困惑
「…どうしよう。」
人だかりの中心地、周りの人からたくさん声を掛けられる。
アヤメは困っていた。
*****
――時間は少し遡る。
「支援魔法科の皆さんには、魔力を測定していただきます。」
ヨヅキと別れ、案内された場所に向かった。
程なくして移動が終わったのか、説明が始まる。
人が多いけど、戦闘魔法科に比べると少ないように見えた。
「魔力の扱い方を知らない人もいると思いますが大丈夫です。」
そう言って説明係の人は何かを持ってきた。
見ると、台座の上にガラス玉のようなものが乗っている。
「これは魔力量を測る測定器です。水晶に人が触れると魔力に反応して発光します。」
そう言って水晶に触れると、水晶が光を発した。
「光の強さでその人がどれくらい魔力を持っているかがわかります。結果次第で今後のコースが決まりますが、少なくても訓練するうちに増えますので気にしないでくださいね。それでは、名前を呼ばれた人から前に出てきてください。」
そう言って何人かの名前が呼ばれ始めた。
測定器は複数台あり、まとめて測定を行うらしい。
呼ばれた生徒が水晶に触れると同じように発光している。
人によって光が弱かったり強かったりといろいろ。
中には眩しいくらい光らせている人が何人もいて、記録をしている人が感嘆の声を上げている。
「次…ハクダアヤメ、さん?」
「はい。」
名前を呼んだ人が不思議そうにしている。
今までに聞こえてきた名前は名字が後ろに来ているようだった。
私たちが住んでいた所とは違うんだろうなと思いながら、返事をして前に出た。
待っている間も視線を感じたけれど、立った時により見られているのを自覚する。
珍しいのはわかるけれど、いい気分はしない。
二人でいる時はまだ平気だったが、見られるのは気恥ずかしい。
「緊張しなくても大丈夫です。ゆっくり呼吸しながら手を置いてください。」
「ありがとうございます。」
私の様子を見て、記録係の人が声を掛けてくれた。
緊張とは違うのだけど、お礼を伝える。
深呼吸をしてから、水晶に触れる。
自分の魔力はどのくらいなのだろう。
「…あれ?」
水晶は何も反応しない。
ペチペチと水晶を叩いても、何も変化は見えない。
近くにいた人も不思議そうにこちらを見た後、近くに来て水晶を見る。
「魔道具の故障か?いや、水晶は魔力を受け付けている…。ハクダアヤメさん、魔力の使い方は学んだことはありますか?」
「一応あります。」
「ということは魔力は使えているはず。いや、まさか…。」
私の返答を聞いて、神妙な顔をして考え込んでいる。
アルマさんに使い方は教わった、魔法だって使えないことはない。
なのに何故か水晶が反応しない。
焦燥感が溢れてくる。どうして反応しないの。
「もう一度手を置いて、魔力を込めることはできますか?イメージ的には魔力を込めるように…。」
「は、はい。」
周囲からもざわつきが聞こえてくる。
何かしらのトラブルがあったことを察しているのだろう。
最悪。ただでさえ見られていたのに、注目なんて浴びたくない。
言われた通り、水晶に手を当てて魔力を込める。
魔力の使い方は教わった。どうやればいいのかはわかる。
自分の魔力をそのまま水晶に込めた。
――その瞬間、視界が真っ白に覆われた。
「え?」
「なっ!?」
自分以外の声が聞こえる。記録係の人の声。
眩しい。水晶が光っている。
慌てて手を離すと、光は収まった。
激しい光で見えなかった視界が、少しずつ戻ってくる。
水晶は元に戻り、そのそばで蹲っている人が見えた。
記録係の人だ。目元を抑えている。
「だ、大丈夫ですか。」
「うっ…だ、大丈夫だ…。」
近づいて声を掛けると、うめき声とともに返答が来る。
「素晴らしい、魔力量だ。そして扱う技能も、なるほど…。」
何かに合点がいったように、自分のことを褒めてくれている。
程なくして周囲が騒がしくなってきた。
終わったのなら、早く戻らせてほしい。
「あ、あの。測定は終わりですか。戻ってもいいですか。」
「あぁ、戻って大丈夫です。本日は測定で終了ですので、このまま退席しても構いません。」
