第一話 獅子王レウス
地道に討伐をこなし「獅子王」と呼ばれるまでに登り詰めたレウス。難しい討伐に向かうに当たって強いと噂の魔法少女、ミアとタッグを組むことに。
報告を上回る強さに苦戦するレウスだったが、ミアが切り札のスキル「入れ替わり」を発動させ…!?
※なろうには1話のみ掲載します。
昔から、「勤勉な子だね」と良く言われてきた。
私は、冒険家の父と、ギルド受付の母の元に生まれた一人息子であり、小さい頃から冒険家になるための努力を怠ってこなかった。
獅子獣人として、生まれ持った力をみんなのために使わなくては。そんな思いで、遊びにも、恋愛にもうつつを抜かさず、鍛錬に取り組んでいた。
そして、私自身もまた冒険家の一人として世界に足を踏み出した。
地道に、ギルドのクエストをこなしてきた。
未開発地点の調査に向かったり、
新種のモンスターを発見したり、
発生した強いモンスターを狩ったりした。
それを、真面目にこなし続けて15年。
いつの間にか、周りからは尊敬されるようになり、『獅子王レウス』と言う呼び名さえも付いた。
とにかくみんなの役に立ちたい。
その一心で頑張り続けたのが伝わったのだと思い、胸が熱くなった。
これからも、みんなの役に立ち続けよう。
そう意気込みながら、今日も街のギルドに顔を出す。
「おはようございます、ギルドマスター」
「おお、獅子王レウスか。ちょうど、受けてほしい依頼があってな」
「私に出来ることなら、何でもお受けしますよ」
「はっはっは、お主がそう言ってくれるなら心強いな!それでは依頼について説明したいのだが…」
そう言って、ギルドマスターは説明を始める。
「今回の依頼なんだが…最近、ここから30分ほど歩いたところにある洞窟に、強大なドラゴンが住み着いてしまっていてな、それを討伐してほしいと思っている」
「だが…強大という報告を受けている通り、今回の相手は手強い。そこで今回お主にはタッグを組んで、討伐に向かってほしい」
「タッグ…と言いますと?」
「今回組んでもらう相手はミアという魔法使いの少女だ。もうそろそろ来ると思うのだが…」
その時、ギルドの扉が開く。
18歳ぐらいだろうか。ピンク髪の、人間の少女が立っていた。
「こんにちは!」
ギルド内にざわめきが生まれる。
「おい…めちゃくちゃ可愛くね?」
「噂で聞いたことがある…確かミアって…」
「若いのに、かなり強いらしいな…」
どうやらこのミアという少女、結構名の知れた存在らしい。
「こんにちは、ミアさん。私は、今回タッグを組ませてもらう『レウス』という者です。この度はよろしくお願いしますね」
膝をつき、目線を合わせながら話す。
「レウスさん、よろしくお願いします!それと…私の方が年下なので、敬語使わないでください!」
「…ああ、失礼したね。そちらも敬語でなくて大丈夫だよ」
「私は敬語の方がしっくりくるので、敬語のままでいかせてもらいますね!」
「なるほど…把握したよ。…それじゃ、早速出発しようか」
ギルドマスターとギルド内の冒険者に挨拶を済ませ、ギルドを出る。
ミアの歩幅に合わせながら、隣を歩く。
「ミアさん、ギルド内でかなり強いって噂がされてたね」
「そうですね!魔法でも格闘でも、十分戦える自信はありますよ!」
(格闘でも…?)
違和感を感じ取った私は、ミアの方をチラリと見る。
格闘をやっていそう、と言えるような発達した筋肉はパッと見て見当たらない。
(どういうことだろう…いや、あまり気にしすぎるほどの事でもないか)
そうこうしている内に、洞窟へと到着する。
中は複雑な構造になっており、二人で協力し合いながら進んでいった。
ガキィン!!
「レウスさん、後ろ危ないです!」
「火炎」
ブフォオ…
「ありがとうミアさん、助かったよ」
「いえいえ、こんなの朝飯前ですよ!」
何とか、洞窟の最奥まで辿り着く。
すると。
そこには、報告されていたように、ドラゴンがいた。
途中、モンスターと闘った物音で、すでに存在に気づかれていたのだろう。
こちらを警戒している。
グルル…
「ミアさん、基本的に私が引きつけるから、その隙を狙ってくれ」
そう言って私はドラゴンに飛びかかる。
吐いてくる炎を華麗に避けつつ、弱点である顎の下を狙う。
過去にドラゴンは何体も討伐してきたことがある。
渡り合える自信はあった。
しかし。
ガキィン!!
剣が、ドラゴンの手に弾かれてしまう。
(このドラゴン、今までのものより圧倒的に強い…!!)
「ミアさん!このドラゴン、異様に強い!十分に警戒してくれ!」
「なるほど、それなら…」
「レウスさんすみません、もうちょっとだけ粘っててください!」
「把握した…!」
ミアは何やら魔法の詠唱を始める。
(とりあえず、時間を稼いでミアさんに繋ぐ…ミアさんの切り札が何か知らないが、きっと相当なものなのだろう…!)
(私はみんなを守るために…戦い抜く!)
迫ってくる尾を何とか剣で受け止め、弾き飛ばされるのを防ぐ。
そのままドラゴンに接近し、腹に一撃を加えようとしたその時。
背後から、不意の一撃。
(さっきの尾…完全に意識から抜け落ちていた)
体制が崩された所に、ドラゴンの手が迫ってくる。
(…まずい…)
(ここからどうすれば…)
回避しようのない攻撃に、思わず目を瞑る。
(申し訳ない、私はここまでだ…!)
「…詠唱、完了しました」
「精神交換」
その瞬間。一瞬視界が闇に染まり。
ガキキキキィン!!
何故か、私はドラゴンより少し離れた所に立っていた。
ドラゴンと戦っている、私の姿が見える。
そこに見えた私は、ものすごい勢いの剣技で、ドラゴンの攻撃を捌いていた。
(何が起こっている…!?)
そのまま、その私は。
ドラゴンの攻撃を全ていなし、躱し、剣で確実にダメージを与えていき…
倒してしまう。
…ドラゴンの体が、こちらに倒れてくる。
何故だろう。
足がすくんで動けない。
…そこに。
「…危ない!」
先ほどまで闘っていた私の体が、私をお姫様抱っこでドラゴンの影から救い出す。
「レウスさん…大丈夫でしたか?」
聞き覚えのある、喋り方だ…
「もしかして、ミアさん…?」
私の喉から、聞き覚えのある声が聞こえる。
(…え?)
そこで、視界に入るピンク髪にも気づく。
視線を下に向けてみると…毛皮のない、すべすべとした腕があり。
それと…胸がある。
「ええええええええ!?!?」
「びっくりしましたでしょう!これが、私の切り札なんです!」
「『精神交換』っていうスキルでー、小さい頃にこれを使って…」
そう誇らしげにミアは説明をするが、私の頭はそれどころではなかった。
今、私の体になったミアがミアの体になった私をお姫様抱っこしている。
小さい頃から、恋に走らないよう、全ての煩悩を取り払ってきた、つもりだった…
いや…そんな訳ない。
そんなこと…起こる訳がない、と理性が否定するのだが。
ドクン、ドクンと波打つ心臓には、言い訳できない。
目の前にある私の顔。
太くて頼り甲斐のある腕。
優しく語りかけてくれる、目の前の自分に…
(私…自分に恋してしまっている…!?)
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好評そうなら続きます。
カクヨムの方で執筆しております。
https://kakuyomu.jp/my/works/16818792438590338976
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