足切り
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今月は週一ペースになってしまうかもしれない。
過剰な魔力は様々な物に影響を与える。それは、地形であっても例外ではない。
地中を流れる魔力や、魔物が放つ魔力が影響を与えることがある。それが魔力による汚染。
洞窟などが汚染されるといつの間にか魔物が住み着く。魔物が集まると魔力はさらに多くなり、地形は今までとは全く違うものへと変貌する。
やがて溜まった魔力で魔物が繁殖するようになり、さらに数を増やしていく。
そのようになった場所を魔窟と呼ぶ。
端的に言えば魔物たちの住処である。
*****
男たちは魔窟を走っていた。
三人は悪党だった。入ったギルドから金を盗み、一緒に行動していたパーティの仲間を殺して逃げた。
捕まることなく逃げることができたが、指名手配された。そのため街には出入りできず、安全ではない郊外で生活をしていた。
人も多くない適当な田舎で最初は過ごしていたが、街に行った人間には指名手配犯だとバレた。
幸い、魔法師に通報される前に黙らせることはできた。しかし同じようなことがあっては面倒なので、野外で生活するようになった。
一般人が寄り付かず、魔法師が来た時にも察知できるような場所に男は心当たりがあった。
郊外の魔窟、浅い場所なら魔物が来ても対処できる。三人なら余裕だ。適当な岩陰にでも穴を掘れば、暗い場所なのもあってそうそう見つからない。
魔力に汚染されるのは避けたかったので、時たま外に出て川で水を浴びたりしていた。
決して快適ではなかったが、不自由のない生活を送ることができていた。
魔物をたまに殺して魔石を採る。食べれそうなら食べる。
金があれば行商人から物を買い、なければ殺して奪う。
物を買いに行くと、行商人が近いうちにルミナスの生徒が魔窟に来るらしいと言っていた。
ガキだけなら問題ないが、どうせ引率で魔法師が来る。
見つかっては面倒だ。念のため少し深いところで身を潜めておこう。
そう考えた自分たちを殴りたかった。浅瀬だから問題ないと思っていた。
「どうしてあんなのがいんだよ!」
「潜りすぎたんじゃねぇのか!!」
「んなわけねぇだろ!」
男たちは魔物から逃げていた。
今まで出会った魔物なら、三人で無傷で対処できた。ある程度の実力があるという自負もあった。
だというのに、浅瀬で尻尾を巻いて必死に逃げることしかできない。
その事実に苛立ち、命の危機に瀕しているという状況も相まって、仲間同士での罵倒が始まる。
「おい!行き止まりだぞここ!」
先頭の男の一人が声を上げ、周りを見渡す。
見ればどこかに続いているような道はなく、ただ壁が広がっていた。
魔窟は暗い、少しでも隠れられるように明かりを最低限にして進んでいた。だから迷ったのだろう。
「お前の案内だろ!」
「何も聞かずに走ったのはそっちだろうが!」
「とりあえず引き返すぞ!止まってる場合じゃないだろ!」
口論を始めた二人をなだめ、一人は引き返そうとした。
確実に追われていた。こんな場所で立ち止まってる暇はない。
そう考え、後ろを振り返ろうとした。
「…あれ?」
先ほどまで通ってきた道が見当たらず、不思議に思う。
目の前には暗がりが広がっていた。
「おい、どうした?」
「行くなら早く行けよ、後つっかえてんだよ!」
「いや、道が」
言葉が途切れ、代わりに何か液体が垂れる音が聞こえる。
男たちは言葉を待ったが、その続きはいつまでも来なかった。不安に思い、明かりをつけて様子を確認する。
「おい…ひっ。」
「何が…あ。」
明かりに映ったのは、首のない仲間の姿だった。大量の血が地面に滴り落ちている。
原因はすぐに分かった。それをやった犯人も、仲間の死体とともに視界に入ったからだ。
魔物の大きな口からは、同じ色の液体が垂れている。
「や、やめろ!来るな!!」
「頼む見逃してくれ!お願いだ!!」
残った男たちは命乞いをするが、魔物に言葉など通用するはずもない。
口の中のものを飲み込み、魔物はゆっくりと男たちに近づく。
魔窟に響いた悲鳴は、他の誰にも聞かれることはなかった。
*****
各自で選んだ武器を持ち、魔窟へ移動する。
道中は馬車に乗って一時間半ほどだった。
選んだ槍を持って、準備をしているとシュウから声を掛けられる。
「ヨヅキ、お前バックラーはどうしたんだ?」
「それが使うなって言われて…。」
「はぁ?誰に?」
「マシュー先生…いや、厳密には俺の師匠みたいな人にか。」
シュウが不思議に思うのも無理はない。
無いものがあれば言うようにと言っていた。つまりは自分の好きなものを使ってよいということなのだろう。
ヨヅキ自身、訓練場と同じように槍とバックラーを選んでいた。しかし、出発する前にマシューから呼び出されたのだ。
『呼び出してすまないね。君の師匠から言伝がある。』
『しばらく盾を使うな、だそうだ。ということでその持っているバックラーは回収させてもらおう。』
