ゴブリン退治
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「…逃げるぞ!!」
大量の小鬼の集団を目の前にして、シュウの号令とほぼ同時に俺たちは逃げ出した。
何匹いるのか数えることもできない。大群を背にして全員で逃げながら、先頭を走る後衛の二人に声を掛けた。
「あいつらに魔法撃てるか!?」
「僕は無理!」
「私が…!」
魔本を開き、『道標』を唱えるジェンはそちらで精一杯の様子。代わりにアヤメが魔法の準備を始め、振り返って『火炎』を放つ。
「ギャアアアア!」
アヤメの魔法が小鬼に直撃し、体を燃やされた個体が悲鳴を上げる。突然仲間が燃やされ、近くにいた別の小鬼は怯んで足を止めた。
しかしその後ろから追いかけてきている魔物には関係が無い。前の小鬼を踏みつけ、お構いなしに追っかけてくる。
「ゲギャギャア!」
「うそ…。」
「全く止まりませんよ!?」
「ふざけんな!」
俺は慌てて『火炎』を放つために足を止めたアヤメを引っ張る。
近づいていた小鬼をシュウとルートが追い払うが、まともに相手していたらきりがない。
「出口まで必死に走れぇ!」
初めての魔窟での思い出は、魔物との命がけの追いかけっこになりそうだ―――。
*****
――時は魔窟に入ったところまで遡る。
「そういえば、ジェンとルートは戦う時はどういう感じなんだ?」
魔窟を進んでいる最中、シュウが二人に聞く。パーティを組む時には気にしていなかったが、ルートとジェンがどんな戦い方をするのか知らない。
魔物と遭遇したらパーティで連携が必要だ。いきなり完璧な連携ができるとは思ってないが、知らないよりは断然マシだ。同じ思考に至ったのか、ルートが口を開いた。
「私は魔力を使いながらこれで叩きます。あなたたちは?」
そう言ってルートは手に持っている槌を指でトントンと叩き、俺達の方を見てくる。
「説明すると同じだなオレら。実際に戦闘にならないと詳しいことはわからんか。」
「そうだな。ジェンは?」
「僕はちょっと魔法が使えるってくらい。剣も使えるよ。」
「魔法使えんのか。」
「本当にちょっとだけだけどね。『保護壁』、『加速』とかの支援系。『加速』は触らないと他人には使えないけど。」
「近接も行けるサポーターって感じか。」
「そんな感じ。そんでアヤメちゃんは?」
「私は…魔力撃てるくらい。基本的に魔本でなんとかしようかなって。」
アヤメは一瞬こちらを見て、少し間を空けてから答える。
アヤメは魔力の扱い方を知っているが、神聖魔法以外の魔法を使うことはできない。
そしてその神聖魔法もガリウスにできる限り使うなと言われている。理由は教えてもらえなかったが、使えることがばれると面倒なことになるらしい。
とはいえ、命の危機が迫ったら遠慮せず使えと言っていた。最終的な判断は俺たち任せになるらしい。
「少し意外ですね。」
「とんでもない魔法使えると思ってた。」
「オレも。」
「え、じゃあこれからに期待…?」
そう言ってアヤメは魔本を開いて色々と読み始める。魔法が書かれてるとは言っていたが、読んで意味があるのだろうか。
それからも大きな声ではないが、話しながら魔窟を進み続けた。
いつ遭遇するか予想なんてできない。警戒を解くことはできないが、それでも話すことで緊張が解れた気がする。
先頭を歩いていたシュウが姿勢を低くして武器を構えた。
息をひそめて足を止め、同じように準備をする。良く見えないが、物音と鳴き声のようなものが聞こえる。
「おい、いるぞ。」
「数はわかりますか?」
「暗いからよく見えん。できるなら奇襲したいが…。」
「アヤメ、ジェン。魔法は使えるか?」
「準備する。」
二人に聞くとアヤメが返事をして本を捲る音が聞こえてくる。合図があればいつでも攻撃を行えそうだ。
待っていると、ジェンに肩を触れられた。
「全員分『加速』かけたけど、長続きするわけじゃないから気を付けて。僕は『防御盾』の準備しておく。」
「ありがとう。」
「こっちに向かってんな…。合図したら魔法撃ってくれ。当たんなくてもオレらは前出るぞ。」
「了解です。」
正面から足音が近づいてきている。足音が複数あることから、一匹ではなさそうだ。
