死にたがりの吸血姫と魔王とノーライフキング。異世界で出会ったら、死ねない会話劇が始まった件
※このお話は、死にたがり3人組のちょっとズレた会話劇です。
ギャグと、少しだけ切なさが混ざっています。
私はドジで勉強が苦手で、いわゆる冴えない子供だった。
普通のことが私には出来ない。成績表はいつもオール2で、唯一料理だけは得意。学校でのあだ名は「ドジ子」。そんな子供だった。
バカにされるのがもはや日常だった。
ある日……。
車の前に飛び出した、私の心の友――クロネコのみいちゃんを助けようと、反射的に体が動いた。
のろまな私が生きてきた中で一番素早く動けた日に、あっけなく死んだ。
私は死に際に「次は思い通りの人生を歩みたい」と願って、意識を手放した。
すると奇跡が起きた。
異世界で目覚めた私は、なんでも思い通りにできる力を持った吸血鬼として生を受けた。
だからこそ、前世でやりたくてもできなかったことを叶えようと、意気込んで動き始めた。けれど……。
欲しいものはすぐに手に入る。やりたいことは、思うだけで実現する。でも、なぜだろう。どれも心に響かない。達成しても喜びは一瞬で消えた。
何をしても空虚だった。
そして、今まさに私は出会って間もない少女に殺して欲しいと懇願している。 不思議なことに、少女も殺して欲しいみたい。 叶えてあげたいけど、むやみに誰かを殺める趣味は私にはない。
……まぁ、相手にはお願いしてるんだけどね。
「あなたなら私を殺してくれると思ったんだけど? あなたもなの……?」
「そうだ。もう魔王として生きるのは疲れた。でも私は……何度でも復活してしまう。忌々しいよ、ほんと」
「そう……。私はね、普通のことも出来ない……そんな人間だった。だから願ったの。思い通りに出来る力があればいいなって。でもそれは間違いだった。何をやっても満たされない、つまらない人生になっちゃった」
二人は互いを見つめた。
これぞ運命と言うべきなのか。
殺せる相手がいるのに、どちらか一方の望みしか敵わないなんて。
「ちょっとまった〜!!」
「ん?」
「なんだ……?」
彼女たちに割って入るように、甲高い叫び声が上がった。
声の主は一目散に二人の元へ駆け寄ってくる。
そして彼女も――
「はぁ……はぁ……。話は聞かせてもらいました……」
「ゾンビ?」
「ノーライフキングだ」
息を切らしてる彼女は、アンデッドの王らしい。
「二人が死ぬ前に私を殺してください」
今この時、三人の死にたがりが集結した。
「殺してくれって、あなたもう死んでるよね?」
「確かにもう死んでるな」
「へぁ!? いや、そういう種族的な事じゃなくってですね!」
「それにあなただったら、自分で死ねそうですけど?」
「キュウッ!」
う〜と地団駄を踏むゾンビ……いや、ノーライフキングさん。
「私、自害できないんです……」
「なんでよ?」
「お前はたしか、元聖女だったか?」
ぶんぶんと頷くノーライフキングさん。
「そうなんですよ! 私はルーミア教徒の聖女をやっていました。こう見えても生前は超優秀なバリキャリだったんですよ!」
「バリキャリ……ノーライフキングがバリキャリ……」
「そうなんです、バリキャリです」
「分かったからっ! で、なんで自害できないわけ?」
「いやー、もともと聖女でしょ? いわば神さまを信仰していたわけです」
「なるほど、な。魂まで消滅する。そういうことか」
意味深な理解を示した魔王。
「え? なになに? どういうこと?」
「ルーミア教徒は創造神ルーミアの庇護をもらってるんだ。それで、その中の教義に『汝、自らの命を絶つ勿れ。破り時、神の手を離れ、魂は永劫に彷徨うなり』とあるんだよ。要するに自殺したら輪廻転生から外される。そう書かれている」
首を横に振るノーライフキング。
「そんな甘いものじゃないんですよ。聖女っていうのは、神の愛し子――つまり眷属なんです。だから神聖な魔法も使えるんですけど、そのぶん、重い義務があるんです。力が大きければ、そのぶんルールも厳しくなる。神さまが定めたルールは絶対遵守なんですぅ〜」
「一人ぐらい破ってもダイジョブ……」
「それは一番の愚行だ」
断言する魔王さんに、こくこくと頷くノーライフキング。
「我は魔王だ。我もまた、神に作られた存在の一人。神から使命を押し付けられ、魔王として君臨し続けることを強要されているのだ。
だからこそ、分かるのだ。間違いなく罰を受けるとな」
「魔王さん……ぐすっ」
なんだか話がややこしくなってきた。
要するに、私は強すぎるから誰かに殺してもらう必要があって、魔王さんは死ねるけど転生するから死ねなくて、ノーライフキングさんは自分では死ねないってこと?