いきなり言われたときは何が何だかわからなかったが、ガリウスが言っていたんだということは理解できた。
従っておかないと後が怖いので、大人しく指示通りにすることにした。
「そうなのか…意図はわからんが、しばらくは槍だけってことか。」
「そうなるな。まぁ言われたとおりにやってみることにする。」
「まいいか。準備終わったら行こうぜ。戦闘科はあっちの方だし。」
ほどなくして準備を終え、支持されていた場所へと向かう。戦闘魔法科と支援魔法科で場所が違うので、アヤメとは先ほど離れていた。
全員が集まると、マシューが説明を始めた。
「君たちにはまず我々がとらえた魔物を殺してもらう。捕えてあるのは小鬼、弱いが数が多く色々な場所に生息する魔物だ。」
魔物の名前が出ると緊張感が走ったが、気にせずマシューは続ける。
「殺すといっても、戦ってもらうわけではないので安心してほしい。君たちの手で、時間内に生きている小鬼を殺すだけだ。簡単だろう?無事に殺せた者には、早速魔窟に入ってもらう。とりあえずは以上だ、順番に行うので呼ばれたら出てきてくれ。」
マシューがそう言うと若干安心したような声が聞こえ始めた。正直、戦うことはできても緊張はするので少しありがたい。
「時間内に殺せなかった人はどうするんですか?」
一人の生徒が声を上げる。
マシューは殺せた者は魔窟を入ると言っていたが、できなかった人については何も言っていない。何かしら別の訓練でもあるのだろうか。
「一応、時間を決めていてね。時間内に殺せなかった者は居残りだ。今日中に殺せれば、魔窟には入れなくてもとりあえずセーフ。」
「じゃあ…」
「ただし、今日殺せなかった者は戦闘魔法科を辞めてもらう。はっきり言って邪魔だ。」
安心したような声を出した生徒に、ぴしゃりと言い切る。
今までの穏やかな口調で話していたのとは一変して、冷たく突き放すような言いぶりだった。
「さて、始めるよ。」
生徒が抗議する間もなくマシューは進める。
マシューや他の先生から、次々と生徒の名前が呼ばれ始めた。
*****
「結構な数が脱落していくな。」
「なぁシュウ。魔物殺すことに抵抗ある人多いのか…?」
「オレに言われてもわからんぞ。」
同じ戦闘魔法科の生徒が、何人も小鬼の前から去っていくのを見て、シュウと話す。
時間いっぱいまで何も動けないままの生徒や、傷を与えて止まってしまう生徒。中には地面に吐いている者までいた。
結論から言うと、俺は問題なく小鬼を殺すことができた。
本当に生きて捕らえらているだけ。急所に武器を突き立てれば一分もかからずにことが終わる。
槍越しに手に伝わる感触は少し気味悪かったが、終わってみれば引きずるようなことでもなかった。
ちなみに、シュウも問題なく殺していた。特に心配はしていなかったが。
問題なのは、他の生徒たち。
魔力を使えるという生徒も相当数数がいたが、そのうちのほとんどが時間内に殺すことができていない。最後の人が終わると、それぞれ別々に集められる。
殺せた生徒たちの前で、再びマシューが話始めた。
「だいたい20人くらいか、今年は上々だね。初めから小鬼を殺せる生徒がここまでいるのは珍しいかな。」
「えっ。」
マシューの発言に驚く。個人的には結構な人数が脱落したと思ったのだが。
「時間を掛ければ殺せる子は出てくるよ?それでも最初から殺せますってのは珍しい。去年は3人しかいなかった。そして、この時点で生徒のコースはだいたい決まったよ。おめでとう、君たちは戦闘魔法科の一番上のコースでスタートだ。」
そう言いながらパチパチ拍手をして俺たちを讃えている。
あまりにも緩いので若干不気味になってくるけども。
「ここまで多いのは驚いたけど、問題ない。告知通り、君たちにはパーティを組んでもらって、魔窟に入ってもらいます。」
*****
そう言って魔窟になっている洞穴の入り口前まで誘導された。
俺たちが移動してくるよりも先にいた生徒たち、というようりもアヤメがいるのが目に入った。
支援魔法科の生徒だ。
「さて、今ここにいるのが今日魔窟に入ることができる人たち。生徒同士でパーティを組んでもらうんだけど、いくつか条件がある。」
「条件?」
隣にいたシュウが聞き返す。
「人数と割り振りについてだ。パーティの人数は最低四人、最大六人であること。そして、両学科の生徒が必ず一人以上パーティに入っていること。同じ学科だけで固まらないでね。理由は後で教えるけど、とりあえずこの二つの条件を守ってくれれば誰と組んだっていい。」
その条件を聞いて、俺は真っ先にアヤメとシュウを見る。二人共目が合ったので、少し安心した。
とりあえず二人とはパーティを組みたい。条件を満たすためにはあと一人必要だ、どうしようか。
「各自パーティが組めたら報告しに来てね。――スタート!」
マシューの合図で、生徒が一斉に動き出した。
余談ですが、魔力で汚染された場所からはいきなり魔物が生まれることもあります。
怖いね。