「ありがとうございます…。」
許可がもらえたため、慌ててその場を離れる。
早くこの場から離れたかった。さっさと戻って、ヨヅキと合流したい。
早歩きをして反対側、戦闘魔法科が案内されていた場所へ向かう。
「君、さっきの見たよ。凄い魔力の量だね。」
「え、あぁ、ありがとうございます。」
先に終わっていた男子生徒に話しかけられる。
何か話したそうにしていたが、お礼だけ言って避けようとした。
「ハクダ君と言ったかね。遠くからでも眩しいくらいの光は中々見ない、少し話をしたいのだが…。」
生徒を避けた先に、教員らしい壮年の男性がいた。
避けた先に人がいて、咄嗟に足が止まる。
「扱い方も知っているようだ。師は誰かな?」
「アルマさんという方に。すみません予定があるのでまた後で…」
「え!アルマさんと知り合いなの!?あたしファンなの!」
断りを入れている最中に、後ろから声を掛けられる。
同じタイミングで終わったのか、女子生徒が後ろから近寄ってくる。
「あの、後でも。」
「美しい髪色と瞳だ。ぜひこの後一緒にお茶でも…。」
「予定が…。」
気を取られているうちに、さっきの男子生徒が横に来て話しかけられる。
道をふさがれる形になってしまった。
予定があるから行かせてほしいと言おうとすると、さらに人が来て声を掛けてくる。
「どきたまえ、そこの彼女は僕が学園を案内するんだ。」
「魔法について興味はあるかね?この学園で学べる魔法について色々と説明してあげよう。」
「珍しい髪だよね、出身どこ?私そんな髪色初めて見たよ。」
「あの…。」
やけに偉そうな話し方をする人、若く見える教員、容姿について聞いてくる別の生徒。
タイミングを逃してしまった。
次第に人が集まり始め、いろんなところから声を掛けられる。
人に囲まれるのは苦手だ。どうしたらいいのかわからなくなる。
測定が終わった生徒も続々とこちらの方にやってきた。
こっちで見なかった生徒たちも奥の方に見える。
全て無視し、押しのけながら進むのはとてもじゃないが無理。
アヤメは完全に抜け出せなくなってしまった。
その結果が今の人だかりだ。
*****
眼前の景色を見て、困っていた。
「…どうしよう。」
立ち尽くし、困り果てていた。
どうにかして人だかりから脱出しようと考えていると、奥の方が少し騒がしくなっている。
「―――ません。通ります。」
どうやら誰かがこちらに向かってきているらしい。
よくこんなにたくさんの人を掻き分けてこれるものだと感心する。
(正直、誰が来ても嬉しくないけど。)
最初に話しかけてきた人たちは、もはや私を放って言い争っている。
誰が先に声かけたとか、有意義な時間がどうだとか。
予定があると言ったのに、誰も聞く耳を持っていないらしい。
感情を出さないようにしているが、眉くらいは顰めても文句は言われないだろう。
「はぁ。」
思わずため息が零れる。
どうしてこうなるのか。
「おい、あぶねぇな。」
向こうの方を向いてぼーっとしていると、搔き分けてきた誰かがたどり着いたらしい。
最初に声を掛けてきた生徒が押し出され、後ろを見て文句を言っている。
「思ったよりかかった。だがようやっと来れたな。」
掻き分けてきたのは背の大きな赤っぽい髪の男子生徒だった。
見たことすらない顔、戦闘魔法科の人なのかも知れない。
今度は何の用だろう。私は用事ないのだけど。
「どうなってんだか…。助かったよ、シュウ。」
大きな生徒の後ろから幼馴染の声が聞こえた。
「ヨヅキ?」
確かめるように名前を呼ぶ。
目を向けると、人だかりから弾かれるように出てくる少年がいた。
周りにいた人までもが一斉に彼を見る。
「何やったのお前…とりあえず、行くぞ。」
「うん。」
困惑している彼の誘いを受ける。
嬉しくないなんていうのは訂正。
口角が上がりそうになるのを必死に抑えながら答えた。
幼馴染が来てくれるのなら、とっても嬉しい。
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次回は土曜に更新予定です。