「これってつまり、誰も死ねないってことじゃあ……」
「いやいやいや! はい! 私、死ねます!」
「確かにノーライフキングなら……君なら殺れるだろう?」
……え? 私?
確かに。というか、確実にイケると思うけど――
「それはセコくないかな?」
「え?」
「いやだってさぁ〜、あなたが死んでも、私と魔王さんは死ねないじゃない? それって……なんか一人だけ楽してるっていうか……」
「確かにそうだな。 それに律儀にお前の望みを叶えてやる必要が私達にはない」
「えぇ〜!? そ、そんなぁ〜!」
情けない声を上げる元聖女。
しかし、魔王さんが言ったことに完全に同意である。それに、いくらゾンビみたいな見た目だからって、意思疎通できる元人間を殺したいとは思えない。
仮に覚悟を決めて手にかけたとして、私達はどうなる? 私達は……?
「それにさぁ……。あなたを殺したら、なんか罪悪感が残りそうなんだよね。 私も確実に死ぬるならいざ知らず、ちょっと躊躇しちゃう」
「でもでも、あなたも魔王さんにお願いしてるじゃないですか! なら死ぬ前に一人ぐらい、ひと思いにヤっちゃってもいいじゃあないですかぁ〜」
うるうるとした目で見つめてくる元聖女。
「ひとついいか?」
「どうしたの、魔王さん?」
「いや、そもそも君もなんか、死にたいにしては浅くないか?」
「は?」
魔王さんの発言に私はついムッとした。
うーんと考え込む魔王さん。
「魔王だからって誰かれ構わず殺すようなことはしたくないんだ。私だって……」
「えぇ~!? でもさ、魔王って凶悪で慈悲が無く、気分次第でなぶり殺す殺人鬼。そんな感じに教えてもらったからこうして会いにきたんだけど? それに唯一、殺してくれそうな力をもってるしさ」
そう言うと、魔王さんは少し引いたような表情になる。
「それって人間から聞いた情報じゃないか?」
そのやりとりに、元聖女が勢いよく割って入った。
「あ、それ間違ってますよ」
「なぬっ!?」
元聖女は身振り手振り交えて話し始めた。
「いいですか? そもそも魔王、そして魔族や亜人に先に手を出したのは人間の方なんです」
うんうん。と、魔王さんは頷いた。
「それは領土の拡張や奴隷を作る目的を正当化するプロパガンダの一端なんです。例えばですけど、攻めたい国がありました。でも相手は何もしてこなかった場合、攻める理由がありません」
「そうかな? 人間は理由もなく、ただそこにいるからってだけで他者を傷つけたりするんじゃない?」
「もちろんありますよ、そういうの。でもそれは個人レベルの話です。国が表立って戦を仕掛けるには、必ず“正当な理由”が必要なんです。それが魔族でも……。他国から非難されないように、口実を用意しなきゃいけないんです」
じゃあもうだめじゃん。
つまりは魔王は私を殺したくない。
話は終了、解散、てことじゃん。
「えっと……。どうする、私達……」
「うむ……興が削がれたようだな」
「じゃあ解散の前に私をひと思いにちゃちゃっとヤっちゃいましょう!」
やらんわ!
私は叫んだのだった。
吸血姫と魔王とノーライフキング。
三者三様の思いを胸に死にたがり三人組はその場を離れた。
直ぐに再会することも知らずに……。
──そして、三人が“生きる理由”を探し始めるとは、この時まだ誰も知らなかった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
このお話は一話完結の短編として書きましたが、もし楽しんでいただけたなら――
この三人が“仕方なく始める共同生活”を描く続編もご用意できます。
魔王軍? 勇者? シェアハウス?
そんな続きが気になる方は、ぜひ感想などでそっと背中を押していただけたら嬉しいです。
死にたがりたちの、ちょっと笑えて、ちょっと切ない物語をまたお届けできれば幸いです。