正真正銘初めての魔物との戦闘。パーティに緊張した空気が走る。魔力で体を強化をして槍を握ると、ギリギリと手元から音が聞こる。
どのくらい経っただろうか。
ぼんやりと異形の足が見えた瞬間に、シュウが合図を出した。
「今!」
「ギ?」
「『火炎』」
声に反応した魔物が、不思議そうな鳴き声を上げる。アヤメが放った『火炎』で明るくなり、鳴き声の主が見えた。
小鬼だ。外でも見たものと同じ魔物。それが三匹。
「ギアアアアアアア!?」
「ゲ?」
「ギ?」
『火炎』は幸い手前にいた一匹に着弾し、体を燃やしている。残りの二匹は突然仲間が燃え始めた状況を飲み込めていないらしい。
三人同時に残っている二匹に目がけて飛び出す。魔力で強化と『加速』の効果で、通常では考えられない速度で駆ける。
「ゲヒャッ…。」
左の一匹の腹を槍で突くと、両手に皮膚を破いた感触が二度伝わった。速度も相まって槍が小鬼の胴体を貫通したのだろう。
血が滴り落ちるがまだ息がある。小鬼は刺されたことを認識し、手に持っていたこん棒を振りかぶろうとする。
すぐに飛び退こうとしたが、振りかぶっている途中で小鬼の頭が、果実のように潰れる。ルートが赤く染まった槌を振り抜いていた。
「ゴギャア!」
一瞬で仲間を殺され、残った一匹が俺たち二人に飛び掛かる。しかしこちらに飛んでくる途中で、背中から鮮血が噴き出た。
シュウがその大剣を振り上げ、胴体を真っ二つに切断した。二度と付いてくることの無い足を眺めながら、最後の一匹も地面に倒れこんだ。
「助かった、ありがとう。」
「速いですね、どういたしまして。」
助けてもらったお礼をすると、ルートに褒められた。速さには自信があるので少しうれしい。
「オレはお前にすら追いつけなかったがな。」
剣についた血を払いながらシュウも近づいてきた。
たしかに同時に飛び出たはずなのに一番最後に倒したのはシュウだ。
「あなたはパワーが桁違いですから、少しくらい譲ってください。」
「確かにルートの言うとおり。それはそうとして魔石取り出そうぜ。」
そう言って三匹の魔石を回収しにかかる。回収するためには基本的に解体して自分で見つけるしかない。
真っ二つになった奴は比較的楽に取れたが、アヤメが魔法で倒したやつは苦労した。この小鬼の死体は中まで丸焦げで見つけにくい。
「アヤメちゃんよく当てたね。」
「ギリギリ軌道修正できたから何とか…。」
「そう簡単にできるもんなの…?」
アヤメの発言にジェンが引いているように見えるが、気のせいだろう。
少し時間がかかったが、無事に魔石を三つ回収できた。
「解体、結構大変だな。」
「魔物によって構造違うらしいですし、勉強するのもおすすめですよ。」
「僕も勉強しなきゃかな…。えっ?」
「マジ?俺勉強やりたくねぇ…。」
「私も教えるから勉強はちゃんとして。」
そんな会話をしながら、俺たちは来た道を戻るために振り返―――
「『防御盾』!!」
―――ろうとしたとき、後ろにいたジェンが魔法を使う。
その直後、俺たちの正面に展開された魔法の盾が何かを弾いた音がした。周囲が明るくなり、温度が上がる。目の前の光景と状況で、ジェンが防いだものを理解する。
『防御盾』が弾いたのは、炎だ。
「なんだ!?」
「追加の小鬼!なんだけど…!」
「まさか、呪術師…?ここには普通の小鬼しかいないはずでは!?」
「どうするシュウ。やるのか?」
「いけないこともないが…。」
何が起こったのかを理解しても、この状況を飲み込むことはすぐにできない。
それはそうとして対処しなければいけない。距離が遠いが、見えているのは炎を繰り出してきた一匹だけ。シュウも同じ考えなのだろう。
防御盾で防げたし、やれないことはなさそうだが―――。
「ねぇ待って。数…多くない?」
「「「「え?」」」」
アヤメの発言に四人で聞き返す。
魔窟内はまだ暗いが、まだ燃えている炎のおかげで少しだけ先を見ることができた。
一、二、三、四、五…。
数えている最中にも、ぞろぞろと小鬼が奥からやってきているのが見えた。
決して呪術師一匹ではない。先ほど殺した小鬼の数なんて比にならないほどの大群が、視界に映る。
「…逃げるぞ!!」
大量の小鬼の集団を目の前にして、シュウの号令とほぼ同時に俺たちは逃げ出した。




