきた。後ろから俺たちを助けてくれた魔法師の人も一緒にやってくる。
「マシュー先生、聞いていた話と違うのですが。」
「危ない目に遭わせてごめん。そのことで少し話を聞きたいんだ、結構急ぎで。」
ルートが抗議しているが、マシューはそれどころじゃないと言わんばかりに話を続ける。
「話ですか…?といっても俺たち大量の小鬼に襲われたとしか…。」
「それが問題でね。魔法師の報告では呪術師らしき個体がいたと聞いたけど、君たちは見た?」
「呪術師…確かにいました。」
「間違いない?」
呪術師がいたことを伝えると、念入りに確認される。圧のあるマシューの雰囲気に、次の言葉が出なくなる。
「間違いないです。」
「炎の魔法?で攻撃されたので確実にいました。」
そんな俺の様子を見て、ルートとジェンも補足してくれた。
「炎…呪術師の魔法。それはどうしたの?」
「僕が『防御盾』で。…厳密には魔本のやつですが。」
ジェンがそう伝えるとマシューは何かをぶつぶつとつぶやいた。そして、後ろについてきていた魔法師の二人に何かしら指示を出す。
「引き続き調査は進めるが、深入りして刺激しすぎないように。小鬼は見つけ次第殺してくれ。」
「了解しました。」
「それと、ここの魔窟を調査した斥候に学園に戻り次第聞き取りをしてくれ。」
その指示を受けて、魔法師たちは慌ただしくテントの外へと出ていった。落ち着いたようなので、残っているマシューに聞く。
「先生、あの小鬼たちは何だったんですか?」
「…被害にあった君たちには、現状判明していることを話しておこうか。」
テントの外を確認してから、少し間を置いてマシューは話始める。その表情からは、真剣だが何か悩んでいる様子だ。
「まず大量の小鬼について。本来あそこまで多くならないように魔法師が数を調整している。…はずなんだが、それが行われていなかった。原因は、中の魔法師が死んでいたこと。」
「なっ…。」
「そんな…。」
いきなり予想もしていなかった事実を伝えられ驚愕する。あれだけの小鬼を簡単そうに相手取っていた魔法師が死んだのだという。
いくら個人差があると言えど、魔法師になった人が死ぬとは思えない。俺とアヤメ以外の面々も、声には出さなかったが、驚きの表情を見せテントには静寂が訪れる。
「僕たち、詳しい話聞いても大丈夫なんですか?」
沈黙を破ったのはジェンだった。
「もちろん。ただし口外は禁止。最悪何かしらの犯罪が行われたかもしれないからね。」
「…わかりました。」
「現状は魔法師が魔窟内で死んだことしかわからない。とはいえ、ただの小鬼にやられるとは思えない。原因は調査中だから、今は待つことしかできないかな。」
「他に魔窟に入った生徒はいるんすか?」
「いる。君たちほどじゃないが結構な数に襲われて怪我人も出た。混乱が広がらないために事故として現状は説明する予定らしいが…今後どうなるかは正直なんとも。」
「そうですか…。」
怪我人が出たという話を聞いて気が重くなる。俺たちは何とか無事だったが、あそこで助けてもらえなければどうなっていたのか…。
「何か続けるだなんて無理だし、今日はこれで終了。危険な目に遭わせてごめんね、もう少ししたら全員移動してもらうから準備しておいて。」
そう言ってマシューはテントの外へと足早に出ていった。
いつも読んでくださりありがとうございます!
投稿遅れました…。
風邪には気を付けましょう。




